シンクロニシティ(6)

 本当に、真剣に、正直に、お願いだからやめてほしい。

 私はもう一度、部屋の空気をさぐってみる。空想世界はどこか“空気”が違うってことを微妙に感じ取れるようになったつもり。

 たぶん違う、入ってない。

 私が自分の意識の入り込みに気づいてないだけ?三賀山遺跡の時みたいに?そうは思えないんだよな。

 でも、だとしたら……。

「もしも私が何かに惑わされてるとしたら、一体何に?」

 反応なし。

「私は、樹の守り神たちを探している」

 何もない。

「それから親友の残した手がかりを調べてる」

 やっぱり気のせい。

「この部屋にあるたくさんの本は、私のおばあちゃんから私へのメッセージで、その中のある1冊と親友の残した手がかりも関係してて、探してる本はどうしても手に入れなきゃならないんだって自分の記憶が教えてて、そしてここにはパスポートとチケットがある!!」


『それならばもう答えは出ている』


 入った!!この空気は、空想世界。

 私は目を閉じる。なるべくマボロシを目から吸い込まないために。

「あなたは誰なの?」

『私はパスポート、とでも言おう』

「あなたがパスポート?どういう意味?」

『君は私を知っているだろう』

「知らないし」

『すぐに分かるだろう』

「それ、前にも聞いたと思うし」

『まあいいだろう』

 こうなったら私は、この馬鹿にした世界にトコトン付き合ってやると決めた。

「あなたは今、自分がパスポートだと言った。私がどういう意味か聞くと、それを私が知ってると答えた。パスポートは私の親友が用意したメッセージカードだから間違ってる!」

『やっぱり惑わされているじゃないか』

「私を惑わしているのは、あなたでしょ」

『どうかな』

「何が言いたいの?」

『私は今、君の意識の中にいるのだから、君の知っている事は私も知っている』

「それでいいけど」

『君の親友は、なぜこのタイミングで2つのアイテムを君にたくした?』

「自分が消えてしまうと予想してたから?」

『その逆なのではないか?』

「逆って……予想できなかったってこと?あっ……」


 棗ちゃんは私を見てこう言った『梓ちゃん、なんでここにいるの?』その表情は驚いてて、そのことを予想してたとは思えない。


『想定外の事態に備えて、準備してたとは考えないのか?』

「そうかも、知れない……」

『そして話を戻そう。君は親友のメッセージカードがパスポートだと?』

「そう書いてあるから!」

『ほお、それはどこに?』

「図鑑にはさまってた」

『なぜわざわざ図鑑に?』

「私が探し当てると信じてでしょ」

『では君はなぜその図鑑を開いた?』

「彼女の手がかりだから」

『彼女はなぜその図鑑を選んだ?』

「なぜって……」

『そこの君あてに配達した本かノートに、はさんでも良いのでは?』

「この図鑑に意味がある?この図鑑でなきゃならなかった?」


 フワリ棗ちゃんのいい匂いがした。

『どしたの?』

『へえ、そうなのね。ジャッカルの頭を持つエジプト神話の守護神だよ』

『守護神よ~梓姫を守りたまえ~ってね、お守り代わりになるんじゃない?』

『あっは、きゃはっ』


 信じたくなかった。

 だって今ここは、私の空想世界。

 しかも誰と会話してるのかさえ分からない自分の空想世界で、ここまでリアルに何かにみちびかれる経験は、はっきり言ってない。

 私は目を開けた。

 この空気は……もうどっちでもよかった。

 部屋は目を閉じる前と変わらない。

 少し足がしびれてて、立ってから足踏みしてみる。

 本棚を見渡してから、緊張して汗ばんでる手のひら同士を左右組み合わせて祈る。

「どうか神様お願いします、何も起こりませんように」

 ゆっくりと部屋の奥へ進む。

 床板がほんの少しきしんだだけで、もうやめたくなった。

「どうか神様」

 一歩、また一歩。

「どうか神様」

 部屋の一番奥の置物おきものスペースにそれはあった。ジッと見る。グッとにらむ。

 だからって何も起こるハズない。

 だって……。


『神様は、私なのだがな』


 いっ!!いやあああああ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る