03 娘

「スーパーに高級ブランドの鞄持っていっちゃいけないでしょ」


 いつも、思ってる。


 買ってくるものも。スーパーの半額品とかではなく、超一流の野菜。キッチンには、洗練された食器や調理器具。


「いじわる親擬装も、ここまで来ればすごいよ。ほんとに」


 一人の部屋。


 炊事洗濯掃除。すべて終わった。


 いつも通り、ラップトップを開いて。


 世界情勢を確認。


 ひとつの、小さな国がある。王制と民主化の間で揺れる、小国。外国語で更新されるSNSとニュースを、ひとつずつ閲覧していく。


 もともと、頭がよかった。両親の血のせいだろうと、昔から思っている。


 わたしは。


 わたし自身の成長がない。


 それが、申し訳なかった。素晴らしい親のもとに生まれたくせに、何も才能が開花していない。


 ラップトップ。更新される口座情報の通知。


 生まれたときから母親に一度もお金を渡されたことがないので、ラップトップを使って自分で稼いだ。生まれてから一度も、紙幣や硬貨には触ったことがない。


 情勢情報。民主化の波はやはり大きく、王制がわは強権を発動するかどうかで議論が交わされているらしい。


 王制側が強権を発動させるか、あるいはそれに近い行動を起こしたときが。


 国王暗殺のタイミング。


 はじめて自分で気付いたのは、第二次成長です下半身に毛が生えてきたときだった。


 下の毛が。黄金色だった。


 母親と一緒に入っていたお風呂を拒絶して、通信販売で自前のシャンプーを買って使った。そうしたら、髪もうっすら黄金色。知らないうちに母が染料をシャンプーに混ぜていたらしい。


 自分で遺伝子検査キットを自作し、母親と自分の血の繋がりを確認した上で、海外の遺伝情報サイトをハッキングして自分の父親を調べた。


 自分の父親は。


 この、小さな国の。


 王。


 自分には、王族の血が流れている。


 それで、母親の全ての行動に合点がいった。


 紙幣や硬貨を触れば指紋がつき、使用履歴から居場所が特定されやすい。大学に行かせられないのも、交遊関係の拡大がそのまま脅威になるからだろう。


 母親は、官邸で重要な仕事をしている。たぶん外交統括。外交官として下積みをしているときに、国王と出会って恋に落ちて。わたしを妊娠した。


 王位継承の争いの火種になるから、母はこの国に帰ってきてわたしを隠しながら育てて。国王は、いずれ民主化の波に飲み込まれて打倒される。


 たぶん、母のいじわる親偽装は、国王が死ぬまで続くのだろう。


 どういう気持ちなんだろうか。


 自分の愛した人が死ぬまで、娘を守り続けるというのは。


 きっと、つらい。


 ので。


 わたしが助ける。


 通信販売で材料を買って、ドローンを自作していた。もうすでに、小さな国に宅急便で送付済み。すぐにでも動き出せる。ラップトップひとつあれば、テロが起こせるような時代だった。


 国王は。


 わたしが殺す。


 情勢情報。更新される。王制側が強権発動。


「よし。待っててねおとうさん」






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