第13話 「萌え幼馴染増殖中〜。萌え幼馴染増殖中〜」






「奏人、こっち見てよ」


「……菜々?」



 奏人が視線を向けた先に見えたのは、裸エプロンでお玉を手に携えた、あられもない幼馴染の姿。



「ばっ……なんて格好してんだ!?」


「奏人」


「ちょっと待てって! 今菜々の頭がおかしくなって……ん?」



 おかしい。


 なぜ目の前に菜々がいるのに、背中側からも同じく菜々の声が聞こえるんだ?


 呼びかけられておそるおそる振り返った先にいたのは、これまたスクール水着に身を包んだ幼馴染。



「は? へ? 菜々が二人?」


「奏人」


「奏人」


「奏人」



 続けて登場したのはフリフリの魔法少女の衣装を身に纏った幼馴染。


 ピョコっとしたうさ耳がチャームポイントのモコモコウサギ衣装に覆われた幼馴染。


 艶かしいニーソが際立つセーラー服を着た幼馴染。


 次から次へと、様々な萌え要素を体現化した幼馴染が躍り出てくる。



「萌え幼馴染増殖中〜。萌え幼馴染増殖中〜」



 菜々の声で告げられる案内アナウンス。


 頭上では『萌え幼馴染増殖中』と書かれた看板がキラキラと光っていた。


 そして雪崩のように流れ込んでくる萌え化した様々な菜々。


 メイド、ゴスロリ、チャイナ、着ぐるみ、アイドル、ナース、三つ編み眼鏡etc...



「う、うわぁああああああ!!!!!」








ーーカンカンカンカン!!!!!



「奏人〜! 朝だよ〜! 起きて〜!」


「はっ……!」



 けたたましく鳴り響く大音量に無理やり意識を覚醒させられ、慌てて飛び起きる。


 そしてそこがいつもと変わらない自分の部屋であることを認識し、奏人は少しばかり落ち着きを取り戻した。



「ゆ、夢オチかぁ……」



 本当に、心から安堵する。


 悪夢と呼ぶには些か眼福であったのは認めるが、それよりも遥かに恐怖の方が勝っていたのが事実だ。


 恐るべき幼馴染の影響力に軽く戦慄する。



「奏人?」


「え? 何? ……ってうぉっ!!!」


「わ、急に大きな声出さないでよ。ビックリするじゃん」


「何で!? 何で菜々が家にいるわけ!?」



 あんな夢を見た後に、本来いるはずのない幼馴染菜々が横から覗き込んでくるのである。驚くなという方が無理あるだろう。


 そんな幼馴染はこちらの事情などつゆ知らず、フライパンにお玉を両手に昭和のおかんがやる目覚ましスタイルだ。



「奏人に幼馴染が朝起こしに来るシチュをプレゼントしようと思って」


「違うそうじゃない! それも二重の意味で!」


「その心は?」


「幼馴染が起こすシチュならせめて寝てるおれの上を跨がる、もしくは寝顔を横から見つめて頬をツンツンするとかがオタクの夢妄想なんだよ!」


「あ〜はいはい。で? もう一つは?」


「鍵は!? 昨日おれちゃんと締めたはずだけど!?」


「これな〜んだ?」



 フフンと得意げな顔で菜々が見せびらかしてきたのは、昨日の昼休みにおれが菜々に渡していた鍵で、そういえばまだ返してもらっていなかったことに今更ながら気づく。


 だから後悔すべきは、



「ドアのチェーン掛け忘れた……」


「全く無用心だな〜、奏人は」


お前侵入者だけには言われたくねーよ……」



 ドッキリが成功したようで大変満足な様子である。


 ほんと朝から心臓に悪い。


 そのうち心的疲労で倒れちゃうんじゃないのおれ?



「ん……」


「ほい」



 差し出した手におれん家の鍵がチャリンと置かれる。


 ……こういうところは阿吽の呼吸なんだよなぁ。



「で? で? 今朝の採点結果は?」


「四十点だよバーカ」



 目覚ましにフライパンとお玉を選ぶあたり、こいつの斜め上な思考回路が漏れ出てるんよな。






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