閑話 とある日の夢


不思議な夢を見ました。


ハヤト様が私の精神と共存し始めてから、半年ほど経った何てことない日に。


この世界よりも文明の進んだ世界で、学園のような場所に通う青年の夢。


茶色く癖のある髪を持つ青年は、文武両道で人当たりも良く男女から好かれている様子でした。


ハヤト様基準で言えばこの世界、私の生きる世界はゲームの世界で、顔の整った人物がやけに多いのはそのせいだと言っていたのを覚えていますが、この青年も私からすれば十分に整っているように思えます。


誰かの人生を空から見守る。


そんな感覚の夢は、何日も続きました。


昼食を友人と共にしたり、勉学に励んだり、家族と楽しげに過ごしたり。


魔術がないせいか、発展した文明ではこの青年のように過ごせることが当たり前と思えるような世界。

どうにも夢だと割りきれないリアリティがありました。


茶髪の青年が過ごす日々を夢に見続けて数日後。


学園に似た施設から帰宅する青年が道を渡ろうとしたその時、金属のようなものでできた動く箱が青年目掛けて物凄いスピードで飛び込んできました。

この文明を理解できない、知らない私でも直感で分かりました。



_________危ないっ!!!!



ドンッ、

鈍く響いた音と共に目が覚める。


「....ハヤト様、どうにも寝覚めが悪いですわ」


"どうしたん、シトレイシア"


ここ数日の夢の内容を説明すると、ハヤト様は納得したかのような雰囲気を出しました。


「ハヤト様はなにかご存じなのですか...?」


"んー、....いや、ショッキングで情けないとこ見せちゃったなぁって"


「....?」


教えてくださいと懇願しても、何とも言えない雰囲気のまま言葉を濁すハヤト様。


彼には生前の物事や私の未来についての話を濁す癖がありますから、今回の夢も私かハヤト様にとって都合の悪い話だったのかもしれません。


私はハヤト様に感謝しています。


外に臆病だった私を、連れ出してくれたハヤト様。

殿下との仲を繋ぎ止めようと必死になってくれて、私が俯きそうになったら励ましてくれるハヤト様。


感謝しても感謝しきれない程に優しくしていただいているのに、私は何も返せない。

口を濁さず、何でも話してくれて構わないのに、それすらも気を使って話をしてくれないのは少し寂しいものがあります。



"そんなに悲しそうにしないでよ、お嬢。何時かちゃんと話すから"


「何故そこまで私に気を使うのですか?」


"好きな子には優しくしちゃうもんなんだよ、男ってのは"


「....でもっ、」


"なぁ、シトレイシア。もう暫くの間だけでいいから、俺に優しくさせて"



何処か懇願するかのような雰囲気で、ハヤト様は今日もそうやって言葉を濁しました。



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