悪徳業者、異世界でもチートを使って金を稼ぐ。~でもなぜか先生と呼ばれ、慕われています~

いる

第1話悪徳業者は異世界へ


「・・・ここどこぉ?」


気付いたら森の中に、ポツンと一人佇んでた。

おかしい。小腹が空いたからコンビニに行って、いつもの帰り道の曲がり角を曲がったらもうそこは森だった。後ろを振り返っても森、右も左も森。当然、前も森だ。


「木と草しかない」


適当にそこら辺をウロウロしてみたが・・・うん。森だね。

そもそも何で俺は森にいるんだ?町の中を歩いてたはずなのに、まるで異世界転移っぽいな。

はは、流石にそれはないか。ゲームのやりすぎだな。


「そういえば、この森の雰囲気って・・・何か見たことあるような」


こんなとこ初めて来たのに、なぜか妙な懐かしさがあるな。・・・はて、何でだろ?

あっ、思い出した!アレだわ。俺が仕事兼趣味で遊んでるオンラインゲームに出てくる森だわ!

大人気MMOゲーム「ルーン・サーガ」

MMOは時代遅れと言われてる現在でも、不動の人気を誇り続ける名作中の名作だ。

俺はこのルーン・サーガ専門のRMT業者として、生計を立てている。RMT《アールエムティー》とはリアルマネートレードの略で、ゲーム内通貨と現実の貨幣を交換する商売だ。

つまり簡単に説明すると、ゲーム内通貨十万コルを百円で売りますっていう商売をしてるってことだね。

俺の場合は売り専門で、BOT《ボット》を駆使して・・・あぁ、BOTって言うのはrobot《ロボット》の略で、全自動でキャラクターを動かして素材を集めたりアイテムを生産する言わばチートのようなものだね。

そのBOTを使って、稼いだゲーム内通貨を売って現金化してた。いやぁ、大分儲けたよね。ここ数年は、RMTだけの収入で生活してるもん。


「いやいや、まさかねぇ。そんなラノベじゃあるまいし・・・ステータスオープン!」


男ならついついやっちゃうよね。子供の頃に技名を叫びながら木の棒を振り回したり、真剣に魔法を出す練習をしたのは俺だけじゃないはず。

異世界転移もさ、男なら誰もが夢想したと俺は信じたい。友情・努力・勝利。そう、男はいつまでたっても少年なんだわ。


「まぁ、そんなわけ・・・って、はぇぇっ!?」


突然、空中に文字の羅列が映り込んでくる。え?うっそ、まじで?





【ステータス】

【氏名】 椎名 洋平 Lv.1

【性別】 男性

【年齢】 25

【種族】 人間

【職業】 BOT使い

【数値】 HP100/100 MP30/30

     筋力3

     体力2

     俊敏3

     技量15

     知力20

     魔力3  

【スキル】

     討伐用BOT Lv.1

     採取用BOT Lv.1 

     生産用BOT Lv.1 

【魔法】

     空間収納  Lv.MAX



「・・・なぁに、これぇ」


本当に出ちゃったよ。現実離れした光景に、俺は思わず白目を剥く。

・・・ダメだ。突っ込み所が満載すぎる。まず職業がBOT使いってなんやねん!そんなもんゲームにもなかったわ。おまけにステータスもひっく!

えっ?何この偏ったステータス?近接系職業になろうにも筋力・体力不足で無理。弓使い系も技量は良い感じだけど致命的に俊敏が低い。魔法・回復系も魔力が絶望的に低い。・・・詰んでるやんけ!近接も遠距離も魔法も全部適正ないやんけ!

能力値も低けりゃHPも低い!こんなんゲームだと、スライムでさえワンパンで死ぬわっ!


「能力値は軒並みクソだな・・・スキルは・・・おっ?」


【討伐用BOT Lv.1】

ロボットを召喚し、敵ドロップアイテムを自動的に収集する。

レベルが上がる毎に、召喚数・敵討伐速度・ドロップアイテムの品質が向上する。

現在可能召喚数:1機


おおう、視線をスキルに合わせただけで説明文が浮かび上がってきたんだが・・・

便利すぎだろ・・・いや、助かるけどさ・・・まぁ、いいや。他も見てみるか。


【採取用BOT Lv.1】

ロボットを召喚し、採取系アイテムを自動的に収集する。

レベルが上がる毎に、召喚数・敵討伐速度・ドロップアイテムの品質が向上する。

現在可能召喚数:1機


【生産用BOT Lv.1】

ロボットを召喚し、武器・防具等のアイテムを自動的に生産する。

レベルが上がる毎に、召喚数・生産速度・生産アイテムの品質が向上する。

現在可能召喚数:1機


【空間収納 Lv.MAX】

異空間を開き、アイテムを収納することが出来る。

異空間に収納したアイテムは劣化しない。



・・・これアレだな。俺が使ってたチートが、そのまま俺のスキルになってるって感じだな。


「とりあえず使ってみるか。・・・討伐用BOT!」


「GIGAGAAA」


「・・・おおお」


本当に出ちゃったよ。てかコイツ、スター〇ォーズに出てる金ぴかロボっぽい姿だな。

ぶっちゃけ、そんなに強そうには見えない。


「GIGIGIGAGAGAGAIGA」


「えっ、ちょ、ちょっ何?」


「GIAAAAAAAAAA」


「・・・行っちゃった」


いきなり奇声を上げて森の奥へと突っ込んでいく金ぴかロボ。何アイツ、すっげー怖いんだけど。




ピロン♪




「えっ?今度は何っ?」


突然、脳内にメールが届きましたよばりに軽快な音がなった。

ステータスの端っこにある【ログ】ってやつが赤く点滅してる・・・これを見ろってことか?




【ログ】

・討伐用BOTが、スライムと交戦開始しました。

・討伐用BOTが、スライムを討伐しました。

・スライムより、スライム核を入手。討伐用BOTに5の経験値・椎名洋平に1の経験値獲得。

・討伐用BOTが、スライムと交戦開始しました。

・討伐用BOTが、スライムを討伐しました。

・スライムより、スライムゼリーを入手。討伐用BOTに5の経験値・椎名洋平に1の経験値獲得。

・討伐用BOTが、スライムと交戦開始しました。

・討伐用BOTが、スライムを討伐しました。

・スライムより、スライムゼリーを入手。討伐用BOTに5の経験値・椎名洋平に1の経験値獲得。




「・・・ふぅ」


鬼のように流れてくるログを、俺はそっと閉じる。・・・何やってんのアイツ?めっちゃ敵倒しまくってるんだけど。

っていうか、スライムって何だよ。本当にいんのかよそんなの。


「一応、ドロップアイテムも確認しとくか」


【無限収納】

・スライム核

スライムの核。特に使い道はない。


・スライムゼリー

スライムの体液。回復ポーションの原材料の一つ。


ほう。核はゴミだけど、ゼリーの方はまだ使い道があるな。

・・・ポーションか。ここがもし仮に本当に異世界だったとしたら、回復手段は持っておいた方が良いんじゃないか?うん。そうした方が良いような気がする。


「採取用BOT!」


「PIPIPI」


そうと決まれば、採取用BOTも起動させとくか。材料を取りまくればいずれ、ポーションに必要な素材も貯まるだろ。


「PIPIPI・・・PIGYAAAAAAAAAA」


「・・・あいつら、いちいちこえぇーな」


スター〇ォーズの丸っこいロボみたいな姿をしたBOTも、ものすごい奇声を上げつつ森の中へと消えていく。アイツら召喚する度に奇声あげるのかな?もっと静かにしてほしいんだが。


「とりあえず、適当にブラブラしてみるか」











「んー。見事に木と草しかないなぁ」


かれこれ二時間は歩いてるけど、依然としてまだ森の中だ。

このままだと森の中で野宿なんだけど・・・嫌だなぁ。現代社会で育った俺には無理無理。

陽が暮れるまでには、なんとしてでも人里には降りたいなぁ。そしてタクシーでも拾って、家に帰りたい。


「うぇっ、汚ねぇな。何だこの水溜まり・・・」


最悪だ。靴が汚れたよ。てか、この水なんかベタベタするんだけど・・・これ水か?


カサカサ


「・・・っ!?何だ?」


すぐ近くの茂みが、不自然に揺れてる。や、野犬か?いや、この森の深さを考えると猪や熊の可能性もあるな・・・


カサカサカサカサ


「くっ、来るか!」


「・・・ふるふる」


「・・・えっ?」


「ふるふる」


み、水の塊が動いてる!

何と茂みから出てきたのは、野犬でも猪でも熊でもなく水の塊だった。・・・これってスライムだよな?マジかよ。本当に異世界だよこんなん。


「ふるふる」


「な、なんだよ・・・?」


「ふるふる」


スライムと思しき物体は、俺の目の前まで来ると止まり静かに震える。

・・・意外と可愛くね?さ、触っても平気かな?

俺はバスケットボールぐらいの大きさのスライムに手を伸ばし、その気持ちよさそうな水の身体に手が触れ・・・


「GIGIGIGIGIGIAAAAAAAA!!」




ベチャッ




る瞬間に、スライムが出てきた茂みから金ぴかが飛び出し、即座にスライムを叩き潰す。


「GYAAAAAAAAA」


金ぴかはスライム核を摘まみ上げると、また奇声を上げ森の中へと消えていく。


「・・・はえっ?」


茫然とその様子を見ていた俺に残されたのは、スライムの残骸・・・水溜まりだけだ。

この水溜まり、アイツが量産してたんかいっ。てか、こわっ!!あんなんバーサーカーですやん。

俺はとてつもなく恐ろしい化け物を、山に解き放ってしまったのではないか・・・そう考えると思わず身震いをしてしまう。


「・・・怖いし、ほっとくか」


スキルを解除しようと思えば出来るけど、あんなバーサーカーを手元に戻したくない。

ここは忘れたふりして放っておこう。うん、そうしよう。


「あっ。そういえば、採取用BOTの方はどうなってるかな。アイテム欄見てみるか・・・イベントリ!」


【無限収納】

・スライム核 213個

・スライムゼリー 100個

・狼の毛皮 20個

・狼の肉  20個

・狼の牙  30個


・クラウスの実 103個

・ケセンの葉  43個

・バイゼン草  30個

・ルセルの実  63個


・・・おぉ。あの金ぴかバーサーカーやべぇな。量もだけど、狼まで倒してやがる。採取用BOTも頑張ってるようだな。そこそこ収穫してる。

えぇっと、どれどれ?ほうほう、クラウスの実は食べれてケセンの葉はポーションの材料か。

バイゼン草は猛毒・・・うげっ。アイツ何てもん拾ってやがる。


「たった数時間でこの収穫か・・・」


なかなか良いじゃん。これずっとほったらかすとヤバいことになるんじゃね?

んで集まったアイテムを街で売れば・・・良い金策じゃん。俺は全く働いてないってとこがまた良い。

よっしゃ、こりゃ意地でも街を見つけないとなっ!テンション上がってきたわっ!!








「ま、街だぁ・・・」


はぁ、はぁ・・・や、やっと着いた。なんとか陽が暮れるまでには、たどり着けた・・・


「・・・分かってはいたけど、本当に日本じゃないんだなぁ」


俺は目の前にそびえる街を眺めそっと呟く。BOTが使えたりスライムを見た時点で、ある程度覚悟はしてたけど・・・やっと頭が理解できたって感じだ。

だって、日本にこんなファンタジーな街ないもん。街を出入りしてる人に、日本人っぽい人が一人もいないもん。


「・・・腹括って、この世界で生きていくしかないかぁ」


まぁ、実はそんなに日本に未練はなかったりする。・・・現実世界に夢も希望もあったらさ、RMT業者なんてやってないわな。


「よっしゃ、まずはこの街で成り上がってやらぁ!」


幸いなことに俺の使ってたチートは健在だ。稼いでやんぞ!

俺は意気揚々と街へ・・・


「そこの怪しいやつ、止まれっ!」


「うひょあっ!?」


・・・入れなかったわ。門番と思しき屈強な男に止められた。

こわっ!ちょ、やめてよ。槍をこっちに向けないでよ。先端恐怖症なんだからさ。いや、それ抜きにしても刃物をこっちに向けられるのって怖いな。


「・・・この街に何の用だ?」


「あー。えっと、その・・・そうだ!実は俺、世界各地を旅してる行商人でして」


「商人だぁ?その割には手ぶらのようだが・・・」


「それが森の中に迷い込んだ際に、狼に襲われてしまいまして。荷物を捨てて命からがら逃げだしてきた次第で・・・」


「ふむ、この付近には確かに狼が生息している」


おっ、何かいけそう。これは・・・もう一押しだな。


「捨てた荷物の中に、俺の身分証も入ってまして・・・」


「むっ」


「しかし俺の実力じゃ、スライムにすら勝てませんし森の中なんてとてもとても・・・身分証がどうしても必要と言われれば、取りに行くしかありませんが・・・」


「むむっ」


「・・・無理ですよね。門番さんもお仕事ですし、分かってます。俺・・・もう一回森に行ってきます」


「分かった分かった!街に入れてやる!」


ラッキー♪門番さん、厳つい割には良い人っぽいな。チョロいチョロい。


「あざーっす!それじゃっ!」


「くれぐれも悪さをするんじゃないぞ!」


「はーい♪」


さって、まずは冒険者ギルドにでも行って軍資金でも作りますかねぇ。

第一関門をクリアした俺は、ウキウキで冒険者ギルドへ行くことにした。





「うわぁ、ガラわっる!」


冒険者ギルドに着いたけど、冒険者厳つ過ぎひん?

身体張る商売だから、ムッキムキなのはわかるけど顔怖すぎひん?

九州育ちの俺が、思わず関西弁になるレベルで圧が凄いんだけど!


・・・うぉぉ。やっぱ命のやりとりしてる冒険者は、生で見ると迫力が凄いな。ちょっと甘く見てたわ。

さっさと冒険者登録済ませて、素材売って帰ろ。


「すみませーん」


「ようこそ、レイル冒険者ギルド本部へ。本日はどのようなご用件ですか?」


あー、やっぱりここレイルなんだ。通りで見覚えあるし、ギルドの場所も分かったはずだわ。

王都レイル。この国の中心にして、ゲームだとほぼ全てのプレイヤーの拠点となる場所だ。俺、割と良い場所に転移されたっぽいな。

辺境辺りなんて強い魔物しかいないし、もし辺境に転移してたらレベル一の俺なんて瞬殺よ。


「あーっと、冒険者登録と素材を売りたいんですが」


「冒険者登録と素材の売却ですね。かしこまりました。必要書類をお持ち致しますので、少々お待ちください。」


にっこりと微笑み、受付から離れていく受付嬢さん。

・・・やっぱ可愛いなぁ。王都の受付嬢って、他の街の受付嬢よりも段違いで可愛いんだよな。

違う街を拠点にしてるプレイヤー達も、王都の受付嬢に会う為だけにわざわざ王都に来るぐらいだったしな。可愛いは正義だわ。


「お待たせ致しました。それでは、冒険者登録の手続きを行いますね。こちらの書類を確認の上、署名をお願いします」


「はーい」


俺は書類に軽く目を通す。書類の内容は要約すると・・・


・依頼中の怪我は自己責任、自分で何とかしてね。

・依頼を失敗・途中で破棄したら、罰金があるよ。

・一般市民を故意に怪我させたら、重い罪に問われるよ。

・高ランク冒険者になったら、国からの指名依頼があるよ。拒否権はないよっ!


って感じだ。まぁ、当たり前のことだよな。特に内容に不満はなかったから署名した。


「どうぞ」


「確認します。・・・シーナ・ヨーヘー様ですね。承りました。こちらがギルドカードになります。ギルドランクの説明は必要ですか?」


「いや、大体分かってるから大丈夫だよ」


おぉ、これがギルドカードかぁ。俺は胴色のカードを受け取り、心の中で感動する。

冒険者にはランクがあって、胴→銀→金→プラチナの順で階級が存在する。

胴は所謂駆け出し、銀から一人前。金になると一流でプラチナは超一流だ。書類にあった強制依頼は、プラチナからだから俺には関係ないな。

そもそもランクなんて上げるつもりないし、俺の目的はあくまでも金稼ぎだ。名誉とか名声なんてあんまり興味ない。


「かしこまりました。それでは引き続き、素材売却にうつらさせて頂きます」


「えーっと、とりあえず狼の毛皮50枚程で」


俺は無限収納から、狼の毛皮を50枚出し受付嬢さんへと渡す。

・・・本当は一気に全部売り払いたいとこだけど、数が数だから今日の宿を確保できるぐらいにした方がいいかな?

毛皮は既に300枚溜まってるし、スライム核なんて2000個あるぞ・・・あのバーサーカー限度ってもんを知らないのかよ。


「お預かり致します。査定の方致しますので、そこのベンチに座ってお待ちください」


「はい。わかりました」


・・・ちょっと数が多かったかな?毛皮出した時、受付嬢さんの顔がちょっと引き攣ってたな。




テッテレー♪




・・・レベルアップしたのかな?と思わせるような音が鳴ったな。

いつもの音と違うし、一応ステータス確認しとくか。




【ステータス】

【氏名】 椎名 洋平 Lv.2

【性別】 男性

【年齢】 25

【種族】 人間

【職業】 BOT使い

【数値】 HP110/110 MP35/35

     筋力3→4

     体力2→3

     俊敏3→4

     技量15→18

     知力20→25

     魔力3→4  

【スキル】

     討伐用BOT Lv.1→3

     採取用BOT Lv.1→2 

     生産用BOT Lv.1 

【魔法】

     空間収納  Lv.MAX




・・・マジでレベル上がってたわ。てか、俺よっわ!ステータスの上り幅が雑魚すぎる。

俺レベルが100になっても、やっとそこら辺のごろつきに勝てる程度じゃね?

いや、まだレベルが1上がった程度だから分かんないけどさ・・・これは本格的に、金稼いで護衛を雇う必要が出てくるな。


俺はこの王都で金を稼いで稼ぎまくるつもりだ。金を稼ぐってことは、恨みや嫉妬を買うってことでもある。このステータスじゃ、流石に自分の身は守れない・・・つまり誰かに守ってもらう必要性が出る。

さて、どうしたもんかねぇ。


「お待たせ致しました」


「あ、はーい」


色々と思考してたら、受付嬢さんが戻ってきた。


「狼の毛皮50枚、5万コルで買い取らせて頂きます」


「はい。それでお願いします」


俺は受付嬢さんから、お金の入った革袋を受け取り中身を確認した後に無限収納に収納する。

ゲームだと売値5コル程度のゴミが、まさか1枚1000コルに化けるとは・・・異世界恐るべし。


「確かに。ありがとうございましたー」


「またのご来店を、お待ちしています」


さて、何にせよ。身分証と宿代は手に入ったな。後は稼ぐだけだ!

とりあえず、宿にでも行って考えるか。






「ほう、なかなか良い部屋じゃん」


秒で5万コルを稼いだ俺は、思い切って王都屈指の高級宿に泊まることにした。金はこれからどんどん稼いでいく予定だ。これくらいの出費全然問題ない。

というか、日本人としてあんまり不潔な宿はNGだ。そこだけは譲れない。


「よし、そろそろやるか。生産用BOT!」


「kikikikikiki」


「・・・うわぁ、キッモ」


俺は部屋の隅っこに、生産用BOTを召喚する。

生産用BOTは奇声を上げながら、千手観音のようなビッシリ生えた機械の腕をウニョウニョさせている。

控えめに言って超絶キモい。しまったなぁ、2部屋の取っとくべきだった。こいつは視覚にも聴覚にもよろしくない。


「くそっ、とりあえず何か作らせるか。・・・どれどれ?」




【生産可能メニュー】

・HP回復ポーション

・毒薬

・解毒ポーション

・痺れ薬

・劇毒薬





「・・・ふぅ」


俺はそっとメニューを閉じる。


「HP回復ポーションと解毒ポーションだけで」


「kikiki?」


「HP回復ポーションと解毒ポーションだけで」


「・・・kikikirukiru」


残念そうな声を上げる生産用BOTに俺は、念のために二回命令する。

生産用BOTは心なしか不服そうに作業に取り掛かる。・・・コイツ、最後絶対キルって言ったな。


「とりあえず、今日出来ることはこんなもんかな」


やっと生産用BOTを起動することが出来たし、討伐用BOTも採取用BOTも元気に起動してる。

後は寝て、成果を待つだけだな!明日どれだけポーションが出来てるか、楽しみだわ。


「kirukirukirukiru」


「・・・」


「kirukirukirukiru」


「・・・」


「kirukirukirukiru」


「・・・明日は、2部屋とるか」


・・・今日寝れるかな。




・・・




・・・




「ふわぁ~。人間案外寝れるもんだなぁ」


「kirukirukiru」


朝日が眩しい。これで部屋の端で千手観音がいなかったら、清々しい朝だったんだけどな。台無しだね。


「とりあえず、夜中の間にどれだけの収穫があったかチェックするか」


【無限収納】

・スライム核 4000個

・スライムゼリー 40個

・狼の毛皮 590個

・狼の肉  500個

・狼の牙  430個


・クラウスの実 4300個

・ケセンの葉  29個

・バイゼン草  2000個

・ルセルの実  23個


・HP回復ポーション(低品質) 326個

・解毒ポーション(低品質) 120個


あのバーサーカーと丸いの、頑張り過ぎじゃね?スライムと狼・・・絶滅してないことを祈るか。後、山の資源も。

数が少ない素材は、多分ポーションの材料だな。


「低品質か・・・こればっかりは仕方ないか」


俺は、出来上がったポーションを眺めながら呟く。

ポーションの生産スピード自体は申し分ないんだけどなぁ。BOTのレベルの関係上、低品質な物しか今は作れないか。っていうか、この瓶はどうやって作ったんだ?

・・・まぁ、いっか。こんなんでも売れるだろ。


「ふっ、懐かしいな」


今更安物のポーションを売るなんて、ちょっと感慨深い物があるな。

俺がRMT業者に成り立ての頃は一番安いポーションを大量生産して、店売り価格より少し安い価格で売って金を稼いでた。・・・確か50コルだったけな?安物だから儲けも微々たるものだったけど、それでも一日で100万コルは稼いだもんさ。

ゲームでもあんなに売れたんだ。こっちの世界でも、きっと需要はあるさ。


「とりあえず、冒険者ギルドに売りにいくか」


感傷に浸るのはここまでだ。とりあえず、今は金を稼がないとな。

あっ、その前に朝飯食わないと。




「おいおい、何の騒ぎだ?」


冒険者ギルドに着いた頃には、もう昼下がりになってしまった。

しかし、どうやら何かあったらしくギルド内が騒然としてる。俺は人だかりを掻き分けながら、奥へと進む。


「むっ。怪我したのか・・・こりゃひでぇな」


人だかりを掻き分けた先には、三人の少年少女が傷だらけで横たわっていた。

・・・身体中傷だらけで、細菌感染してるのか傷口が青黒くなっている。このままだと、危ないな。


「どうやら新人が、ゴブリンにやられたみたいだ」

「あいつら剣や矢じりに、自分の糞尿を塗りたくるからなぁ・・・怪我したとこから毒が回っちまうんだ」

「可哀そうになぁ。新人だからポーション買う金もなかったんだろうな」

「俺たち中堅クラスでさえ、ポーションにはなかなか手が届かねぇからなぁ」


周囲の冒険者たちは、同情こそするけど助ける気はないみたいだ。

・・・そりゃそうだよな。冒険者は自己責任の世界、負けたやつが悪い。

だけど、ちょっと聞き捨てならない言葉が出てきたな。


「なぁ、ちょっと聞きたいんだが。ポーションって高いのか?」


「あん?そりゃそうよ。一番安いポーションでも5000コルはするからな」


「5000コルぅ!?」


まさかのゲーム時代の相場の100倍の値段に、俺は思わず目を見開く。

いやいやいや、高過ぎじゃね?暴利も良いとこだよ!?


「何でそんなに高いんだ?そこら辺の店で50コルくらいで売ってるもんじゃないのか?」


「50コルだぁ?バカ言ってんじゃないぜ。ポーションは、教会の神官が一日に数本しか作れない代物だぜ。そんな貴重品が50コルなわけねぇだろ!」


神官?一日に数本しか作れない?・・・どういうことだ。ポーション作りは錬金術師の分野のはずなんだが、ここでは神官がポーションを作るのか?


「・・・なぁ、この街って錬金術師はいないのか?」


「はぁ?何だよ錬金術師って。俺ぁ色んな街に行ったことがあるけど、そんなもん聞いたことも見たこともねぇぜ」


「そうか、すまん。邪魔したな」


「おう?良いってことよ」


厳つい冒険者のおっさんが言うには、この世界には錬金術師なんていないらしい。

その代わり、教会の神官ってのがポーションを作ってるらしい・・・めちゃくちゃ暴利で。

何かきな臭いモノを感じるな。だけど、これが絶好の儲けのチャンスだったりするんだよな。


よし。俺のポーションのPRがてら、幼気な少年少女も助けてやるか。


「すまん。どいてくれ!俺が診る」


「う、うぁぁ・・・」


俺は大声で名乗りを上げ、少年少女の前へと出る。・・・まだどの子も十代前半じゃないか。

こんな子供が冒険者やるって、意外と厳しい世界なのかもな。


「ちょっと染みるけど我慢しろよ」


「「「うぐっ!?ぐぅぅぅっ!!」」」


俺は無限収納から取り出した解毒ポーション(低品質)を、少年少女の傷口に振りかける。

ポーションのかかった傷口から、まるで強炭酸のように泡が吹く・・・うわぁ、見てて痛そうだ。

瀕死の状態で、これはキッツイだろうなぁ。でも流石は解毒ポーションって所か?見る見る内に、青黒かった色が肌色へと戻っていく。

ゴブリンの糞尿程度なら、低品質ポーションでも効き目は充分みたいだ。


「・・・よし。解毒はこんなもんかな」


解毒するのに、一人二本使っちまったな。思ったより使っちゃったけど。まぁ、低品質だからそこら辺は仕方ないか。


「お次は、これだ!」


「「「・・・うぅぅ」」」


今度は解毒の済んだ傷口に、HP回復ポーション(低品質)をかけていく。一本目で傷口が修復され、二本目で痛みが引き三本目で傷口が綺麗に治った。

一人三本か。ここでも思ったよりも使ったな。低品質だし、何より瀕死だったしな。これも仕方ないか。


「ふう、これで何とかなったな」


「「「・・・スヤスヤ」」」


死の淵から解放された三人は、安らかな表情で寝息を立てている。

ポーションじゃ体力までは回復しないしね。今はぐっすり寝るのが一番一番。

これで俺のポーションを上手くPRできたかな?少年少女をダシにした形だけど、命が助かったんだからチャラだよね。


「「「「・・・う、うおぉぉぉぉっ!!!」」」」


「おわっ!?」


俺が冒険者の方へ向きなおしたと同時に、割れんばかりの大喝采が起こる。

び、ビックリしたぁ~。いきなり大声出されると心臓に悪いんだが・・・


「兄ちゃんやるじゃねぇか!」

「あいつらを救ってくれてありがとうな!可愛い後輩なんだけど、冒険者の掟もあるからよ・・・」

「俺からも礼を言うよ!ありがとう」


・・・厳つい顔立ちなのに、こいつら実は良いやつなんだな。

少年少女たちを心配してたけど、何かしらの掟とやらのせいで手を出すに出せなかったみたいだ。


「兄ちゃん、何者なんだ?あれだけポーション持ってんだ。只者じゃないんだろ?」

「あ、それは俺も気になってたぜ。アイツらに使っただけでも、軽く10万コルはいくんじゃねぇか?」


「あぁ。実は俺、錬金術師なんだ」


俺は口角を吊り上げ、答える。錬金術師シーナ・ヨーヘー誕生の瞬間だ。




・・・




・・・




・・・




「先生、おはようございます!」

「ざーっす!」


「おー、おはよう」


「先生、今からギルドですか?」


「うん」


「それでしたら、俺らも着いていきやすぜ」

「えぇ、先生に何かあっちゃいけねぇですし」


「ありがとう。よろしく頼むよ」


「いえいえ、先生のポーションのおかげで、俺らも大分助かってます」

「これぐらい安いもんですぜ!」


ゴブリンにやられた少年少女を、自作ポーションで回復させて一週間。

あれから俺は錬金術師という地位を確立させ、周囲の冒険者たちからは先生と慕われている。


「あっ、先生!おはようございます!」

「先生、いらしたんですね!ささ、こちらへどうぞ!」

「先生、いつもご苦労様です」


ギルド内に入ると、例の助けた少年少女たちが俺の元へと駆け寄ってくる。

ふっ、無垢なキラキラとした目が俺のハートに突き刺さるぜ。


例の一件を元に俺はギルドマスターに交渉して、ギルド内の一角を借りて商売をする許可を貰った。

もちろん、売るのはポーションだ。教会が5000コルで売ってたポーションを、俺は10分の1の500コルで売っている。

ちなみに、助けた少年少女は売り子として雇ってる。

まぁ、まだ千手観音が低レベルってこともあり、生産数の問題で冒険者一人につき三本までしか売れないんだけどね。

それでも冒険者全員にポーションは行き届くし、生存率も格段に上がったらしい。

冒険者たちは安くポーションが買えて嬉しい。俺も50コルのポーションが500コルで売れて嬉しい。まさにWIN-WINの関係だね。


「・・・そろそろかな」


「先生、どうかしました?」


「いや、何でもないよ」


当然、今の状況を面白く思ってない輩もいる。教会の連中だ。

自分らの稼ぎ場を、食い荒らされたんだ。絶対このまま指をくわえて黙ってるはずがない。

何で分かるかって?俺だったら黙ってないからだよ。


対策として宿からギルドまでは冒険者に護衛してもらってるし、ギルド内で商売してるから商売中は手を出しづらい。何かしてくるとしたら、夜・・・つまり宿にいる時なんだよなぁ。

流石に自室には千手観音がせっせとポーション作ってるから、冒険者を部屋に入れるわけにはいかない。

オマケに千手観音に戦闘力はない。どうすっかなぁ。


「・・・奴隷でも買うかなぁ」


「「「っっ!?」」」


あっ、それ良いかもな。何となく口にしただけだけど、奴隷なら守秘義務もあるし・・・良いんじゃね?

奴隷っていくらくらいするのかなー?戦闘用奴隷だと、割高なのかな?金は・・・この一週間で、大分貯まったし一人くらいなら買えるだろ。


「ん?どうしたんだ顔を赤くして」


「「「・・・うぅぅ」」」


売り子として雇っている少年少女が、何やら顔を赤くしてモジモジしてる。トイレでも我慢してるのかな?


「せ、先生っ!」


「うぉっ?ど、どうしたんだ?」


「え、ええエッチなのは行けないと思います!」

「ダ、ダメなんですっ!」


「えぇーっ!?いや、ちょ、違うよ!?そんな目的じゃないよっ!?」


「「え、エッチなのはダメなんですー!!」」


「ちょ、声が大きいって!違うっ!!」


あー、今日も平和だなぁ。明日も稼ぐぞー。






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悪徳業者、異世界でもチートを使って金を稼ぐ。~でもなぜか先生と呼ばれ、慕われています~ いる @irugaiku

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