第5話  一日目その3

『舞い踊る業火』



ショウマの前方から炎の柱が立ち上がる。

ショウマの背よりも高い柱だ。

炎が吹き上げて柱のように見えるのだ。

横に複数立ち昇る柱は炎の壁のようにも見えた。

それがショウマの前方から泉の方へと進んでいく。

全ての物を焼き尽くしながら。

炎の柱が吹き上げて消えていく。

“毒蛙”など一瞬で燃え尽きる。

炎のイリュージョンの様であった。




「何かスゴイ火燃えてなかった?

 火事になってない?

 大丈夫?」

ふらふらしながらショウマは思う。


「村で試さなくて良かった~。

 アレ絶対山火事になるヤツ。

 いたるところ燃えて、消せないヤツ」



「うぅ~、ダメだ。ふらふらする」

しゃがみ込むショウマ。



『LVが上がった』

『ショウマは冒険者LVがLV3からLV5になった』


「おっ、2LVランクアップ!

 あれだけ数が居れば当然かも」

ショウマは立ち上がる。


「あれ、身体が重くない?」


これはもしかしてレベルアップするとHP全快になるというアレ?

コオモリの時は大してダメージ喰らってなかったから気づかなかった


「そういう仕組みなんだ」


見回すと燃えカスになったカエルの死体だらけだ。

次の瞬間死体が消えていく。


チャリン

チャリーン


「おおっ!」

ショウマのポケットが小銭で溢れかえる。

なんだか重いものも入っている。


「うわ! 死体! カエルの死体! なんで」


ポケットにカエルの死体が入っていた!

捨てようとするショウマだが、ギリギリ思いとどまる。

カエルは死体と思えないほどキレイになっており、標本かオモチャのようだ。

戦利品だもの、何かに使えるんだろうとショウマは持っておく。



ショウマは次の目印を探す。

水場の方に蛍光ピンクが見える。


「何でこんな色?と思ったけど、

 見つけ易くていーね」


ショウマは珍しくご機嫌で泉に向かう。

LVはどんどん上がる。

好調なのだ。


水場は遠くから見て思った以上に大きく、湖と呼んだほうがいいかもしれない。

洞窟の中で光を反射して水面が美しい。

後方の岩肌から滝のように水が流れ出しており、湖に注ぎこまれている。

湖の中央には小島が有り、四方から小島へと続く細い橋がかかっている。

蛍光ピンクの矢印はその橋を指していた。



「うわ~。この橋、大丈夫?」


浮き橋だ。

木で出来た橋は浮力で水面に浮かんでいる。

小島に向かって繋がっており、両端には人の胸の高さに綱が張られている。

ショウマの目からはどう見ても安全そうに見えない。


「風魔法で飛んで行ったり出来ないのかな?」


しかしだ。

先刻試してみた『切り裂く風』は一撃でカエルを引き裂いた。

それをショウマの身体で試すワケにはいかない。



湖面が揺らぐ。


「うわ。何これ? 津波?」

湖面が大きく揺れ、水が溢れ出す。

湖の中から何かが現れようとしていた。




アヤメはやっと休憩に入る事が出来た。

冒険者組合近くの公園でサンドイッチをパクつく。


「はぁ~、シンドかった」

冒険者からの陳情がやたら多かったのだ。

依頼達成の報告はいい。

報告する冒険者も機嫌がいいし、アヤメも愛想良くなる。

失敗の報告や陳情は逆だ。

冒険者は機嫌が悪いし、アヤメだって自然対応が悪くなるというものだ。


「うぅ~、ストレス溜まる職場よねぇ」


地下迷宮の1階から地下2階へ降りる場所は一ヵ所しかない。

湖の小島だ。

そこに今までいなかった大型魔獣が出るというのだ。

2階より下層でしか達成できない依頼も有る。

依頼を達成できない冒険者達から依頼期日を延ばして欲しい、またはキャンセルしたいという話が多数届いている。

これがもっと下の階なら良いが、1階から2階に降りる事が出来ないとなると影響は大きい。


「それだけその魔獣が強いって事よね。

 やっぱり冒険者全員に特殊退治依頼出すのが良いんじゃないかしら」


冒険者は基本自分のチームの事しか考えない。

冒険者同士の順位争いも有るのだ。

協力して強い魔獣を倒そうという話にはならない。

そこで組合が冒険者に全員参加を要請して特定魔獣を倒すのに協力させるのだ。

緊急案件を抱えていたり、特殊事情が無い限り、冒険者に不参加は許されない。


でもキキョウ主任は反対している。


「冒険者全員参加は影響が大きすぎるわ。

 組合が選抜して腕利きの数チームだけに依頼する形くらいなら良いかもしれない。

 とにかくまだちょっと様子を見ましょう」


腕利きのチームを選抜という話になると絶対アヤメのところに文句を言いに来るヤツがいるのだ。

なんで俺たちには声がかからねーんだよ、というバカだ。

たくさんいるのだ。

なんでアヤメのところに!

キキョウ主任に言って!

そういう事になるのだ。

毎回のパターンでもう分かってるのだ。

アヤメは自分の想像に腹を立てながら思う。


「ううぅ~、

 早く片付かないかしら。

 “巨大猛毒蟇蛙”」




湖の中からショウマの前に現れたのはカエルだった。

ただのカエルではない。

大きい。

先刻のカエルよりはるかに大きい。

カエルの顔を見るのにショウマが見上げなければいけない。



「何これ?

 カエルなの?

 ていうか〇ジラの子供?」


カエルって上から見る事はあっても下から見る事はフツー無いよね

上から見るとイボイボで汚いカンジだけど下から見るとスベスベしてるんだ~


ショウマはのんきな事を考えている。


“巨大猛毒蟇蛙”は湖から陸地へ全身を表そうとしていた。

実に全長50mを超すバケモノだった。

彼が歩くだけで湖に掛かった橋が壊れそうなほど揺れる。

地面すら揺れているようだ。

その眼がショウマを睨みつける。

自分の一族を皆殺しにした者への怒りの眼差しだった。

幾多の冒険者を倒してきた巨獣がショウマを襲う。

その巨大な前足が振り下ろされる。


『凍てつく氷』


“巨大猛毒蟇蛙”は凍っていた。

体の下半身が凍り付いて身動きが取れない。


『業火燃焼』

“巨大猛毒蟇蛙”が燃え上がる。


『氷撃』

“巨大猛毒蟇蛙”は凍っていた。

今度は先ほどより範囲が小さい。


「なるほど

 『氷撃』が基本の攻撃、『凍てつく氷』がその上位だね」

 

“巨大猛毒蟇蛙”が暴れだす。

先ほどは半身が凍り付き、身動き取れなかったが炎により一度溶けている。

今は前肢が凍った程度の状態だ。

力を入れれば動けそうだ

“巨大猛毒蟇蛙”はそう思う。


『全てを閉ざす氷』


「これは『凍てつく氷』と同じくらいの攻撃力。

 見たところ範囲攻撃なのかな。

 このカエルバカでかいし、単騎攻撃なのか範囲攻撃してるのか良く分からないな

 あ 湖の表面も凍ってる。やっぱり範囲攻撃だね」


“巨大猛毒蟇蛙”は凍りついていた。

完全に身動き取れない。


ショウマは実験していた。

今は氷系の魔法を全部試してみるつもりなのだ。


「カエルと言えば理科の実験。

 試すのにピッタリな素材だよね」


“巨大猛毒蟇蛙”は焦っていた。

今まで冒険者は彼の姿を見ただけで逃げ出していた。

たまに攻撃してくる者がいても彼に取って大したダメージにもならない。

彼は初めて体力を大きく削られたのだ。

ショウマを憎々しげに睨み『毒の唾』を吐く。


唾というには巨大なそれ。

グラウンドに放水するシャワーのような毒水がショウマに向かって浴びせられる。


『氷の嵐』


毒水が凍って、地面に落ちる。


「これも範囲攻撃だね。

 威力は『氷撃』と同じくらいかな」


“巨大猛毒蟇蛙”は涙目である。

逃げようとするが、下半身が凍りついている。



「まだ試せそうだね。

 じゃ、本命行くよ」


名前的にヤバそうな魔法がまだ残っている。

ショウマはそれを試すつもりなのだ。



『絶対零度』


ショウマの耳から音が消える。

先ほどまで巨大カエルが暴れる音、足元の氷が割れる音が五月蝿かったのだ。

今周囲には一切の音が無い。

“巨大猛毒蟇蛙”は氷像になっていた。


「うわ!

 さっぽろ雪まつり」



巨大なカエルの氷像が崩れだす。

無数の氷の結晶が舞い落ちる。


「寒っ。

 もしかしてもっと離れて使うべきだった?」

 

後には何も残っていない。


ショウマは周囲を見回す。

 

「範囲攻撃だったが、単騎攻撃だったか、良く分からないな~」


「ケロッ…」


「うん?」


見るとカエルが倒れている。

“毒蛙”だ。

“巨大”ではない。

仰向けに倒れ弱々しくもがいている

今にも死にそうに見える。


「ケロッ」


「先刻の『絶対零度』受けたんなら死んでるよね。

 ならその前の範囲攻撃の巻き添えを食ったんだな」


ショウマはカエルを放置していこうとする。

今日はたくさん魔法を試した。

これ以上やるのはオーバーワークというモノだ。



『LVが上がった』

『ショウマは冒険者LVがLV5からLV12になった』


「ええっ、7LVアップ? 経験値大きかったんだ」


ショウマは知らない。

この世界の従魔能力発動には条件が有ると言われている。

その条件は二つ。

従魔師のレベルがそのモンスターのレベルを上回る事。

魔獣の体力を大きく削る、およそ10分の1以下にする事。

ショウマは知らない。

無数の冒険者の努力、永年の研究者の叡智で創られた記録によると“毒蛙”の魔獣レベルは5。

そして目の前の“毒蛙”は瀕死の状態になっていた。


「えっ」


ショウマに何かが語りかけたような気がした。


「主さま、助けて」


小さな声、いや本当に音が聞こえたわけではない。

心に語り掛けられた。そんな気がした。

カエルが仰向けになってもがいている。


「…ケロ…」


「今のって?」


ショウマはカエルを見つめる。

さっきも思った事を口に出す。


「カエルって内側から見ると意外とスベスベしててキレイだよね」



『“毒蛙”を仲間にしますか?』


突然機械的な声が鳴り響く。


「えっ。これ、もしかして?」


「えっ。でもどうしよう。最初の仲間がカエル? 最初はやっぱりオオカミとかネコじゃないの」


「…ケロ…」


カエルのもがきが弱くなっている。

先ほどまでバタバタしていた足の動きが遅い。


「うわ、仲間にする仲間にするよ~。

 どうすればいいの」


心の中に呪文が浮かび上がる。

いままでは浮かんだことの無い呪文だ。


『我に従え 獣よ』


ショウマは目を見開いていた。

この瞬間を一瞬も見逃したくない。


目の前にいるモンスターの身体が青い光に包まれ、見えなくなる。

光の奔流だ。

ショウマが眩しさに瞳の前に手をかざす。

と それは起こった。

青い光の中に少女はいた。

輝く頬、長い睫毛、腰はくびれ胸は大きく丸みを帯びている。

健康そうな美少女であった。


「キタ!キタキタ! キィータァー!」

ショウマは心の中で叫び声を上げる。


少女はゆっくりと瞼を開ける。

ショウマの方を見て、ニッコリ笑う。


「主さまですか。はじめまして」


「あ、ああ。はじめまして、ショウマです」


「ショウマ…さまですか。ワタシ、ショウマさまの事が好きです。ショウマさまの言う事なら何でもします」


「これだ!これこれ! こォーれェー!」

勢いあまって声に出して叫んでしまう。


「!」

少女は一瞬ビックリした顔をする。

ショウマが近づいて少女を抱きしめていたからだ。


「主さま…」

少女は太陽のような笑顔を浮かべた。


ショウマは抱きしめておいて慌てて飛びのいて離れる。


「まずい。今の痴漢? セクハラ? 事案発生?」

 

ショウマは少女の顔を窺がう。

怒った表情では無い。

きょとんとした顔だ。

なんで離れちゃったのかなぁ?という雰囲気。

首をかしげているのがカワイイ。


「ええと、ええと、キミは僕の従魔ってことでいいんだよね」


「従魔? 多分そうなのかな。

 そうだと思います」


「うん。じゃあ名前を教えてくれる?」


「ナマエ…名前 ドクガエルです?」


「それは種族名かな。僕はショウマ、君は?」


「?」


また少女は首をかしげる。

ナナメ45度の角度で首をかたむけて、頬に指を当てている。

背景に ? という文字が浮かんでそうだ。

カワイイ。


「これはアレかな。僕が名付けるとかいう仕組み?

 どうしよう。何も考えてないよ。

 ええと、綾波〇イ、禰〇子。でもカエルに禰〇子ってどうなの?」


「?」

少女は首をかしげている。


ショウマはとりあえず提案する。


「ええと ケロ子 で…」

「…ど どうかな?…なんて…」


「ハイっ。ワタシはケロコですっ」


少女は満面の笑みで応える。

やっぱ今の無し、キャンセルとか言える雰囲気では無い。


「あはははっ。じゃあ、そういう事でよろしくね」


「はいっ、ショウマさま。よろしくお願いします」




【次回予告】

有名な女優は言った。

私はこれまでずっと「私は愛されない人間なんだ」と思ってきた。

でも私の人生にはそれよりもっと悪い事があったと気がついたの。

私自身が人を愛そうとしなかった事よ。

「エプロンは必須ミニスカートもいいよね。

 あっ スクール水着売ってるお店有るかな?」

次回、ショウマは人を愛する事が有るのか。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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