4.《旭日のレジスタンス》 三ノ宮 くろすけ さん作

 さて今日のレビューが一段落した昼頃、俺達はまたしても出かけた。


「あ、今度はおごらないからなー。自分で払えよ?」

「連れ出したくせに……」

 啓馬のお勧め店でやってきたのは、近所に出来たばっかりのファミレスだった。今までチェーン店なのに都会にしかなかったこの店は、出来上がった当初から俺達の周りではそこそこ話題になっていた。こんな店一つで盛り上がるのはおかしいんだろうけど。

「やー、やっとこのド田舎にもこの店出来たよなー」

「ほんと、長かったな……ここの酒が美味いって聞いたんだけど、頼んでいいか?」

「真昼間から飲むな!」


「で、次のレビューは?」

 俺が頼んだのはスタンダードなマルゲリータピザだ。食べ易いようにピザカッターで切り分けながら、啓馬にく。まだ料理の来てない啓馬は「えーと」とスマホをタップしていった。


「内容的にはタイムトラベル物になるのかな」

「なるほど」

「ちょっと文字数はオーバーだけど、第一話目って事で誤差の範囲内にしといたぞ。合計11053字だな」

「まぁそれくらいだったら大丈夫か」

 八等分に切り分けられたピザを両端から摘まんで、そのまま持ち上げる。あつあつの湯気はない、それでも手から伝わる熱、離れた一切れと切り分けられたピザを繋ぐチーズ、そして上に乗ってるバジルの僅かな香り……うーん、美味そう。

「あ、ピザ一枚くれよ」

「あっ、こら!」

 説明が終わった啓馬は切り分けた俺のピザを「もーらいっ」と勝手に盗った挙句、さっさと口に含んでしまった。

「おい!」

 俺の声に一瞬だけ周りの客が何人かこっちを向いた。が、すぐに視線を戻した。要らん恥をかいたじゃないか、この野郎。

「声が大きいぞー、拓也ー」

「お前……もうすぐ料理来るだろ」

「いいじゃん、別に。あぁ、訊いたらいいのか? もう一枚貰っていい?」

「駄目に決まってるだろ、触んな」

 そこから啓馬の料理が来る間、奴の魔の手から俺のピザを守るはめになった。なんだかレビューする前からどっと疲れた……。


 そして食べ終えて、食後のコーヒーがやってくる。この一杯が読む時の大事なんだ。フェミレスだから香り高くなくなって、この場合はコーヒーを飲む行為ってのが重要だ。

「そんじゃ、早速頼むぞー。俺はデザート食べてるから」

 結局、啓馬はピザ一切れとパスタ大盛りを平らげると、今度は山盛りのパフェを目の前にしていた。今は刺さってるバナナから崩し始めている。胃袋どうなってんだか。

「分かってるよ」

 ピザでべたべたになった手を丁寧に拭いてから、俺はスマホを取り出した。


 四作品目は三ノ宮 くろすけさんの作『《旭日のレジスタンス》』だ。



「さて、感想は?」

 パフェの中身が半分ほど消えたところで、顔を上げた俺に啓馬が訊ねてきた。


読めない漢字が多いふりがながほしい……」

「馬鹿丸出しか?」

 呆れる訳でもなく啓馬が笑顔のままそう言い放った。うるせぇ、どうせ俺は馬鹿だよ。誰にでも書けそうな文章しか書けない男だよ。

「開幕から既視感が半端ないな、前回のレビューもお前の一言目がそれだったろ」

 啓馬がパフェを頬張りつつ俺をジト目で見て来る。

「そうなんだけど……やっぱ気になるんだよ。いや、今回使われてる字は読めるには読めるんださすがに。ホラーもそうだけど、歴史系も難しい漢字は多い。ここはどの層を狙っていくかで変わっていくとは思うんだけど、どの世代向けだろうと、ふりがなはやっぱり欲しい」

「まぁ、英語なんかもそうなんだけど、日常的に使わない漢字って忘れやすいからなぁ……」

「もしこれが本人の気に障ったら申し訳ないんだが……キャラクターの名前自体はふりがなを何度も振ってるけど、慟哭どうこく剣呑けんのんといった普段の生活で使わない漢字にはノータッチな状態で置いてあるのは違和感を覚えた。些細な事かもしれんが」

「難しい漢字が駄目って事か?」

「いやこの文体自体は変える必要が全くないと思う。設定もいいし文章も引き込むだけの勢いが序盤はあるし、最後の方がキャラクター紹介で少し勢いが削がれる以外は全部が俺なんかより全然上だよ。このままでも十分通用すると思う……えーと、でもな」

「まだなんかあるのか?」


「もうちょっと主人公の苦労を書いても良かったかなぁ……」

「って言うと?」


「この主人公がヒロインに付いて行くきっかけは授業の内容に違和感を覚えたから。後、普段から理不尽な事を学校が強いてたからなんだけど。その理不尽さの描写が冒頭に説明文として載ってるだけだから、目が若干滑る部分でもある。罵られたり殴られたりする台詞が一個あるだけでも違った……かもしれない。だから体罰の部分や理不尽さの印象が残らなくて、ヒロインとの邂逅かいこうも主人公が『こんなにあっさりヒロインに付いていくのか』と俺は少し感じた」

「でもお前、全く同じ悩み持ってなかったか? 主人公が街に行く理由が無理やり過ぎるんじゃないかって」

「いやほんとな。今も書き直したいとこ沢山あって書き直してる最中なんだけどさ……(※筆者の作品の事)だから俺がこれ指摘するのってすごくブーメランだろうって言う感情も滅茶苦茶ある。それくらい他人と他人が協力関係に結ぶまで持っていくのは難しいし……でもこの作品の場合だと主人公が付いていく理由は『そういう状況なら確かに』と思えるから、後は読者の目がそこで止まるような工夫があれば良いんじゃないかな」


 読み返してから自分で気が付く展開の「ここはおかしいだろ」「ここは変だろ」のオンパレード。他人に言われるまでもない。たぶん俺は指摘されても「分かってます……」と消え入りそうな声で答えるのが精一杯だろう。人が行動する理由付けは難しい。


「さっきも言ったけど文体や設定構成含めて俺より全然上だから、主人公の感じる不満度をもっと一人称視点を生かして深めたら、読者は主人公をもっと応援できる……と思う。でもここまで偉そうに言っといてなんだけど、自信はないな。俺はこれに関しちゃブーメラン野郎だし……」

「あーあー、マイナススイッチ入った。ほらほら今は考えるな考えるな、企画参加の人に申し訳ないだろ」

「じゃあお前の感想は?」

「俺? そうだなぁ……」


「まず、『敗戦しソ連に支配された日本、それは時間軸の違う世界の話で本来の時間軸が存在していた。だから、本当の日本を取り戻すために戦う』っていう設定、インパクト十分だからそこは本当に大きいと思うぞ。タイムトラベルをそこに絡めるのは中々見ない設定だからな!」

「確かに……『もし日本がこうなったら……』で他国に占拠されてる日本が舞台の所はあるけど、タイムトラベル系は見ない気がするな」

「これはあくまで俺らの見てる範囲内だけどな。最初の引き込みは凄くいいと思うぞ。文章のベースはしっかりしてるから、ふりがな振ってからの少し読み易さを上げるともっと手が止まらなくなりそうだ。だから文のスタイル自体は変える必要なし! ただキャラクターの設定も作り込んであるけど、事件解決しながらどんな能力を持ってるか分かるような描写にして、一話目はさぁ行くぞ!ってところで切ったら勢いが削がれなくて良かったかも」

 そこまで言ってから、啓馬は「うーん」と腕を組んで唸って見せた。

「と、思うんだけど……俺も自信ないなぁ」

「お前も自信ないんかい」

「やっぱり自分より良い文章書いてるなーって人は分かるし……その人の作品に感想書くって難しいよな。書いてる人のモチベーションダウンに繋がるような事はしたくないし……あ、でも、作品はこれから盛り上がり所での描写が楽しみだなぁって思ったぞ!」

「それは同意する、タイムトラベル物だからこれからどうなるか? そこは注目度が高いな」


「えーっと……こんなところか」

「お疲れ様ー」

 そこで俺達は区切って、溜息を吐く。俺は少し温くなったコーヒーを飲んだ。

 感想を言ってる間も啓馬が頬張っていたパフェの器はすっかり空になっていた。

「お前の食欲は勢いが落ちないなぁ……」

「物創りへのハングリー精神が十分だと、食欲にも出ちゃうんだなぁ」

「絶対違うだろ……」

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