第8話【『絶対』 前編】
sideブレイン
「それでどうしたの?
今朝エレナと貴方が話していたことよね?」
夕食が終わりブレインの部屋にローゼとダリエを迎えソファーに座り話をする。
「ああ、その事だ。
単刀直入に言うとエレナが剣と魔法の訓練をしたいの言い出したんだ」
「えっ!?」
「まぁ!?」
「驚くのも無理はない。
五歳の女の子が言い出すことじゃないかならな」
「本当のことなんですね·····」
「事実だ。
とりあえず魔法についてはもうそろそろ家庭教師を付けて勉強をさせないといけないと考えていた。
その中に魔法の知識も入れてその延長で魔法の実践練習をさせるという事で了承させた」
「それが妥当ですわね。
それで肝心なのは剣の訓練の方です。
勿論、貴方は反対したのですよね?」
ローゼはそう少しキツめの口調でブレインに問いかけ、隣の席のダリエは何も言いはしないが鋭い視線をブレインに送っている。
別にローゼ達は剣の訓練自体に対してそこまで否定的な訳ではない。
問題なのは年齢だ。
もし、エレナが十歳の時に剣の訓練がしたいと言うのであればネニュファール家の方針的にも寧ろ進んでやらせただろう。
しかし、今のエレナはまだ五歳。
体も小さく脆い。
何かの拍子に命を落としてしまうことだって十分に有り得るのだ。
そんな危険な事を二つ返事で了承する母親の方がどうかしている。
「お前達が言いたいことはよくわかっている。俺だって同じ意見だからな。
だが、エレナの意思が硬い。
夢でリリが誰かに襲われる夢を見たらしい。
その時、助けに入れるのはエレナだけだが、剣を握ったことも無いひ弱なあの子は助けに入ることが出来なかったらしい」
「……そうですか。
エレナの気持ちはわかりました……。
それでも私は反対します。
エレナの家族を守りたいという思いはとても嬉しく思います。
しかし、その起こるかわからない夢の話を信じてエレナに危険なことをさせることは出来ません。
もし、その夢の話が本当だとしても対策するのも危険な目に合うのもエレナでは無く私達、親の役目ではないですか?」
「そうだ。
ダリエの言う通りではあるのだが……」
ダリエが言っていることが正しい事は明白であり、それはブレイン自身だって分かっている。
しかし、ブレインは昔のある出来事からエレナの気持ちを無下には出来ないと言葉を詰まらせる。
「話は聞かせてもらったっー!!!」
ドーン!と大きな音と共にこの部屋の扉が開け放たれた。
「おい、ゴードン。
ノックをしろとあれほど言っているだろう?」
ゴードンとはブレインの弟であり、エレナの叔父に当たる人物だ。
ネニュファール家の騎士団長をしておりセンプレヴェルデ王国で王国軍大将の次に強い人物である。
「こんばんは、ゴードン」
「こんばんは、ゴードンさん」
「夜遅くにすまねぇ。
ダリエ姉、ローゼ姉」
「兄貴、俺が来たのは別に仕事の話じゃねぇよ。
今、兄貴達が話していた内容にちょっと口出ししたくて入ってきたんだ」
「……どこから聞いてたんだ」
「ほぼ最初からだ!」
「まあいい。
で、何が言いたいんだ?」
何故盗み聞きをしていた?など言いたい事は多くあるがこいつの奇行は昔からなので気にしないことにした。
「俺は、エレナが剣の訓練をすることに賛成する!」
「ゴードン、それは本気で言ってるの?」
ダリエは鋭い視線をゴードンに送り、とても冷たい目で睨む。
「ああ、本気だ。
冗談で言ってるわけじゃない。
自分のこれまでの経験を踏まえた上でエレナが後悔しないようにと考えた結果だ」
ゴードンはダリエの質問に対し真剣な表情で返す。
恐らくゴードンは私と同じことを考えているのだろう……。
「エレナにもリリにもどこに行くにも護衛を付けるつもりだ。
それもお前が鍛えた奴をな」
「そ、そうですよ。
ゴードン、貴方が鍛えた護衛がそう簡単にやられるわけないですよね?」
ダリエの言葉にローゼもゆっくりと頷く。
「『絶対』なんてことは…それこそ『絶対』存在しねぇんだよ……。
それは兄貴達も痛いほどわかっているだろ?」
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