28話 告白の日

 今日はみんなそわそわしている。

 ぼくだってそう。

 なぜなら今日はナギトくんが告白される日だから。

 みんな腕時計やスマホで時刻をしきりに確認している。そろそろ午後六時だ。


「ナギト、そろそろじゃない?」


 マヤちゃんが沈黙を破る。


「ああ。そうだな。行ってくる」


 ナギトくんが鞄を持って部室を出る。これから屋上に向かうんだろう。

 だんだんと足音が遠ざかっていく。


「さて。ナギトも行ったし、わたしたちも帰ろっか」

「そうね」

「そうですね」


 意外だった。マヤちゃんのことだから「覗きに行こう!」って言うかと思ってた。


「ヒカリちゃん帰らないの?」

「今行くよ」


 鞄を持って部室を出る。

 マヤちゃんが部室のドアを閉め、ガチャリと鍵を回す。

 その横顔はどこか寂しそうだった。


 ――――


 そういえば、屋上での告白なんてフィクションの中だけだと思っていたが、現実にもあるんだな。

 屋上で昼食をとったことは何回かある。だけど、放課後に屋上に行くのは初めてだな。


 そんなことを考えているうちに、ついに屋上の扉の前まで来てしまった。

 深呼吸をしてドアノブに手をかける。


「やあ。ちゃんと来てくれたね」


 俺を出迎えたのは凛とした少女だった。でも、見覚えは全くない。


「『誰だ?』って顔をしているね。無理もないよ。私は二年生だから」


 そういって少女は右足を上げる。上履きの色は二年生のものだった。


「まず、名前を聞いてもいいですか?」

「すまない。名前は伏せさせてもらうよ。失礼だとは思うけど許してくれ」

「別に良いですよ」

「ありがとう。ところで、今、深海くんは私に一目惚れをしたかい?」


 いきなり何を言い出すんだ。


「は? ――すみません。一目惚れはしていないですね」

「そうか。残念。私は深海くんに一目惚れだったんだよ」

「はい」

「でも、私は深海くん自身のことをほとんど知らないわけだ。深海くんだって私のことを全然知らないはずだ」

「そうですね」

「ふと気がついたんだよ。見知らぬ人から愛の告白をされてもピンとこないんじゃないかって」

「そうかもしれませんね」

「私に一目惚れでもしてくれたなら、すべて上手くいくと思ったのだが、深海くんはそうじゃなかった。そこで、だ」


 先輩が一歩前に出る。


「恋人になることを前提に、まずは私と友達になってくれないか?」


 先輩は右手を差し出す。


「すみません。先輩と友達にはなれません」


 答えは最初から決まっていた。


「どうしてだい? もしかして、既に彼女がいるとか?」

「いえ、彼女はいません。でも、俺には好きな人がいるんです。すみません」

「そうだったのか。馬鹿みたいだな。私一人で舞い上がって」


 先輩は笑っているが、声がかすかに震えている。


「すみません……」

「いや、いいんだ。名前を伏せておいてよかったよ。こんなに恥ずかしいことはないからね。これでも精一杯勇気を振り絞ったんだけどね」

「ありがとうございます」

「深海くんはその子のことどれくらい好きなんだい?」

「実は数年間ずっと片想いなんです」

「そりゃ、私なんかがかなうわけないね。私は新しい恋を探すことにするよ。深海くんも後悔のないようにね」

「はい」

「良い表情だ。じゃあ、私はそろそろ帰るとするよ。私の青春に付き合ってくれてありがとう」


 先輩は去っていった。


「告白か……」


 いつかはしなくちゃな。

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