第7話 叶音の話

叶音は、僕に学校に行きたくない理由を教えてくれた。

「叶音ね、最近、学校でいつも本を読んでるの。彩ちゃんとか、実央ちゃんと遊ぶのは誘ってくれた時だけにしてるの」

彩ちゃんと実央ちゃんは、叶音が入学して、最初に友達として紹介してくれた子たちだ。叶音が学校の話をしてくれていた頃は、毎日話が出るくらい仲が良かったはずだ。

「彩ちゃんと実央ちゃんね、叶音が知らないうちに2人で遊びに行ってお揃いのペン持ってるの」

「叶音、彩ちゃんも実央ちゃんも好きだから、何も言わなかったの。でも、それから叶音だけ遊ぶ時、誘ってくれなかったり、叶音だけ置いてったりするの」

叶音は、そこまで言うと、下を向いて泣きそうな顔をしている。彩ちゃんと実央ちゃん以外はなかなか声をかけられる人がいないのだろう。

「叶音、おいで」

膝の上に乗ってきた叶音の身体はまだまだとても小さい。

「叶音がどうしたいか決まるまで学校に行かなくていいよ」

「なんで?」

叶音はノータイムで僕に疑問をぶつける。叶音の中で、すでに学校は行かない=悪いことという公式がある事、が当然であるが驚く。

「お父さんは、叶音が学校に行くことによって傷ついて欲しくないなあ。それに小中学生は身体の風邪だけじゃなくて心の風邪にもなりやすいから、予防だ」

「なにそれ?心の風邪ってなに?」

「心が疲れるとひいちゃうものかな」

「叶音そんな風邪ひいてる子知らない」

「みんな、ちょっと疲れちゃったりすると心の風邪をひきかけるんだよ。でも、家族と話したり、好きなことをして心を休ませると治すことができる」

「治さないとどうなるの?」

「学校に行ったり外に出るのが辛くなったり、ご飯を食べられなくなったり、逆に食べすぎちゃったり、あとは悲しくないのに涙が出てきちゃったりする様になる」

「叶音は、今心の風邪ひいてないよ」

「うん、でも、叶音の心は疲れてる。今日学校に行きたくないってお父さんにSOS出しただろう?あれは叶音の心からのSOSでもあるんだよ」

叶音は僕の膝の上で分かったような分かってないような顔をしている。今はまだわからなくても心も風邪をひくことを知っておいて欲しい。僕以外の人でもSOSを出せるようにして欲しい。僕は男でこれから先、叶音が相談しにくい相手になっていくだろうから。

「叶音は、お父さんとお話ししてホッとした」

「うん」

「明日から学校行く」

「叶音が大丈夫なら行きな、朝はちゃんと起きるんだよ?」

「えー、むりーー!」

元気になった叶音をみながら、ふと、僕はいつまで叶音とこんなふうに関われるんだろう…と思う。

僕にとって叶音が、心のお薬であり、頑張るための栄養ドリンクみたいなものだから親離れはキツいな…

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