第16話


あれから四ヶ月、全く連絡は来なかった。

訂正、リフ先生が手紙を送った相手からの返事が返って来なかったというのが正しい。

そのせいで結局宮廷魔術師や魔術学者に囲まれて殿下と共に魔術を使うはめとなった。

あのとき融合の魔方陣を消したループタイも、解析のためにもう一度融合の魔方陣を書き込んだ。


何故殿下へのプレゼントが他人に触られなければならないのかとシトレイシアはべそをかいていたがしょうがない。

俺たちが良く考えずにやらかしたせいだ。

....まぁ、考えても予想できない話だったけど。


四ヶ月の間、殿下とシトレイシアの仲も少しは縮まった気はする。

女性から貰った物は全て適当に処理し、甘いものなどは毒味を済ませて甘いものが好きな第二王子に横流し状態だったというのにシトレイシアからの贈り物や手作りのお菓子は受け取ってくれるようになったのだ。


殿下は"婚約者からの贈り物を無下にするような王族がいてたまるか"と言っていたが、わざわざ手作りのお菓子の感想を丁寧に手紙に書いて返すのは好感度の低い相手にはしないだろう。


やったねシトレイシア。


これで魔術解析が終わっていれば順調だったのだが、悲しいことにリフ先生が言ったように複合魔術についての文献は無いに等しく、複合魔術を扱える人間も少ないため解析進度は酷く遅い。

複合魔術を扱える人材も、リフ先生も引く手数多の魔術師ばかりで一つの場所に留まること自体が珍しい。


リフ先生の言う高位の風魔術と複合魔術の扱える魔術師からの返事が無い件については、リフ先生も忙しく、その魔術師の家は行き辛い場所にあり安易に訪ねることが出来ないということで保留状態だ。


「いくらなんでも遅すぎるのぅ.....」


「確かに、忙しい魔術師でも伝書鳩は飛ばせるでしょうに」


伝書鳩は一見白い鳩だが、実態は風魔術の一つで、高位の風魔術が扱えるのなら伝書鳩を飛ばすのに要する時間なんてほんの数秒。

何か事件にでも巻き込........


待てよ?


高位の風魔術が扱えて、

複合魔術も扱えて、

極端に行き辛い場所に住んでいる魔術師...?


「リフ先生、その魔術師の名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」


「あまり顔を出さぬから若者は知らぬと思うがのぅ....」



その魔術師の名前は........




***



「ルイス・アトウッド!さん!!!!起きてください!!!!!!」


「あとごふんまってくれたまえよぉ....」


リフ先生から魔術師の名前を聞いて学園を飛び出した俺は今、ウィスダム家の領内にある森の奥に来ていた。

魔術の練習でスライム共々一面氷付けにした森とはまた別の森だ。


アリノアルタには陽光の森と呼ばれる森がある。

陽光の森は険しい道が多いものの、緑豊かで数多くの植物が生えていることで有名だ。


そんな陽光の森に住む魔術師が一人。


専念に一度の逸材と呼ばれ、あらゆる魔術を習得して華やかな貴族社会から姿を消した幻の元宮廷魔術師。


ルイス・アトウッド


勘の良い人ならもう分かっているだろう。

攻略対象様だ。


攻略対象は殿下以外、全くもってお近付きになりたくないですわ状態の俺でもルイスだけは喜んで仲良くしたい。

何故ならルイスは裏ルートのキャラで、全てのルートを攻略し終わってからしか解放できない攻略対象、つまりはシトレイシアがいくら関わろうと婚約破棄に繋がるような話にならない人物だ。


他の攻略対象は仲良くしすぎると物語開始後にどんな弊害があるか分からないが、ルイスだけはヒロインと関わることがないので心置きなく魔術の相談が出来る。


「アトウッド殿、扉に施錠の魔術すら掛けないのは些か不用心では?」


先ほどから俺が懸命に起こしている青年こそがルイスなのだが、ルイスは生まれつき膨大な魔力を有していている半面、多すぎる魔力量に体がついていけず、常時眠気に悩まされている設定がある。

そのせいで今も中々起きてくれない。


というか、いくら人の来ない場所に家があるからって扉に鍵をかけないのも、声を掛けられて起きないのもどうかと思う。

今枕元に立っている俺が賊だったらどうするんだろうか。


....早く起きないだろうか。

こんなんでルイスって裏ルートでちゃんと役に立ってたっけ。

待てよなんかルイスってなんか面倒な性隠してなかったか?


何てことない疑問を発端にルイスへの疑念がぽつぽつと脳内に思い浮かぶ。

ルイスの小綺麗な顔を観察しつつ、俺はため息を吐いた。

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