5.就活レベル1のギャル女子大生は2ヶ月でレベル50を目指すようです あけがえるさん作

「し……死んでる……!」


 部屋に入った瞬間倒れている拓也、一体彼の身に何が起こったのか……を、知るのは意外と早かった。どこかで聞いた事があるような音が寝そべっている彼の方から聞こえてきたのである。




「腹減ってやる気失ってたって、また安直過ぎないか?」

「うるへぇ」


 ラーメンを貪るように啜り麺もトッピングも食べ尽くし、最後に濃厚な豚骨スープも飲み干した拓也はチャーハンの残りを搔き込んでいた。歳を取ると油が駄目になる、そんな話はどこかへ消え失せたようである。

 昼のラッシュタイムを過ぎた夕方4時頃、しばらくレビューが空いてしまったので心配した啓馬が遊びに来たのだった。


「書き直しが一段落……はしてないけど、いい加減着手しないと失礼だろ?」

「分かってるけど、小説の気になるポイントとか、いざ削って何か足すとなると時間が……」

「ソシャゲのログイン履歴、俺フレンドだから分かるんだけど」

「すんませんでした」

「はいはい、言い訳は要らんからレビューしような。今回はこの作品だぞー」


 ラーメン屋にデザートなる食べ物は精々プリンか杏仁豆腐くらいなものだ。しかし、目の前の啓馬が「んじゃ、俺おかわりするから」と3玉目に突入している間、拓也はスマホをタップしていく。


 今日の作品は、あけがえるさん作、『就活レベル1のギャル女子大生は2ヶ月でレベル50を目指すようです』だ。


「就活敗北者には中々堪えるタイトルだな……」

「私情挟むな挟むな。ちなみに今回は1話から4話だぞー」

「分かったよ」



「で、感想は?」

「うん、サクサク読めるし就活の内容も分かり易い。もっと早く出会いたかったなぁ、こういうの」

 拓也が遠い目をし出したところで3玉目を食べ終わった啓馬はうんうんと頷いた。

「今の時代はなんでも無料で情報が手に入るからなぁ」

「正しいか正しくないかの判断は自己責任になるんだけどな……で、総評なんだが。『面白い』と『参考になるなぁ』以外で言う事がない」

「ん? どうして?」

「うーん、俺の感想としてこの話は『小説』というよりは『ドラマの脚本』って感じだし、無駄がない・説明はちゃんとしてる・小説という枠組みには嵌まらないから……書き方どうこうなんて突っ込んでもなぁ。小説としては物足りない、でもドラマの脚本としては凄く綺麗にまとまってると思う」

「あぁ、WEB小説でも『動画用の脚本をアップロードしてます』って人も居るよなー」

「そういう脚本も影絵っていうのか? か〇いたちの夜みたいな立ち絵とゆ〇くりボイスだけの動画で魅せると凄く生えたりするしな。この話はそういうタイプだと思う」

 そこまで言って拓也は「うーん」と唸り出した。

「伝わるか分からないんだが、読んでて説明書や参考書、教科書を分かり易くした感じに似てると思う。だから、別に言う事はない。話も面白い。就活の最終目標がチャ〇ピオンロード突破とかゲームに例えるのも伝わり易いし、就活っていうものを伝えるのには十分な素材が出揃ってる感じがする。普通に続きが読みたい。絶賛更新中だし、主人公の見山が今後どうなるのか気になるな。話を読んでると主人公は金髪なのに後半は『ピンク髪のギャル』ってタイトルがあって『何があったんだ!?』と思うし」

「ほほう、今回は辛口評価がないのか?」

「うーん……ただ――」

「やっぱなんかあるのか?」


「ちょっとだけ物足りない、かもしれない」

「ふむ?」

「サクサク読めるだけに俺がさっき言った2つ以外での感想が印象に残りにくい……かも。ただこれは1話から4話まで読んだだけの感想だし、まだ未完結作品でもあるから『悪い』って言いたい訳じゃないぞ」

「うーん、あくまで10000字だからなぁ、やっぱり盛り上がりどころに入る前に切れちゃうんだよな。これはこっちの事情で申し訳ないんだけど」

「4話の時点だと『説明会に行くのは就活生に志望動機を聞く事』で終わるから『さぁここから!』ってところでどうなるのか気になるな。一応、企画は10000字だから5話見るとオーバーして、条件的に平等にならなくなりそうだから見れなかったが。設定含めて悪いとは思わない。俺からはこんなところかな。お前は?」


「俺はお前の言う通り設定も好きだし、読み易いし、形式に拘らない形を目指してるなら十分だと思うぞ。出版になるとまた形式が違ってくるかもしれないけど……読んでて面白いし、長めでもテンポが良いというか目が止まらないのは個人的に好きだな。こういう話があると、就活生は助かると思うし『何から取り組むべきか?』『どこを目標にすべきか?』っていう組み立て方があるのも良いよなぁ」

「そうだなぁ、就活生は読んでおいても損はないんじゃないかな。さっきも言ったが……もっと早く出会いたかったと思うような話だったな」

「そんじゃあ、今回はこんなところか」


 啓馬は早速スマホを取り出して今回の感想を書き込んでいっているらしい。メモを普段から取っているだけあって、意外と早めにレビューは終了したようだった。スマホを仕舞うと、啓馬は再びメニュー表を眺め出す。


「よし、デザート食べようぜ! ここのプリン美味いらしいぞ!」

「太るぞ」

「大丈夫大丈夫、頭使ってるから!」

「脳の運動と体の運動は別だろ……」


 既に口の中も胃の中も油と豚骨で満たされているような気分になっている拓也は、改めて目の前の友人の胃袋が本当に自分の物と同じなのか、疑問を抱かずには居られないのだった。

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