第4話  一日目その2

「キィーキィキィー」

「キィーキュイ」

「キィーキィキィー」

ショウマは“吸血蝙蝠”に襲われていた。

一匹一匹は小さい。

ネズミから羽が生えたような外見だ。

しかし一匹ではない。

集団だった。


「なにこれ? なにこれ?」

ショウマはコオモリを見たことが無かった。

バットマークなら知っている。

有名なアメコミヒーローの映画で見てる。

牙の生えたネズミに羽が生えたヤツが蝙蝠とは気づかない。


『炎の玉』


ショウマは自分の近くに夢中で放つ。


「!キュイキュイー!」

「キュイ!」

「キュキュキュ」

騒々しい鳴き声を上げと“吸血蝙蝠”が地面に落ちる。


『炎の玉』


「!キュイキュイー!」

ショウマがもう一発放つとほとんどの“吸血蝙蝠”が地面に落ち燃えがらになった。


『LVが上がった』

『ショウマは冒険者LVがLV1からLV2になった』

ショウマの頭の中に無機質なアナウンスが鳴り響く。


「何?いまの。ボカロの声みたい」

見ると落ちていたハズの“吸血蝙蝠”の死骸が無い。


気付くとポケットに小銭が一枚入っている。

さらに何か小物も有った。

良く見ると牙みたいに見える。


「戦利品?

 なんかホントにゲームみたい

 僕、ホントに異世界転生してる?

 ゲーム内に入っちゃったとかそういう類じゃない?」


ミカエルはなんて言ってたっけ。

「アナタも一千万年くらいたてば高次元存在になって、世界を自由に行き来できるようになるわ~

 そのくらいのカルマ値になれば超次元存在になった方にお願いして世界創造してくれるかもよ~」

 うーん

 この世界もそんなカンジで創られた世界なのかも



「村長、何故止めてくれなかった」

ショウマの両親が村長に詰め寄っていた。

ショウマは今日成人だ。

両親が成人の祝いをしようとしたが、どこにもショウマがいなかった。


「いやしかし、彼は両親の許可は取っていると言ってたぞ」


「ウソだ!」

「ウソね!」


「彼はもう成人しとる!街に行きたいと本人が言うもんをワシが止める謂れは無いぞ」


村長の言う事ももっともである。


「男の子はいつか家を出るもんじゃ。

 そこまで気にする事では無い。

 かまい過ぎじゃないのか」

「ショウマのヤツ 銅貨1枚すら持っていないんだぞ。どうする気なんだ」


「なんと!彼は1文無しで出て行ったのか?」

「今日成人の祝いで銀貨くらいくれてやって、金の使い方を教える気だったんだ。

 ところがもういなくなってた」


「あなた。家を調べたんだけど、

 小銭はもちろん着替えも食料も減っていないのよ。

 ショウマは手ぶらで街へ行ったんだと思うの」


「!」

「!」


もしかしてただのバカじゃないのか?

そういう思いが全員の脳裏に浮かんだ。

しかし親に向かってさすがにそうは言えない。

村長がその場をまとめる。


「まあ暗くなる前に荷馬車が帰ってくる。彼の事じゃ。一緒に帰ってくるかもしれんぞ」


「いったい何を考えてるんだ? ショウマのヤツ」





ショウマの考えはシンプルだ。


「ダンジョンに到着したら隠し部屋には辿り着けるようにしとくよ」


という事は何があろうが、辿り着けるのだ。

途中危険が有って辿り着けなかったらそれは嘘だ。

ミカエルの責任である。

ミカエルがなんとかすべきだ。

 

「大天使なんだし~、

 なんとかしてくれるハズだよね」


ショウマは通路を抜け広い場所に出ていた。

岩肌にコケが光って薄明るい。

奥には水場らしきものが見える。


「泉と言えば回復ポイント?」

ショウマは休憩する気満々である。


分岐点も幾つかあったが、その度に「こっちだよ→」と地面に書いてあった。

デカデカと。

蛍光ピンクで。


すでにあれから3回“吸血蝙蝠”と戦闘している。

ショウマはLVが2から3に上がっていた。

小銭は3枚増えて、4枚になっている。

牙はランダムドロップなのか、2個しか持っていない。

替わりに羽根が1枚手に入った。



「しまった。ブルーシート持ってないや」


地面はコケの生えた岩場だ。

ゴツゴツしており湿り気を帯びている。


「座りたいけど、座りたくないなぁ」


周りに同業の冒険者がいたなら切れていたであろう。


「水!食料! ブルーシートの前に! 水!食料!武器!防具!地図!

 何も持ってないから!オマエ!何も!」


残念ながら周りにはツッコミ役が誰もいない。

カエルの鳴き声だけが聞こえてくる。


「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」



そろそろ昼すぎているが空腹は感じていない。

ショウマは荷馬車で遅い朝食を食べていた。

皮を剥いたら食べられる、柑橘類の果物だ。

積み荷として載っていたのを貰ったのである。

御者も馬の手綱を引きながら食べていた。

積み下ろしの作業料としてその位は許される。

リンゴも有ったが、ナイフすら持っていないショウマには皮が剥けない。

普通の村人は皮ごと齧ったりもするのだが、ショウマにとってリンゴとは皮を剥いて細く切って食卓に並ぶものだ。

ウサちゃん飾りしてあるとなお良いよね。


「この岩 湿ってるよ。

 ベンチくらい無いのかな~」


小一時間歩き、戦闘も経験した。

座って休憩くらいはしたい。

ショウマは仕方ないので、コケの少ない渇いた岩を選んで腰掛ける。


「ミカエルのヤツ~ 

 「迷宮に行けば辿り着ける」と言ってたのに辿り着けないじゃん」

「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」

「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」


「サギじゃん。

 ウソじゃん。

 天使なのに人を騙すとか許されないよね~」

「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」

「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」

「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」

「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」



「だいたい金髪美青年の時点で怪しいよ。

 チャラ男じゃん。

 客引きじゃん。

 AVの勧誘じゃん」

「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」

「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」

「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」

「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」

「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」

「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」

「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」

「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」


「何か五月蝿くない?」


言いたい放題言っていたショウマは振り返る。

そこにはカエルが居た。


ショウマの知ってるカエルではない。

大きい。

翔馬の祖母が飼っていた猫くらいは有る。

具体的に言うと体長50cmほどだ。

ショウマは知らないが、こいつは“毒蛙”という魔獣だ。

攻撃力は大したことが無いが、『毒の唾』を吐いてくるので厄介なモンスターと言われる。

“毒蛙”は2、3体で襲ってくる、1体倒したと思ったら仲間を呼ぶ。

冒険者は毒を受けたまま、連戦になるのだ。

初級の冒険者チームはだいたいこいつとの戦いでつまずく。

仲間を亡くし解散した冒険者チームも多い、危険な相手であった。


そして今ショウマの前にいるのは2、3体では無い。

ショウマが座った岩から泉まで、大量のカエルで埋め尽くされていた。


「ほ…『炎の玉』!」

ショウマは慌てて立ち上がり、魔法を放つ。

その時気が着く。


「気分が悪い…何か身体が重いよ…」

ショウマの身体はすでに毒に侵されていた。

独り言に夢中なショウマは“毒蛙”の唾を受けていたのに気付かなかったのだ。


ショウマは『賢者の杖』に寄りかかって立つ。


『炎の玉』


『切り裂く風』


呪文を唱えるショウマにカエルが体当たりしてくる。

後方から『毒の唾』も飛んでくる。


攻撃魔法でカエルも倒れるが、一体だけだ。

無数にいるカエルが全く減った気がしない。


『炎の玉』


「ううっ! 気持ち悪い…」

ショウマはふらふらになりながらも観察していた。


先ほどの“吸血蝙蝠”は『炎の玉』一撃で集団の蝙蝠を倒せていた。

しかし“毒蛙”は一撃の魔法で一体しか倒れていない。


ショウマは仮説を立てる。

おそらく『炎の玉』は単騎攻撃魔法だ。

そしてコオモリはコオモリの集団で一体の魔獣だったのではないだろうか。

だから数匹死骸が有ったのに、戦利品コインが一枚だったのだ。

カエルは一匹で一体のモンスターなのだ。

だから一回の『炎の玉』で一体しか倒せない。


ならばやるしかない。

ショウマの心の中には有った。

まだ試したことの無い魔法が。


ショウマはすでにかなりのダメージを受けている。

毒で身体が重い。

気分も悪い。

吐きそうになっている。


「ふらふらする。

 致死の病?」

 

カエルの体当たりも痛い。

50cmは有る肉の塊が飛んでくるのだ。

これは痛い。

ショウマの身体には青痣が幾つも出来ているハズだ。


ショウマは『賢者の杖』を握りしめ、ふらふらする身体を支えながら唱える。



それは『炎の玉』がランク1とするならランク4に当たる。

使ったものは歴史上でも数えるほどしかいない魔法。

現在の冒険者と呼ばれる人たちに使える者はいない。


いや、いなかった。



『舞い踊る業火』



歴史に名を遺す一握りの人物しか唱えてこなかった言葉が紡がれた瞬間であった。




【次回予告】

人類の歴史は争いの歴史だ。

いくら争いの無い世を願おうともそれが叶えられることは無い。

ならばその願いを持つこと自体が誤っているのかもしれない。

「まずい。 今の痴漢? セクハラ? 事案発生?」

次回、ショウマの願いが一つ叶う。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)



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