ミュージカルとリアリティ
あなたの作品にはリアリティがありません!
それは、創作を志す人にとっては恐ろしい言葉でしょう。まるで、あなたの作品は荒唐無稽なおとぎ話ですとでも言われているような気分になります。
けれど、ではリアリティとは何か、と聞かれたならば、どう答えたら良いでしょう。今回は、「リアリティ」にまつわる事柄を扱いたいと思います。
まずはミュージカルです。
ミュージカルという物は、よくよく考えてみると明らかにリアリティがありません。
もしも身近に突然歌い始める人間がいたらどうでしょうか。
しかも、思いっきり感情を込めて。
頭がおかしい、とすら思うのではないでしょうか。
ディズニーではそれを自らネタにしていて、「シュガーラッシュオンライン」では、「プリンセスが自分の夢を歌う時には音楽が流れる」という具合に「プリンセスあるある」として描いています。
唐突に歌い出すというのは、冷静に考えればツッコミどころ満載な行動で、「リアリティ」という点ではこれ以上にないくらいリアリティがないのですが、それでも、ミュージカルをリアリティがない、と批判する人はいないでしょう。
ここには、2つの要因があります。
①リアリティは、「作品世界内の常識」を逸脱しないことによって生まれる
②作品の良さは、理屈よりも感情が動かされたかどうかで決まる
ここで取り上げたいのは、映画『ラ・ラ・ランド』冒頭のミュージカルシーンです。
このシーンの爽快感は圧倒的で、本編とは実は何の関係もないにも関わらず、それを指摘して作品を貶める気になどならないほどです。
そして、これから展開するミュージカル世界への入り口としてふさわしい露払いともなっています。
高速道路の渋滞で、車を運転する黄色い服の女性が歌を歌い始めたかと思うと、車を降りて高速道路を歩き始める。
観客が、何事かと思って見ていると、他の車からも次々と大勢の人が路上に出て踊り始める。
どうしてこんなことが行われたのか、一切の説明はありません。
実は映画の撮影の一シーンだったという説明もなければ、集団催眠にかかっていたという説明もない。ただ、圧倒的な爽快感を持った、歌と音楽の世界が展開されていき、そして物語が始まります。
そして、劇中でも主人公たちは、ことあるごとに夢と現実の間のようなララランド状態に陥ります。
この作品で、ミュージカルが不自然にならないのには、いくつかの理由があります。
①ヒロインが役者志望で、仲間たちとの会話も芝居ががっている
②恋人のセブはジャズピアニストで、音楽と関わりが深い
③冒頭のミュージカルで、「こういうことが起こる世界」という印象が刷り込まれている
つまり、日常からミュージカルシーンまでの繋ぎが極めて自然に行われるように登場人物や世界観の調整が行われていることが重要になります。
一方で、ディズニー作品の場合には、そもそもディズニー映画という確固たるスタイルが確立しているため、役者志望だとかピアニストだとかの設定は一切不要になります。
ここからわかるのは、リアリティとは「この人はこういうことをするかも」「この世界ではこういうことが起きるかも」という観客の中にある世界観によって生まれているということです。
こうした想像は、作品への誘因力としても非常に重要であり、その想像通りの展開を書けば、読者はテストに正解したかのような快感を覚え、想像を外せば驚きに目を見開くことになります。
例えば、映画『レゴムービー』は、徹底した「レゴあるある」を積み上げた作品で、主人公が自分の頭を車輪がわりに使ったり、バットマンや「80年代の宇宙飛行士」などパッケージとして売られていた有名レゴシリーズのキャラクターが登場したり、シャワーや海などの「水」をクリアパーツで表現していたり、細部にレゴ愛が詰まっています。
その中で、ラストには、レゴあるあるを使ってはいるものの、想定外の展開が多く待ち受けています。
詳しくはネタバレになるのでここに記載することは避けますが、「リアリティ」というものを考える上で、レゴムービーは必見の題材かと思います。
また、リアリティを考える上で、描かれたシーンに対して「すごい」「かっこいい」「楽しい」などの感情が動くかどうかも非常に重要になります。
ラ・ラ・ランドの冒頭シーンは、ダンスや映像表現のクオリティが圧倒的で、否応無しに「快」の感情に引き込まれます。
ここで重要になるのが、人間は、理屈の積み上げで価値判断をするのではなく、感情が動いたものに後付けで合理的な理由をつける生き物だということです。
ペター・ヨハンソンが行った選択盲の実験、という実験があります。
ジャムの試食をして、一つのジャムを選ばせた後、選んだ理由を答えてもらうのですが、中身をこっそりすり替えたとしても、被験者はすり替えたものをもとに理由を後付けで作り上げてしまったそうです。
このことからわかるのは、「あなたの作品にはリアリティがない」と言われた時、その言葉は単に「つまらなかった」という言葉に無理やりつけられた理由づけだった可能性もあるのです。
リアリティがない、と言われた時に、私たちがついやってしまいがちなことは、「実際にありそうな出来事」「実際にありそうな人物」「実際にありそうな設定」を中心として物語を書き換えることです。
しかし、それが逆効果になる可能性は十分考えておくべきかと思います。
まとめ
・リアリティとは、現実世界のルールではなく「作品世界内の一環した常識」
・早い段階で世界観を提示し、作品世界内で「こんなことが起こりそう」と想像をさせることで物語に説得力と誘因力を与えられる。
・作品の「凄み」はリアリティを凌駕する。
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