自称、国王の懺悔集

マキシム

自称、国王の懺悔集

ワシは国王、一応、国王なのだが正直にいうと立場が微妙だ。我が国は国王を絶対とした中央集権国家ではなく、あくまで国王を盟主とした豪族(後の貴族)連合国家であり、貴族たちは元は豪族出身者で力が強く、我が先祖である初代国王が貴族の位を与えることで懐柔させたのである。我が国は豪族(後の貴族)たちの支えで成り立っているようなものである


ワシの代でもそれは同じだった。ワシは国王なのに、なぜ彼らに気を使わなければいけないのか、悶々とした日々を送っていた。そんなワシも同盟国から王妃を迎えた


ワシと王妃は不思議と馬が合い、王妃との間に1男3女を儲けた。周囲からは仲睦まじく理想の夫婦とまで持て囃された。そんなある日、王妃からこんな言葉を受けた


【王妃】

「陛下の国は変わっていますね、我が母国は国王の権力は絶対で貴族も国民も国王に従うのに?」


王妃の母国は国王に権力が集中した絶対王政主義であり、我が国の国家体制が珍しく見えたらしい。王妃にとっては他愛もない一言だがワシの心に突き刺さった。ワシは王妃の母国が羨ましく思えた。なぜ我が国は国王の権力が脆弱なのか、なぜ貴族たちが力を持っているのか、ワシは益々、悶々とした日々を送り続けた。周囲の貴族たちから側室を勧められたが、なんでこいつらのいうことを聞かなくてはいけないのだと、思い拒否した


【国王】

「世継ぎは王太子だ、これは決定事項だ!」


ワシは貴族たちの前で己の意志を述べた。貴族たちはそれ以来、何も言わなくなった。ワシは少しばかり心が晴れ晴れとなった気分だ


【国王】

「おお、これが国王というものなのか。」


ワシは不思議と舞い上がってしまった。だがそうではなかった。召使いが貴族たちの会話を聞いたようで【側室はまだ早い】という談合があったらしい。結局は何も変わっていなかった


【国王】

「こうなったら国王の権力を確立するぞ!」


しかし表立って行えば、周囲から反感を買い、離反する可能性がある。何とか慎重にやらねば・・・・


【国王】

「ワシはいつか国王を絶対とした絶対王政国家に作り替えて見せる!」


ワシはそう決意したが、貴族たちの力が思いのほか強く、そう簡単には変えることができず断念した。そこから歳月が流れ、息子である王太子も大きくなった。ある日、王国誕生記念パーティーを行った際・・・・


【セリーヌ辺境伯令嬢(幼少)】

「はじめまして、国王様、王妃様、王太子様、セリーヌと申します。」


【国王】

「おお、良い子じゃ、良い子じゃ。」


【王太子(幼少)】

「父上、僕、この子と結婚する!」


王太子はセリーヌ辺境伯令嬢を見た途端、一目ぼれしたのだ


【王妃】

「これ、王太子、はしたない真似はしてはなりませぬ!」


【王太子】

「いやだ、僕はこの子と結婚したい!」


王太子は泣き喚いて、絶対にセリーヌ嬢と結婚するとワガママを言い出した


【国王】

「セリーヌ嬢、すまないが、下がってくれるか、息子には言い聞かせるから。」


【セリーヌ辺境伯令嬢】

「はい、では失礼いたします。」


その後、ワシは息子のワガママに根負けする形でセリーヌ嬢を王太子の婚約者にした。幸い、セリーヌの父は我が国の宰相であり、宰相も快く婚約を受け入れた


【セリーヌ辺境伯令嬢】

「国王様、王妃様、王太子様、末永くよろしくお願いいたします。」


【国王】

「こちらこそよろしくのう。」


【王太子】

「わーい!」


セリーヌ嬢を息子の婚約者に迎え入れた時点で歯車が狂い始めた。王太子とセリーヌは最初は仲睦まじく、将来を楽しみにしていたが、セリーヌは王妃候補であり、妃教育を受けなければならない。そこからは王太子とセリーヌの交流が制限された


【王太子】

「父上、母上、セリーヌと遊べないよ!」


【国王】

「王太子、セリーヌ嬢は妃教育を受けている最中なのだ。」


【王妃】

「貴方も王太子教育があるでしょう。」


【王太子】

「ううう。」


そこから王太子とセリーヌ嬢のすれ違いが続いた、思えばあの時、気付いていれば良かったと後悔していた。歳月が流れ、二人は成長した。そんなある日、王太子からとんでもない事を聞かされた


【国王】

「王太子、そなたセリーヌ嬢に婚約破棄を突きつけただと!」


【王太子】

「はい、私は某男爵令嬢を妃に迎えとうございます!」


【王妃】

「大馬鹿者!お前が望んでセリーヌ嬢を嫁にしたいとそなたが申したのではないか!」


【王太子】

「それは昔の事です!」


【国王】

「お前は次期国王なんだぞ!」


【王太子】

「お言葉を返すようですが国王とは何ですか!貴族たちの言いなりですか!」


【国王】

「何!」


【王太子】

「私はこの国がおかしく感じます。国王なのに権力が制限されて、貴族たちが力を持つようになった。これでは国王は御輿も同然です!」


王太子の言葉でワシは心の中に眠っていた葛藤を呼び覚ました。そうだ、ワシには夢があった。国王を絶対とした王政政治を作るのだと・・・・


【王妃】

「話をすり替えるな!私は反対です!陛下からも注意してくだされ!」


【国王】

「分かった、某男爵令嬢をお前の婚約者とする。」


【王妃】

「陛下!気は確かですか!」


【国王】

「ああ、セリーヌ嬢には謝罪と慰謝料を支払い、王太子は廃嫡せず謹慎を申しつける。これは決定事項だ!」


【王妃】

「陛下!」


【国王】

「女が政治に口を挟むでない!」


王妃は愕然とした表情でワシを見ていた。ワシは国王だ!御輿ではない!そうワシは改めて決意を固めた。だがこの事がきっかけで王妃との仲は修復不可能となった。そんなある日、宰相が尋ねてきた


【宰相】

「陛下、ご機嫌麗しゅう。」


【国王】

「うむ、セリーヌ嬢のことはすまなかった。」


【宰相】

「いいえ。」


【国王】

「セリーヌ嬢へは慰謝料と謝罪文を送ろう。」


【宰相】

「畏れながら殿下の処遇はいかに。」


【国王】

「あやつは謹慎とし廃嫡せず、某男爵令嬢を新たに婚約者とする。」


国王の言葉に宰相は耳を疑った


【宰相】

「陛下!今、何とおっしゃいました!」


【国王】

「何度も言わせるな、これは決定事項だ!」


【宰相】

「畏れながら、殿下のなされたことは重罪です!」


【国王】

「世継ぎとなる男子はあやつしかおらん。」


【宰相】

「畏れながら、一の姫様の婿養子として、血縁のある御方を後継者にすればよろしいのでは?」


【国王】

「喧しい!これは決定事項だ!」


国王は頑として聞き入れず、宰相の意見を退けた


【宰相】

「分かりました。ですが我等の我慢にも限界があります。それをお忘れなく。」


宰相はそう言い残し、退出した。今にして思えば、ここで引き返せば良かったと常に思っていたが、ワシにはそんな余裕はなかった。その後、王太子の謹慎が解け、某男爵令嬢を息子の婚約者として正式に迎えた。王妃はセリーヌをことのほか、気に入っており、新たな婚約者には冷たかった。妃教育も厳しくなる一方で、王太子はまた他の令嬢と婚約するといいだしおった


【国王】

「某男爵令嬢を婚約者に迎えたのに、今度は子爵令嬢を婚約者に迎えるだと!」


【王太子】

「はい、もう飽きました。今度は某子爵令嬢を婚約者に迎えとうございます。」


【国王】

「たわけ!コロコロと婚約者を変えられるか!」


【王太子】

「だったら殺せばいいじゃないですか?」


【国王】

「何!」


【王太子】

「某男爵令嬢が僕の想い人に嫌がらせをした罪で牢に入れ、毒杯を飲ませればいいのです。」


【国王】

「何をバカな・・・」


【王太子】

「国王の言うことは絶対なのです。それを貴族たちに分からせるのです!」


王太子の言葉が悪魔のささやきに聞こえた。ワシは不覚にも悪魔のささやきに惑わされた


【国王】

「よかろう。」


その後、某男爵令嬢は断罪され、牢に入れられ、毒杯を飲ませ、死なせた


【某男爵令嬢】

「うう、ごめんなさい、セリーヌ様。」


男爵令嬢が死んだことがきっかけで国が乱れ始めた


【宰相】

「畏れながら陛下、某男爵令嬢はいかなる罪にて牢へ入れたのですか?」


【国王】

「うむ、王太子の想い人に嫌がらせをしたとか。」


【宰相】

「陛下、王太子はこの間、某男爵令嬢を婚約者に迎えたばかりではありませんか、ずいぶんとコロコロと王太子の心が変わりますね。まあ、それは置いといて、殿下の処遇はいかがされるのですか?」


【国王】

「うむ、王太子は謹慎のみとする。」


【宰相】

「・・・・陛下、貴族たちの間では陛下は王太子を甘やかしていると不満を持っています。このままいけば国が成り立ちません、どうか御再考のほどを。」


【国王】

「喧しい!これは決定事項だ!」


【宰相】

「・・・・そうですか、分かりました。」


そういうと宰相は退出した。もう後戻りはできない、こうなったら、とことんやってやる。その後、王太子の謹慎は解け、某子爵令嬢を王太子の正式な婚約者として迎えた。このころになると王妃と疎遠になっていき、ワシは自然と他の女に心を奪われた。そんなある日、王妃の母国で我が国の同盟国から使者がやってきた


【同盟国の使者】

「国王陛下、ご機嫌麗しゅうございます。」


【国王】

「うむ。いかがされたのだ。」


【同盟国の使者】

「突然の御来訪、誠に申し訳ありません。一つお聞きしたいことがございまして・・・・」


【国王】

「何じゃ。」


【同盟国の使者】

「貴国の王太子殿下は某子爵令嬢を婚約者に迎えたとか、セリーヌ様はいかがされたのですか?」


【国王】

「う、うむ、セリーヌ嬢は息子の婚約者に相応しくないと思い、婚約を解消した。」


ワシの答えに使者は困惑し、宰相から睨まれた


【同盟国の使者】

「不躾ながらお尋ねいたします。子爵令嬢を王太子殿下の婚約者とはいかなることにございますか?本来、婚約者は公爵~伯爵までの高貴な身分から取るのが習わしで子爵令嬢はせいぜい、国王の側室として迎えるのが普通なのですが?」


【国王】

「そ、それは・・・のう、王妃。」


【王妃】

「私は知りません。」


ワシは王妃に助けを求めたが王妃は無視した


【宰相】

「使者殿、無礼ではありませんか、これでは内政干渉にも等しいではありませんか。」


【同盟国の使者】

「これはこれはご無礼いたしました。我らが陛下は貴国との同盟を懸念されております。」


【宰相】

「それこそ内政干渉ではありませんか、我が国の事は我が国で解決いたします。」


【同盟国の使者】

「左様ですか、分かりました。」


宰相は代わりに返答したが妙にとげとげしかった。使者が帰り、とある密室で貴族たちが談合をしていた


【貴族A】

「国王は何を勘違いしているのだ。」


【貴族B】

「やはり国王は権力強化に努めているのではないか。」


【貴族C】

「そうじゃ、我等の力なくして国は成り立たぬ!」


【貴族D】

「国王と王太子がこのざまでは、我等も危うい。」


【貴族E】

「我等も王妃様の母国である同盟国に帰順するか。」


【貴族F】

「そうだな。それにしても王太子を使って権力強化を図るとは・・・・」


そんな談合しているとは知らない国王は、また王太子の悪い癖に悩まされた。今度は平民の娘を婚約者にすると言い出したのだ


【国王】

「今度は平民を婚約者に迎えると?」


【王太子】

「はい、父上。いつも通り、某子爵令嬢を断罪して、毒杯を!」


【国王】

「もう勝手にせい。」


ワシは息子の好きなようにさせた。某子爵令嬢は牢に入れられ、毒杯を飲ませられた


【某子爵令嬢】

「某男爵令嬢、ごめんなさい。」


その後、王太子は平民の娘を婚約者として迎える準備をした。王妃と娘たちと貴族たちの反応は最悪だったが。此度の婚約に国民たちからは・・・・


【国民A】

「また王太子殿下が婚約者を変えたぞ。婚約者を迎えるたびに、前の婚約者が死ぬ、くわばらくわばら。」


【国民B】

「このままじゃこの国は終わるんじゃないか。」


【国民C】

「暗君とドラ息子に好き勝手にされちまうぞ!」


【国民D】

「大きい声を出すな。兵士たちに聞かれちまうぞ。」


国民たちもコロコロと婚約者が変わる国に不安を抱いていた。そのころ軍隊の間では・・・・


【兵士A】

「また婚約者を変えたらしいぞ。」


【兵士B】

「ああ、今度は平民の娘だってよ。」


【兵士C】

「息子の言いなりじゃねえか、あの馬鹿王は・・・」


【兵士D】

「静かにしろ、聞かれちまうぞ。」


兵士たちも危機感を抱いていた。そんな最中、何と宰相が辞表を叩きつけてきた


【宰相】

「陛下、私は貴方に愛想が尽きました。宰相は辞任いたします。」


【国王】

「ま、まて、辞任されると国が成り立たなくなる!」


【宰相】

「陛下の御力でやればいいのではありませんか、力のある貴族は陛下にとって邪魔のはず、我等がいなくなれば王太子と平民の娘との婚約もスムーズに進みます。陛下、殿下を使ってまで自身の権力を強化したいのでしょう?」


【国王】

「くっ。」


図星すぎて言い返せなかった。その後、貴族たちも次々と辞任していった


【国王】

「お願いだ、辞めないでくれ!この通りだ!」


ワシはプライドを脱ぎ捨て、頭を下げて懇願したが貴族たちは愛想を尽かし、それぞれの領地へと戻っていった


【国王】

「こんなことだったら、権力強化に努めるんじゃなかった。」


そんなある日、王太子の婚約者である平民の娘が王太子の側近と駆け落ちをしたと王太子から聞かされた


【王太子】

「父上、あのアバズレは僕という者がありながら、僕の側近と駆け落ちしました。すぐに探し出し、死刑にしましょう!」


【国王】

「喧しい!全部、お前の自業自得だ!」


【王太子】

「くっ!」


王太子がほざいていたが、ワシもこのころには王太子のワガママに耳を貸さなくなった。召使いたちの間でも「自業自得」「身から出た錆」と陰口が叩かれている


【国王】

「もうどうにでもなれ。」


そんなある日、元宰相から手紙が届いた。内容を見ると、王太子がセリーヌ嬢に復縁したいという手紙だった。ワシはすぐに王太子を呼び出した


【国王】

「お前は何を考えている!お前の都合で捨てたくせに虫がよすぎるではないか!」


【王太子】

「・・・・申し訳ありませぬ。」


ワシはこの馬鹿息子に振り回され、貴族たちから見放された。ワシはとことん愚かな君主&父親だと後悔している。そんなある日、また元宰相から手紙が届いた。王太子はセリーヌ嬢に謝罪と城へ来るよう命令を出したのだ


【国王】

「この大馬鹿者!こんな大変な時期に何をしてくれてんだ!」


【王太子】

「・・・・申し訳ありませぬ。」


王太子の愚行はすぐさま兵士や国民たちにも伝わった。あからさまにワシと王太子を馬鹿にしていた


【国王】

「こうなったらセリーヌ嬢を呼び戻すしかない!そうすれば元宰相も戻ってくる!」


ワシは一縷の望みをかけて命令文を送ったが、無視された。ああ、ワシはもう駄目のようだ。どうやら王太子も自分の立場に気が付いたようで、セリーヌ嬢に復縁の手紙を送り続けたらしい。そんなある日、王妃の姿を見かけなかった。王妃の部屋に入るとそこには離縁状があった


【国王陛下へ】

「私は陛下と王太子に完全に愛想がつきました。娘たちを連れて、実家に帰らせていただきます。貴方は国王としても父親としても失格です。」


ワシは王妃からも見捨てられた


【国王】

「ワシって、とことんマヌケな男だ。ハハハ。」


その後、王妃の母国である元同盟国が挙兵し我が国に侵略した。ワシは各地の貴族と兵士たちに出兵を命じたが、無視され、我が国の兵士たちはあっさり元同盟国に寝返ってしまった


【国王】

「もう、降伏する。」


その後、ワシと王太子は降伏し、平民となることでワシらの命が助かった。側室たちとの間に子供がいないため、側室たちは実家に帰り、こじんまりとした家で元王太子と2人暮らしをしていたが王族として育てられ、庶民の暮らしを知らなかったため生活は非常に苦しく、かつての国民たちから白い目で見られた


【元国王】

「自殺しよう。」


その後、ワシは首をくくり、この世を去った。後世の者よ、どうかワシのようにならないでほしいと願うのみであった




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