第2話

◇◇


 翌日の放課後。モエッチを連れて、歴史の授業の資料が置かれた小部屋に入った。


「もし彼女が自分の非を認めてしまったら、また同じようなことが起きかねない。お願い、琴音ちゃん! 彼女を助けてあげて!」 


 モエッチと塩屋さんは小学生の頃から仲がいい。二人とも少女漫画の『恋せよ乙女』の大ファンだったのがきっかけだったらしい。

 つぶらな瞳を潤ませるモエッチに対し、私は小さなため息をついた。

 塩屋さんの教科書がなくなったのは、昨日の体育の授業中だ。しかし神楽坂さんは授業に出ていたのを覚えている。つまり神楽坂さんが教科書を盗むのは不可能だった――。

 でもあきらめるのはまだ早い。


「体育の授業を欠席していたのは二人。斎藤さいとうさんと小久保こくぼさんだったの」


「あっ……! 二人とも神楽坂さんと仲良し!」


「二人のことを調べてみるわ!」


 私たちは同時に立ち上がり、力強くうなずきあう。

 しかし、その直後。


「コソコソぎまわっていたかと思えば、こんな辛気臭しんきくさいところにいたのねぇ」


「神楽坂さん。斎藤さんと小久保さんも……」


 バタンとドアを閉めた神楽坂さんがニヤニヤしながら、私たちに近づいてくる。

 私はモエッチを背にしながら、彼女と対峙した。


「そんな怖い顔しないでよぉ」


「いったい何の用?」


「ちょっとアドバイスをしにきただけよ」


「アドバイス?」


 神楽坂さんが細い人差し指を、私のあごにあて、くいっと持ち上げた。


「二人は何もしてない。だよねぇ?」


 ちらりと背後に目をやった神楽坂さんに、斎藤さんと小久保さんの二人がコクリと首を縦に振る。神楽坂さんはニヤリと口角を上げて私と目を合わせた。


「あきらめなさい。余計なことをしなければ許してあげる。私は明智さんたちと仲良くしたいの。ただそれだけ。それでもまだ歯向かうようなら、あなたのお友達がどうなるか……。名探偵の末裔を自称するなら、それくらい分かるわよねぇ。あははは!」


 ドクンと心臓が音を立て、全身が固まる。

 神楽坂さんたちが部屋から去った後も、私とモエッチはしばらく動くことができなかった。

 


 


 

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