第14話 女嫌いになった原因

 早いもので、葵とカップルごっこを始めて三日過ぎ、今日で四日目。

 残された時間は後四日間だった。


 それはさておき、今日は木曜日。

 奴が来る。

 俺の最も毛嫌いする奴が。


 奴のウザさは底知れず、俺を女嫌いにさせた張本人だ。

 葵に会わせると面倒な事になるので、放課後の事を思案していた。


「ねえ、総ちゃん?」

「へっ、何だ?」


 焦っている俺を見て、何かを感じていたようだが、それには触れず、


「今日、放課後先生から呼ばれちゃったの。転校手続きの事らしいんだけど、結構時間がかかるらしいんだぁ。夕食おそくなりそうだけど、良い?」

「ホントかっ」

「……ねえ、喜んでる?」


 目を細めて俺を見る。


「いや、そんなはずないっ。あ~あ、早くお前の飯が食いたかったのに」

「えっ、ホント? じゃあ、出来るだけ早く帰ってくるね?」

「いや、まあ何だ。先生の都合もあるだろうから」

「……何か隠してるよね?」


 また細い目で俺を睨む。


「何を言ってんだよっ。何もねえよっ」

「ホントだね? 嘘ついたらHして貰うよ?」

「えっ!? 軽いノリでそんな事言うんじゃねえよっ」

「ふふふ、ごめんごめん。じゃあ、そういう事だから先に学校行くね~」

「おう」


 手を振って玄関を出る葵。


 俺は心の底から安堵していた。

 いつも木曜日の放課後に来る奴には、葵が帰宅する前に帰ってもらおう。


 葵から少し遅れて登校した。




 放課後、先生からの呼び出しにより、葵は鞄を持って職員室に向かった。俺に挨拶は無かった。バレないように、という作業は徹底している。


 葵が見えなくなってから、俺は学校を後にした。


 現在時刻は午後三時半。

 いつも奴が来るのは午後四時。

 奴と二人きりの部屋を想像しただけで身の毛がよだつ。足取りは異常に重かった。


 今現在、午後四時のマンションの部屋。

 もうすぐ来る。奴が来る。


 ホラー映画に出てくる主役さながらの恐怖心で一人床に胡坐をかく。


『ピーンポーン』


 ――来たっ。あのクソ野郎がっ。


 俺は玄関外に居る相手を覗き穴から見る事なく、扉を開けた。


「にぃに~、来たぞぉ~」


 リュックを背負った小生意気なクソガキが右手を上げて部屋にあがってくる。


「お前なぁ、毎週来んじゃねえよっ」

「ホントは嬉しい癖にぃ~。可愛い可愛い妹が遊びに来てやってんだぞぉ~」


 そう、コイツは俺の一つ年下の妹――柚子ゆずだ。

 兎に角ウザい。


「ねえ、これ見てみて~」

「――ッ!」


 柚子がリュックから取り出したのはエロ本だ。


「バカっ! 何持って来てんだよっ。女嫌いだっつってんだろーがっ」

「そんな事言って~、ホントは好きなんじゃろ~、ほれほれ」


 近づいて来て目の前に本をぶらつかせてくる。

 偶然にも、その表紙を飾っている女性が葵に似ていた。まあ、少し似ているくらいだが。


「ガン見してんじゃん」

「うるせえっ。今日は忙しいから早めに帰れよっ」

「え~~、ゲームしようと思ったのにぃ~」

「俺はしねえっ。お前はもっと女性らしい趣味を持てっ」

「分かったっ」


 胡坐をかいて座る俺の横で、制服のボタンを外している。


「ば、何やってんだよっ」

「女性らしい趣味って言うから、ひとりHでもと思って」

「クソがっ。おちょくってんだろっ」

「けど、ほらあ~」

「――ッ!」


 背中から柚子が抱きついて来る。鬱陶しい奴だ。


「結構大きくなったと思わん?」

「やめろっ」


 胸をわざと背中に当ててくる。確かに以前よりは、とそんな事はどうでも良い。


 突然、玄関から大きな音がする。


 見ると、葵が俺たちの姿を確認し、学校の鞄を床に落としたようだ。


「な、何して……」

「ち、違うっ。これは――」

「総ちゃんの浮気者ぉぉぉおおおおおっ!」

「葵ぃぃぃいいいいっ!」


 そのまま走って行ってしまった。


「誰?」

「チッ! だから早く帰れっつっただろーがっ」

「彼女?」

「ただの同居人だ」

「えーーーっ、こんな狭い部屋で同居!? やらしっ」

「何もしてねえよっ」


 柚子はニヤリと口元を緩ませ、


「お父さんに言っちゃおーーーかなぁーー?」

「やっ、やめてくれっ。それだけはっ」

「どうしよっかなぁーー。お父さん、こういう事には厳しいからなぁーー」


 柚子の言う通りだ。

 全ての事に厳格な父が異性同居など許すはずがない。

 失神するまで殴られるだろうと思う。


「何かして欲しい事してやるよっ」

「ヤバい事でも良いの?」

「えっ、そ、それは……」


 ヤバい事とは一体。


「じゃあさ、さっきの女の子紹介してっ」

「はあ!?」

「あたしのお姉ちゃんになるかもだし。あたし、巨乳ちゃん好きなんだ」

「そんな事で良いなら」

「あはっ、ホントか? なら、早く仲直りして来て~」

「分かったよっ」


 葵を探す為、俺は部屋から飛び出すのだった。

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