第6話 小学生

叶音は、小学校3年生になった。親子の思い出、みたいな宿題が何度か出たが叶音が記憶を取り戻すことはなかった。僕は、記憶が薄れない様に、兄と兄のお嫁さんの写真や事故のこと、その後の叶音のことをスクラップブックにまとめた。絵本みたいな、アルバムみたいなそれの出番はまだまだないと信じたい。

「叶音、学校遅れていいのか?!」

朝には弱い様で叶音が小学生になってからは朝は怒りながら起こしている。朝は僕だって余裕がなくて焦ってるんだ。

「やだーーー」

だったら起きてくれ、と内心ブチギレながら叶音の部屋に入る。

「叶音っ」

大きな声を出しながら叶音の部屋に入ると叶音は布団をかぶって丸くなっていた。

「電車に乗り遅れるぞ」

いつもならそういうと、大体起きてくる。のに、今日はむしろ布団に潜り込んだ。

「叶音っっっ」

「やーだー」

無理矢理起こすしかないか…と布団に手を伸ばした。しかし、


「叶音。泣いてるのか?」


布団の中で叶音が泣いていた。叶音は、僕が指摘したことで余計に泣けてきたのか僕に抱きついて、大泣きを始めた。叶音は、普段大人しく、こうも感情をあらわにして泣くことはほとんどない。

「叶音、学校で何があった?」

そういえば最近毎日のように聞いていた叶音の親友たちの話を聞いていない。というか学校の話自体ほとんどしていない。

「学校行きたくない」

顔をぐちゃぐちゃにして小さな声で叶音はそう言った。

もっと早く気づいてあげるべきだった。

「わかった」

僕は、叶音に着替えだけするように言って、学校と会社に連絡を入れた。

「すいません、娘の体調が良くないので、今日はリモートで午後から仕事でもいいですか?」

学校はともかく、会社が忙しい時じゃなくてよかった。流石に一日中休むと明日が怖いので急遽半日休にしてもらう。

「叶音、着替えて顔洗ったらおいでー」

「うん」

叶音は、ほっとした顔をして動き始めた。

学校に行きたくない理由ははっきりしないが、行きたくないというなら、行かせるべきではないだろう。

「叶音、どっか行きたい所あるか?」

ちょうどリビングにもどってきた叶音に聞く。

「え?お父さん会社じゃないの?」

「お父さんも半日お休みした。叶音を1人で置いてくなんてことしないよ」

「叶音、学校サボっただけで元気だよ」

「でも、叶音の心は大好きだった学校に行きたくないって思うくらい疲れてるんだろ?それは元気って言わない」

叶音は、じっと僕の方を見てくる。僕もじっと見つめ返す。


「お父さん、お話したいことがある」


しばらくして、叶音が小さな声で言った。




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