第17話


「アトウッド殿、アトウッド殿。勝手に家の中漁りますよ」


声をかけても、体を揺すっても起きない。

もういっそ家の中にあるものを漁った方が早いんじゃないだろうか。

因みに、リフ先生から特攻許可も最悪魔術を使って起こす許可も貰っている。


「ぅえ....それはやめてほしいなぁ....」


いっそ隅々まで探索してやろうかと家の中を見回していると、ぼそぼそとぼやきながらルイスがゆっくりと体を起こした。

魔力の影響で色の抜けた長い白髪はくはつに、この世界ではルイス以外には持ち得ない紫色の眠たげな目。

色彩豊かな髪や目が特徴的なファンタジー世界でも、紫の瞳を持つ人間は精霊に愛されたルイスだけだ。


この世界には精霊が存在しているものの、意思疏通や対話などは全ての権限が精霊側にあるので精霊が許した相手でないと見ることすら叶わないので精霊の存在は伝説上のもので、ルイスはゲーム内の説明文で唯一精霊に愛されていると記載されていた。

精霊に愛された者は精霊の影響を受け、紫の瞳になるのだとか。


「うぅん....キミ、他人の家の中に許可なく入ってる時点でおかしくないかい....?」


寝惚け眼を擦りながら懐から見覚えのある紙を取りだし、目を通すルイスは世間一般の魔術師のイメージとは程遠い。

なんというか、魔術師には特有の魔力の圧があるのだがルイスからはそれを感じない。


「あぁ....うん、そういうことか。今はこの国に複数の複合魔術が扱える魔術師がいないんだね。だからリフは僕を呼ぼうとしたのか」


「あの、」


「そうだよねぇ、複合魔術が使えても魔術師なんてろくな人間いないし僕を頼るのが一番だよね」


「アトウッド殿」


「キミみたいな混ざりものの使う魔法なんて魔術師には理解できないだろうし」


「は?」


めっちゃこいつ無視するやんけ、と考えていたら急に言葉の爆弾を落とされた。

混ざりもの?俺が?てか魔術じゃなくて魔法?


「キミ、中に変なの入ってるでしょ。邪魔じゃないの?」


変なの扱いされたんだけどどうすれば良いんだ。

確かに、普通転生ものの小説じゃ記憶が甦るか完全に自分の意識だけを持って生まれるかで、俺とシトレイシアのように半々で切り替えようね~なんてのはあまり見ない。


だが、転生して早七ヶ月。

少なくとも俺はシトレイシアとの共存に不便は感じていない。

とりあえず質問したいが、今ルイスは明確に俺とシトレイシアを区別し、シトレイシアに話しかけている。


「変なっ"邪魔だなんて思っていませんわ"」


俺が口を開こうとすると、急に口からシトレイシアの声でシトレイシアが喋った。

俺は驚いて咄嗟に口を塞ぎかけたが、シトレイシアが変わってくれと頼むので大人しく意識を受け渡す。


「私、この方にとてもお世話になっていますもの。邪魔だなんて、言えるはずがありません」


「へぇ、キミが体の持ち主か。不思議な体だねぇ.......えぇと、手紙に書かれてる青年はキミで合ってるのかな?キミは女性だろう?」


「シトレイシア・ウィスダムと申します。確かに私は女ですが、手紙に書かれているのも私です」


「おや、領主様の娘さんじゃあないか!うんうん、父上には世話になっているからね、よろしく言っといておくれ」


やば泣きそう。

シトレイシアが初対面の相手に話せてる....成長してる....。

俺のことを邪険に思っていなかったというのも嬉しいが、何より俺無しでは初対面の相手と挨拶すら出来なかったシトレイシアがはきはきと自分の意見を述べている現状が嬉しくてしょうがない。


「でも、何故偽名と性別に反した装いをしているんだい?見たところ必要ないだろうに」


「これは....その、」


「混ざりものが原因かな....それっ、」


シトレイシアが説明し辛そうに口ごもっていると、何処からか取り出した杖を持ち、俺たちに向けてルイスは見たことの無い魔術を使った。

無形であることから光か闇、もしくは風だと思うが痛みを感じないので攻撃系ではないらしい。


「話はキミより彼に聞いた方が早そうだ」


刹那の間、視界を光が埋め尽くす。

途端に吐き気とふらつきに襲われ、バランスがとれずに思わず床に倒れ込んだ。

チカチカと点滅する視界が落ち着いた頃、床についた骨張った手が視界に入る。


「ちゃんと案件に関わる人間が揃ったところで、あらためて挨拶をしようか。初めまして、僕はルイスアトウッド。この陽光の森で隠居生活中のしがない"魔法使い"だけど

..........さて、君は誰かな?」


くらくらとする頭で理解出来たのは、ルイスは初対面の客人にえたいの知れない魔術を使うような奴だということと、魔術を受けてから体に感じる妙な違和感と安心感だけだった。




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