第15話 義姉と義妹

 飛び出したは良いが、どこに葵が居るのか見当も付かない。

 その時初めて連絡先を聞いていなかった事に気が付いた。


「アイツ、どこ行ったんだっ」


 色々な所を探したが、見当たらない。

 そんな時、過去の記憶が思い出された。


 葵と初めて会った公園。


 自分のカンを頼りにその公園へ向かった。


 公園に入ると、ブランコに誰かが座っている。

 葵だった。


 近づいて声を掛けようとした時、先に向こうが気付いた。


「何でここが……」

「お前と初めて会った所だからな」

「こ、来ないでっ。女嫌いだなんてウソだったっ」

「ウソじゃねえっ。さっきのは妹だっ」

「へっ……」


 その後、事情を説明すると、すぐに機嫌が良くなり、饒舌になる葵。


「なあんだ。妹さんが居たんだぁ」

「ああ、ガキの頃からウゼえ妹でよ。アイツのせいで女嫌いになったんだ」

「へえ、強い総ちゃんがタジタジだね」

「アイツには叶わねえよ。……さっき、アイツから頼まれたんだが」

「何を?」

「お前を紹介してくれって」

「えっ!?」


 驚きの表情を浮かべている。


「将来の姉がどうだとか言ってたな」

「是非、ご挨拶をっ」

「現金な奴だな、葵は」

「えへへ。結婚するには家族からって言うから」

「んじゃ、帰るぞ」

「うんっ」


 公園の途中の広場で葵が立ち止まる。


「どーした?」

「ここで助けてもらったんだよね」

「そうだったな。もう十年になるな」

「虐められるって悪い事ばかりじゃないんだね」

「はあ? わけわかんねえよ」

「ねえ?」


 そう言って右手を俺に差し出してきた。


「何だ?」

「今度は小指だけじゃイヤ」

「なっ!……分かったよ」


 俺は左手で葵の手を取った。初めて完全な手つなぎをした。


「う、嬉しいなぁ」

「俺は恥ずかしいだけだ」

「今後はもーっとエスカレートさせてくよぉーー」

「やめろっ」


 手をつなぎながら帰宅するのだった。




 マンションの玄関を開けるとすぐ、


「遅いっ。結構待ったんだけど」

「わりい。やっと見つかったぞ」


 俺の後ろに立つ葵を見た柚子は、


「はわわ~~、凄い大きさぁ~~」

「ど、どうも」

「ねえ、こっちこっち」

「えっ、あ、ちょっと」


 葵の手を引っ張って奥へと連れていく柚子。


 俺は疲れたので、ベッドに座った。


「あたし、柚子って言います。将来の義妹だね」

「えっ、柚子ちゃんは私たちの結婚認めてくれるの?」

「当たり前じゃん。にぃにが一生独り身だったらどうしようかと悩んでたからね」

「柚子ちゃん……」

「で、もうヤったん?」

「――ッ!」


 俺と葵はその言葉に戸惑いを隠せない。


「お前っ、要らねえ事聞くんじゃねえっ。何もしてねえっつってんだろーがっ」

「やっぱなぁ。にぃに、相当奥手だし、このままじゃ一生ムリだよ?」

「そ、そんな……」


 余りのショックに葵が肩を落としている。


「まっ、あたしが指導してあげよぉ~~」

「えっ、ホント? 柚子ちゃん、よろしくっ」

「お前っ、経験者みたいな顔してんじゃねえよっ。どうせ、お前もした事ねえだろっ」

「あるよ」

「えっ!?」


 実の妹の衝撃の告白にうろたえる俺。

 まさか、そんなやる事が早い妹だったとは。


「オモチャで」

「失せろっ、テメエっ」

「にゃはははは、にぃに、顔真っ赤」


 いつもこうして俺を馬鹿にしてくる。最低な妹だ。


「あっ、そうだ。早速、一緒にお風呂入ろぉ~~」

「えっ、私と?」

「嫌?」

「ううん。是非」

「じゃあ、行こう行こう」


 二人が手をつないで浴室に向かう。

 俺は一人部屋に取り残された。


 静まり返る部屋に浴室からの声が響く。


「うわあ、すっごい綺麗」

「や、柚子ちゃん。そんな見ないで」


 このままでは頭がおかしくなる。

 そこで、親父から教わった瞑想を試す事にする。

 親父曰く、無心になる事で全ての雑念が消え、音すらも聞こえない境地に至るのだそうだ。


 早速、座禅を組む。目を瞑り、意識を無にして集中する。


「うはっ、すっげー柔らかい」

「やんっ」


 ――集中、集中。


「うわあ、先っぽピンクだぁ。こんな綺麗なの見た事ない」

「ホントぉ? 嬉しいなぁ」


 ――無心、無心。


「ねえ、ちょっとだけ吸って良い?」

「えっ、あっ、ダメだよぉ~」


 ――集中、吸う中。


「ほれっ」

「ああぁんっ」


 俺の堪忍袋の緒が切れる。


「柚子っ! 今すぐ出ていけぇぇぇええええっ!」


 無心の境地に至る事は出来なかった。

 まだまだ親父には近付けそうにない、そう感じる俺だった。

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