26話 アカリにまでラブレター。……本当に偶然か?

「それで、どうだったの? 女の子同士のカップル成立?」


 マヤが尋ねる。俺もちょっと気になる。


「いえ。今回はお断りしました」

「そうなんだ」

「ラブレターをくれた人と色々話してみたのですが、今のところは、わたしはどちらかといえば男の子のほうが好きということになったので、まずはお友達からというところに落ち着きました」

「ど、?」

「はい。どちらかといえば、です」


 どちらかといえばってことは、相手によっては女の子同士もありってことか? それはそれで見てみたい気もするな。


「リサちゃん、それって女の子同士もありかもってこと?」

「そう言えるかもしれませんね。ヒカリさんみたいに可愛い女の子だったら付き合っちゃうかもしれませんね」

「もう! 僕は男だよ! からかわないで」

「ふふ。冗談ですよ」


 リサがにこやかに微笑む。冗談なのかどうか判断しにくいな。


「そういえば、アカリ遅いねー」

「ただいま」


 アカリの声が聞こえる。


「お。噂をすれば」

「おかえりなさい、アカリさん。なんだか嬉しそうですね。良いことでもありましたか?」

「わかる? 私ももらっちゃったのよね。ラブレター」


 アカリの人さし指と中指には封筒が挟まれていた。

 スキップでも始めそうなくらい、アカリはうきうきしている。こんなキャラだったか? まあ、ラブレターもらったら嬉しくもなるか。


「四人もラブレターをもらうなんてこんな偶然あるんだね」

「確かに、すごい偶然だな」


 でも、本当にただの偶然だろうか? 


「誰かのイタズラって可能性はないか?」

「え? 何言ってんの? イタズラってことはないでしょ。実際にラブレターを送ってくれた相手と話してるんだから。振っちゃったけど。私はもちろんヒカリちゃんやリサだって。ねえ?」


 そう言ってマヤはヒカリとリサの顔を見る。


「うん。でも、ぼくの場合は話したって言えるのかな……」


 ヒカリの顔が暗くなる。しまった。嫌なこと思い出させてしまった。


「ごめんな。ヒカリ」

「ううん。大丈夫」

「わたしだって相手とお話をしたから色々と考えがまとまったわけですし」

「そうだな」

「それに、待ち合わせの時間も場所もバラバラでしたよね。相手だってもちろん違いますし。その人たちがわざわざ協力して、わたしたちにイタズラしたってことですか? そっちのほうが無理がありますよ」


 うーむ。反論が思い浮かばないな。


「イタズラを疑うなんてラブレターをくれた人たちに失礼じゃない? ナギトってそんなに性格悪かったっけ? それに、よく言うじゃん。『事実は小説よりも奇なり』ってさ。世の中何が起こるかわかんないよ」

「そうだな。俺が少しひねくれていたな。悪かった」


 人の好意を疑っちゃだめだよな。


「そろそろ私の番にしても良い?」


 アカリがずいっと身を乗り出す。

 そうだった。アカリがラブレターをもらったんだった。


「アカリ、すごく嬉しそうだね」

「ラブレターをもらうなんて物語の主人公みたいじゃない?」


 なるほど。読書好きのアカリらしい。


「ねえ、誰から? 名前書いてないの?」

「封筒には書いてないわね。開けてみるわ」

「え? アカリもここで開けるのか? 一人で読まないのか?」

「ええ。だって付き合うつもりなんてさらさらないから。今はみんなと一緒にいることや本を読んでいるほうが楽しいから」


「なんだって!?」


「今言った通りよ。付き合うつもりはないって」

「じゃあ、あの喜びようは何だったんだよ」

「ラブレターをもらうっていうイベントがおもしろいの」

「そうなのか……」


 ラブレターを開ける前から玉砕が確定。マヤの時よりひどいな。


「断るつもりなら、皆で読む必要ないんじゃないか?」

「ラブレターを書く時の参考になるかもしれないでしょ? あるかわからないけど」


 断る前提で読まれるラブレターって悲しすぎないか。


――――――――――――

 池谷 灯さんへ

 図書室で本を読むあなたの姿を見てからというもの、

 図書室に行くといつもあなたの姿を探してしまいます。


 僕とはクラスが違うので、僕のことをあなたは知らないと思います。

 いきなり「付き合ってください」なんてことは言いません。

 せめて僕と読書友達になってくれませんか。


 ○月▽日の放課後 図書室で待っています

――――――――――――


「控えめなラブレターだね。アカリ、読書友達すら断るの?」

「告白は断るつもりだったけど、こう来たか。まあ、会ってみないとわからないわね」

「そうだよ。良い友達になれるかもしれないよ」

「私より20cm以上背が高かったら断ってやろうかしら」

「たいていの男子はそうなんじゃないか……?」

「冗談よ」


 まずは友達から、か。


「だいじょう部でラブレターもらってないのナギトだけだねー。さみしい?」

「別に」

「そのうちナギトにもラブレターがくるかもよー?」

「そんなわけないだろ」


 ここで俺にラブレターが送られたら、奇跡ってやつだろう。

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