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 夏休みに入る直前、智子が壊れたように笑いながら帰ってきた。校内模試の結果が返ってきたとのことだった。うちはそこそこの進学校であったので、高校二年生の時点から定期的に模試が行われる。智子が受けたのは、旧帝や早慶といった最難関大学を目指す生徒のための模試だった。智子は全国でもトップレベルの成績だったので、校内であればいつもダントツの一番だった。どの科目でも誰かの後塵を拝したことは一度もない。この世界で受けた模試でも、内容は当時と同じであったらしく、「もしかして全科目満点取れちゃうかもな」と謙虚な智子らしくもなく珍しく上機嫌だった(十年前の模試の内容を覚えているのもそれはそれですごいと思うが)。

 しかし智子がちゃぶ台のうえに広げて見せてくれた模試の結果によれば、智子が一位を取れたのは国語だけで、ほかの全ての科目では二位となっていた。国語で一位を取れたのはつまり、日本語の分からない彼女はその科目を受験しなかったからだ。智子に代わって一位を独占したのは、ババアだったという。点数を見るかぎり、智子が落としたのはどの科目も一問か二問だけであるようだった。であれば、ババアは全ての科目で満点に近い成績を残したのだろう。

 智子は恵子と同じように、「あんなのババアじゃない。わたしは認めない」と気狂いみたいに繰り返した。智子もまた恵子と同じように、自分より賢い人間は認められないのであり、ましてやそれがババアであったことなんか、とうてい受け入れらないのだった。

 智子も恵子もこの世界のババアを否定した。そして最後に、あたしの順番がやってきた。

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