第14話



殿下がシトレイシアの作った魔術具を使い、訓練場に出来上がったクソデカ複合魔術は直ぐ様人だかりと騒ぎを呼んだ。


「ルーカス殿下!この魔術は殿下が御一人で!?」

「ルーカス様の魔術って、とっても綺麗だわ....」

「もしかしてルーカス殿下とオータム様の複合魔術ですか?素晴らしいですね!!!」


訓練場にこんなに人居たっけ、と思うぐらいの人数に囲まれて苛立ち始めた殿下と早くあの複合魔術消えねぇかなと思う俺。

魔術のキャンセルは術者本人が消そうと思えば簡単に消せるが、この複合魔術は俺....というかシトレイシアの作った魔方陣を介しているせいで消すに消せないらしい。


「ルーカス、とりあえずアレ消そ。俺さぁ、人だかり苦手なんだよね、....今からその魔術具弄るから貸して」


「お前な....そこまで簡単に魔術具は弄れるものじゃないんだぞ」


そこかよ。

九割五分くらい俺とシトレイシアのせいでこんな状態になったというのに、殿下は俺に怒らないらしい。

氷魔術擬きを使えたのがそんなにも嬉しかったのか。


シトレイシアから教わらずとも知識あるので、投げるように渡されたループタイの魔方陣を指先でつつくように弄る。

あのガラス製のペンを使うのが最適だが、持ち歩いているわけがないので今回ばかりは指先での作業だ。


ループタイに刻まれている魔方陣は氷魔術の魔方陣と、発動をより簡単にするための融合の魔方陣。

融合の魔方陣さえ消してしまえば大丈夫だ。


魔方陣の一部だけを切ると暴発しかねないので、慎重に融合の魔方陣だけをけしていく。


「ルーカス、もういいよ。多分これで消せるからさ」


俺の声を聞いてひとつ頷いた殿下は、周囲の人間に退くように促して燃え盛る氷柱に手を当てて魔術を解除した。


周囲を包んでいた肌寒い冷気と共に、溶けるように消える複合魔術。

それすらも美しく見えて、五月蝿かった人だかりも静かになった。


俺は殿下に近付き、小さな声で耳打ちする。


「殿下、走れます?」


「舐めるな、お前よりは走れる」


その返答を聞くなり、殿下の腕をつかんで俺たちは走り出した。

殿下が人だかりを退けてくれたおかげで、まだ俺たちと会話をしたそうにしていた奴らから逃げることは簡単だった。


風魔術で軽く加速している俺と無強化で並走する殿下。


「殿下って本当に足早かったんですね」


「....お前って奴は........」


片手で頭を押さえてため息を吐く殿下。

そう呆れられるようなことを言ったかと首を傾げていると、"魔術以外の実技も共に受けているだろ"との指摘を受けた。

忘れてた。

基本的に学園での肉体と意識の主導権は俺に譲られているので、別にわざわざ殿下を見ちゃいない。

....シトレイシアならしそうだけど。


「ここら辺で大丈夫か」


「多分大丈夫かと。まず追って来てるのか知りませんけど」


訓練場から全速力で走って五分。

学園の裏庭に着いた俺たちは、近くにあったベンチに腰を下ろした。


「さっきはすみませんでした、....俺が使った時にはあんな風にはならなかったんで、殿下も扱えると安易に渡してしまって」


「謝るな、と言いたいところだが....アレは流石にな。何がどうなっていたか、説明出来るか?」


「あぁ、あの魔術具、作ったときに氷魔術の魔方陣と他人が使いやすいように融合の魔方陣を刻んでたんです。融合の方が変に作用して殿下の扱える魔術と氷魔術がごっちゃになった........んですかね」


「俺に聞くな。............まぁいい。丁度学園にリフ殿が来ていたな?ならあやつに解析をさせよう」


「リフ先生をこんな私情に....って言っても使い手の少ない複合魔術の話ならいいのか?いや、複合魔術なら他に....」


「何をぶつぶつと喋っている」


「あ、いえ、何でもないです。それより、リフ先生にこの話をするなら明日にしませんか。今日の講義でちょっとした宿題をもらったので、提出ついでに」


別に宿題を貰ったわけじゃないし、さっきの複合魔術の話だって噂は広がるだろうが何も悪いわけでもない。

リフ先生や他の人間に報告する必要性はあまりないが、殿下も俺も一応はあの魔術について知りたいのだし出来るだけ早くというのなら止めない。

だが殿下は俺の提案を了承したのでそこまでして急かしているということじゃないのだろう。


何より、俺にはリフ先生にもらった指輪をシトレイシアと一緒に魔改造して突き返してやるという明確な使命があるのだ。


「....わかった、明日だな。放課後に今日と同じ場所に来い、間違っても俺を待たせるなよ」


「勿論」


俺は殿下と明日の約束を取り付けた後帰宅し、夜通しの作業をしながらその日を終えた。


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