第13話 鳥の魔族

窓の割れる音


「強力な、魔力!!」


ニタリと笑う顔


「な、なんでここに!?」


「何事ですか……兄者!!」


ヴェルデが慌てた様子でこちらに走る、が…


鳥の魔族は翼で風をおこす


「っ!?にゃーーー!!」


ケイトが部屋の端に吹き飛ばされるほどの強風、ヴェルデは部屋にすら入れない


「ケイト!ヴェルデ!っ!?」


「つーかまえた!」


まずい……!捕まった……!


強風で怯んでいた隙に腕を掴まれる


「そぉー、れっ!!!」


強い力で腕を捕まれそのまま窓の外に放り出される


「…あっ」


「我が主!!」


咄嗟にオンブルが影から飛び出し手を伸ばすが届かない



…そういえばワシ、空も飛べんし魔法も使えない……


……何ができるんだ?


そんなワシがどうやって……


走馬灯のように景色が巡り…


「……死ぬ」


鳥の魔族は笑っている


「らくしょーだった」


なにがイツザイだ、なにも出来ないクセに


死んでくれれば…最低でも怪我をすればそれでいい

あのヒトが望むなら……


「ガルルル」


!?


物凄い速さで何かが通り過ぎた……


「……飛べるやついないんじゃ……」



「兄者ーーーー!!」


「ヴェルデ!」


蝙蝠のような翼がはえたヴェルデがクロエを抱き抱え地面に着地する


「助かった…ありがとうヴェルデ」


「当然のことをしたまでです!!」


話がちがう…!


「……ちっ。姉さんそっちに行った!!」



「姉さん……?」


……ポロロン


穏やかな音色と歌が聴こえる


音のする方へ目を向けるとさっきの魔族と姿は似ているが腕ではなく背中に翼があり小さなハープを奏でている


「ハーピー…失敗したなら言うことがあるでしょ?」


「ご、ごめん」


…一体


「君たちは一体何者だ?」


姉さんと呼ばれた女性は微笑む


「あのまま死ねばよかったのに」


頭痛がする


「それとも……今、自ら命を絶ちます?」


ハープの音と彼女の声が、頭に響く


なぜだろう……死ななければならない気がする


「ぐっ…あに…じゃ……」


耳を塞ぎたくても塞げない…


意識が……遠のく



「姉さ、ぎゃっ」


ハーピーの小さな悲鳴と共にハープの音が止む


「……!?」


音が……鳴らない?!


「セイレーン…だね?それ、もう鳴らないぞ」


「ケイト…?」


杖をユラユラさせながら現れる


「僕高いところ苦手でね、それで遅れたんだぞ」


「助かった……」


ケイトはにこりと笑う


「ちなみにオンブルくんがハーピー抑えてるんだぞ」


褒めてあげてね


「……上級魔族…!!ケイト・ヴァイス…!?」


…そんな名前だったのか


……


「……って上級!?一応彼も怪しいじゃないですか!!」


意識がはっきりとしたヴェルデが叫ぶ


「えー…僕は関係ないぞー。クロエ殿を貶めても得がないし」


得があったら貶めるのか……


「ケット・シーは大体中級……せっかく上級になったのになぜあの人に付かないの……!?」


「あの人……?そいつが黒幕かな」


「あの人が魔王に相応しい!!私たち低級の事も考えてくださるんだから……」


なにか……昔の…前世のワシを見ているような…


盲目的に国のために戦っていた……

そんな風に…


「……低級魔族の事を考えている様な方が低級魔族あなたたちを捨て駒のように使うのですか?」


シャルム……?


遠くからセイレーンに近づいていく


「な、なんだお前……低級……?」


アタシたちより弱いんじゃ


「ええ、私は下の下……戦うだなんてこと出来ません。知能の少しある魔物、戦闘では…まあ、肉の壁になることは出来るでしょう」


「シャルム!そんなこと……!!」


シャルムはこちらに向き口元がニコリと笑う


「ですが私は争いごとに無縁でして。」


なぜだか分かりますか?


「…メイドだから?いいえ、我が主クロエ様は我々低級魔族でさえ傷つくことを嫌うのです」


角が生えている本来は目がある位置からドロドロといつも以上に赤い液体が流れる


「クロエ様はあなた方の主と違い決して死に向かわせることなど致しません」


「何が言いたいぃ」


セイレーンが歯ぎしりをしている


「そのままの意味です、騙されていませんか?あなたたち」



「姉さん!ねぇさん!!!」


「……っ、アンタは幸せなんだ……分かるはずない…アタシたちがどれだけ……どれだけ苦しんできたか……」


翼をはためかせ飛んでいく


「逃がさないんだぞ…!」


魔法を撃とうとすると


「ハーピー!!」


「ぐ、ああ!!」


名前を呼ばれ唸り始める


「……!オンブル避けろ!!」


「!?」


オンブルが壁にめり込んでいる……


激しき嵐ヘフティヒ・シュトゥルム…」


また、この強風っ…低級魔族が出していい魔力じゃないぞっ!?


「逃げるわよ!!」


「待て…!」


ぬぅ、巻き上げられた砂埃で狙いが定まらない!


「ふ、ふれい…む…っ」


「よせ、ケイト!」


クロエに制止されやめる


「なんで止めるんだぞ?」


不服そうに見上げる


「……利用されている…ようだったから…?」


我ながら中身のない理由だ


だがケイトは杖を下げ


「なんで疑問形なんだぞ…そういう時はハッキリ言わないと納得できないんだぞー」


呆れたように笑う


「……ケイト」


「……まさかこんな手段で出てくるとは…」


「…それ、兄者が狙われるのを知っていたかのような口振りですね」


ヴェルデは少し怒りの混じった声で問う


「まあね、さっきも言ったようにクロエ殿は狙われている…今のところだからね。」


「な、形だけ…!?」


それはー


「使えないって意味かの……?」


「それもある」


ズバッと言うなぁ


「……が、こっちが重要。今のクロエ殿は魔王の恩恵をほとんど受けられてないんだぞ」


……!?


「そ、それってどういう……」


「襲名式の時…違和感があったんだ」


前魔王の時と少し違う…魔力の流れ


「なんと言うか…クロエ殿の器は大きいけどそこに見合った魔力が注がれていない……ような」


「儀式が不完全だった…という事ですか?」


シャルムが呟く


「…いや…誰かが不完全にさせたんだぞ」


誰にも気付かれないように…


「……?」


ま、全く話について行けん……


魔王の恩恵が受けられていないことはわかった…ワシが弱いのも


「狙われる理由はそれだけなのかのぅ?」


「魔王の座は誰もが欲しい物……現魔王クロエ殿が弱いと知れ渡ればこの場にいる魔族以外が敵になるだろうね」


……うん、結構怖くなった


「死なないためにはまず魔法を覚えることだぞ」


「……そうする」


父上の力に甘えて何も学んで来なかったのが仇となったか


「仕事は少し休んでお勉強ですね!」


この歳でお勉強は結構……結構辛い!!

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