シンクロニシティ(5)

 ノートは3冊だった。

 3冊ともかなり使い込まれた雰囲気で各々おのおの色違いの、いわゆる大学ノートだった。

「え、これって……」

 これで何度目かなって思う。棗ちゃんのすることには驚かされてばっかりだよ。

 そのノートの表紙には、それぞれ手書きでこう書かれてたのだから。


【ジュジュとグロッサ(1) 御神本椿】

【ジュジュとグロッサ(2) 御神本椿】

【ジュジュとグロッサ(3) 御神本椿】


「なにこれ……ウソでしょ」

 そのノートたちは、私が棗ちゃんに貸していた1冊の【ジュジュとグロッサ】と同じタイトルが1~3という具合に分けられて、手書きで表紙に書かれた3冊のノートだった。

「しかも……御神話みかえじゃない。御神本みかもとだよ……一体どうなってんの?」

 もうこうなってしまった以上、ノートの中身を見ないわけにはいかない。私はまだ少し動きにくい指でノートを開いた。


 とある小さな国の小さな村に、ジュジュとグロッサというそれは仲良しの姉妹がおりました。


 ノートの1ページ目から手書きの文字がビッシリ書き詰められてる。

 書き出しは書籍版と同じ。それに2冊目と3冊目のノートにも見覚えのある文章がある……。

 つまりこれは……おばあちゃんの作品の原稿なの?! 

「え……?」

 でもちょっと待ってよ……こんなものどうして棗ちゃんが持ってるのよ……。

 棗ちゃんの家族か親戚の誰かが、おばあちゃんの大ファンだったとか、もしくは知人か友人だったとか?

 いやいや……もしそうだとしても、なぜ棗ちゃんがノートの事を私に言わずに書籍版の方をわざわざ私から借りるわけ?

 何が何だかさっぱり分かんないよ、棗ちゃん。私どうすればいいの?

 私は荷物の送り状伝票に書かれた、見角棗という文字にうったえかける。それはいつものように綺麗な字で、丁寧でバランスのいい楷書だった。郵便番号も住所も名前も。おまけに“こわれもの”に丸印が……。

 品名(内容品)

 チケット

「なに?!チケット?!どゆこと?!」

 ヤバイよ、マジで混乱するじゃん。

 本とノートがチケット?

 招待状?

 入場券?

 通行券?

 いや……乗車券だ、これ。


『このメッセージカードは私からのパスポートだよ』


 パスポートとチケット……棗ちゃん、幾ら何でもやりすぎだよビックリするよ。でも意味があるんだよね、今じゃなきゃならなかったんだよね。

 これは棗ちゃんから私への最後の贈り物なんだよね。

「あ、ヤバイ!!」

 私はあわて過ぎて【大英博物館解説大図鑑第2巻】を、貸し出し手続きせずに持ち帰ってしまった。

 仕方なく戻ることにしたけど、また家に戻った時にはお月様が出かかってた。

 私は、おばあちゃんの部屋でなら何か降臨こうりんする気がした。だってここはパワースポットっていうか、臨界的りんかいてきっていうか、とにかく不思議な力がある、と思うから……。

 まず図鑑、重かった。

 そしてメッセージカードは、パスポート。

 書籍版のジュジュとグロッサ。

 そのジュジュとグロッサのノートは、チケット。

 アイテムは揃った……のに。

 使い方……知らないんだよね。

「うわあああああああん!!」

 思わず叫んだら、ママがビックリして部屋をのぞきに来た。

「もう、梓ちゃんはゴリラか何かなの?!」

「だって……」

「それ、どこかの儀式ぎしきか何かなの?」

 ママは床に広げられたアイテムを見てコメントする。

「違うし!!パスポートとチケットだし!!」

「何よソレ……早く出発すればいいじゃない、あっははは」

「もう、うるさい!うるさい!うるさい!」

 ママのせいで気が散った。

 冷静に考えよう。棗ちゃんは謎解きが上手だった。パスポートとチケットが謎掛けだとしたら……。

 図鑑とカードがパスポート、本とノートがチケット?

 大ファラオの帝国 + ジュジュとグロッサ?

 意味不明すぎて情けないよ……。


まどわされるな』


 空想世界?いや違う……。

 私は顔の位置はそのままに、目だけを動かして視界を確認する。空気は変わってない。

 あの声……今までも聞いたことがある声だった。ずっとある意味で不気味すぎて、関わらないでいた。

 まあ、優しい声ではあるんだけど、きっと私の意識の中の空耳的そらみみてきなヤツ……その程度に片づけてた。

 だって私は自分でも“空想に入り込み過ぎるとロクなことがない”って分かってる。これまでだって嫌なモノにも何度も遭遇そうぐうしたし、空想も意外に危険だってもう気付いてるし……。

 だから、空耳的な現象には耳を貸さないことにしたの、っていうかさ。


「そもそも、なんにも惑わされてないし!!」


『本当なのか?』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る