第12話



サヴィルタ学園の訓練場は驚くほど広い。

学園の敷地自体が広いのもあるが、訓練場も学科ごとに用意されていることに加えて、教師陣が生徒が才能を惜しみ無く伸ばすためにと、だだっ広い敷地を使用したのも原因にある。


騎士や軍人の学科はそこまでないが、シトレイシアの属している魔術科の訓練場は小さな魔法から大きな魔法まで使えるように他の科の倍の広さだ。

前世でいう....あー、小さめの小学校の敷地面積と同じくらい?


授業や練習で何度も足を運んだ訓練場も、改めて見てみると圧巻の広さだと立ち止まっているとルーカスが早くしろと促すような目で見てきたので早速魔術具ループタイの魔術を披露することとなった。


「うーん、先約の人が何人かいるなぁ....ルーカス、それループタイの最大出力はかなりのものだから、ある程度込める魔力は抑えてね」


「ああ、分かった」


短く答えた殿下は、ループタイを握って魔力を込め始めた。


魔術具は魔術を刻むときに魔力を最大限まで込める必要でも、使用するときは別に最大限まで込める必要はない。

魔力を限界まで込めて回数制で売り出すものもが大半だが、シトレイシアの作ったループタイはまた別だ。

魔石ごとの容量の範疇で魔力を調節すれば、何度でも再利用出来るようになっている。


実際、魔術具自体が少ないなので回数制にして小分けに売り出したほうが利益が出る。

魔術具を自作できるのならシトレイシアと同じように繰り返し使えるものを作れば良いのだが、利益を優先せずに作るような人間が少ないので市場に出回ることはまずない。


んな慈善家いたとしても魔術具売ってる奴らに商売の邪魔だからって消されると思うけど。


「...."神と人との共存のあか「ちょっと待って!」


このやろう詠唱しようとしやがった。

この世界の魔術の中で詠唱が必要なのは上位魔術を使うときだけだ。

中位や下位はイメージがしやすいし、魔術の扱いに長けていれば詠唱は必要ない。


否、魔術の適性が極端に低かったり魔術をイメージすることが不得意だった場合は下位だろうと中位だろうと詠唱が必要な人もいる。

だが、上位魔術を無詠唱で扱う人間は伝承に一人二人程度だし、転生ひゃっほいした俺も無理だ。


「殿下ぁ....!?確かに俺と同じレベルの魔術が使えるとは言いましたけど、人がいる場所で使う気ですか?抑えてくださいって言ったでしょう!それに氷魔術適性のない殿下がいきなり上位魔術を行使するのは危険ですよ!」


つい自分のキャラクターを忘れて俺とシトレイシアが同時に喋ってしまった。

女声で俺が喋るのは違和感ましましだな。


じゃなくて。


殿下の魔術適性は火と光。

一般的に適性のない魔術は基本的に扱えず、良くて下位魔術が扱える程度。

だというのに魔術具を持ったからといって急に上位魔術を使おうとするのは如何かと思う。


「....いや、そうだな。俺としたことが少しはしゃいでいたようだ。中位魔術なら良いんだな?」


殿下ぁ....!

適性外の魔術使えるのがそんなに楽しみだったのかそうかそうか、そうだよな氷の魔術具って中々無いしはしゃぐよな。

相変わらず殿下は真顔だが、その顔も心なしか楽しそうに見えてきた。

少し声が落ちていた気もしたが気のせいだろう。


シトレイシアがいっそ辺り一面氷漬けにしちゃいましょうとか言ってるけど、その言葉が口から出ないように俺は口を固く結んだ。

殿下なら氷漬けに出来るだけの魔力がある。


俺が中位ならいくらでもどうぞとゴーサインを出した瞬間、辺りの気温が下がったのを感じた。


「..........おぉ....?いや、....え、火と光の適正が高いとこうなるのか」


目の前にはどでかい氷柱が出来るはずだった。

中位の氷魔術なんてそんなもん。


だけど、今目の前にあるのはどでかいだけじゃない、淡く光って炎のように揺らめく何かだった。




てかそれより殿下が説明しろって目で物凄い見てくるのが怖い。

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