シーズン1「春はあけぼの。やうやうゲームにそまりゆく」-12

 「それでは決勝戦。スタートです!」

拍手と共にゲーム音楽が会場に響き渡る。日下が「豪鬼」を選び、ピカイチが「ガイル」を選んだ。二人とも使い慣れたキャラクターだ。

「FIGHT」

 ラウンド1。開始と同時に豪鬼の豪波動拳とガイルのソニックブームが放たれ相殺された。両者ともジャンプで距離を詰める。豪鬼が空中竜巻斬空脚を放った。ガイルが空中でソニックブームを放つ。豪鬼がダメージを受ける。ガイルがさらにジャンプで近づきながらの空中ソニックブーム。豪鬼が立ち上がりと同時に豪波動拳を放つ。今度はガイルにダメージ。

豪鬼がステップしながら近づき、中パンチ、下中キック、大パンチ、豪波動拳と畳みかける。ガイルはかろうじてすべてガード。さらに豪鬼が追い打ちをかける。数発をガードしたが、被弾し始め、画面隅に追いやられた。

上下のキックのラッシュから旋風脚から浴びせ蹴り。ガイルの体力が少ない。ガイルも攻撃を返すが距離を取られる。お互い距離の測り合いの牽制攻撃が続く。ガイルのソニックブームからの下キックやリバーススピンキックが少しづつ当たりはじめた。そのまま逆転するか。と、その時、豪鬼のクリティカルアーツ、赤鴉空裂破が炸裂。豪鬼の勝利。

 ラウンド2。やはり実力伯仲だからだろうか。ラウンド1とまったく同じ展開が繰り広げられた。距離を探りながら隙をついてコンボ。ガイルのコンボが決まれば、豪鬼のコンボが決まる。お互い残り体力が少し……最後に決めたのは、日下の豪鬼だ!

 牧田は後がなくなった。流れも日下に来ているようだ。まずいかも。その時、

「ピカイチくん、がんばれ」

いつの間にかオレの横にいた中くらいが叫んだ。

「牧田、負けるな。まだやれるぞ」

プレッシャーかけてやるなよって一瞬思ったけど、つられて声を出していた。牧田がこっちを向いて力強く頷いた。応援や声援が力になる時ってあるよな。

 ラウンド3。今度は飛び道具の応酬ではじまった。豪鬼の豪波動拳とガイルのソニックブームが飛び交う。時に距離を詰めるために、時にコンボにつなげるために。少しづつ体力を削り合い、またもや両者あと一撃という状態になった。

 牧田頼む。一撃入れてくれ。豪鬼がジャンプで距離を詰めつつ空中竜巻斬空脚を放った。ガードが難しい高さだ。ガイルがすかさずガイルハイキックを放った。豪鬼に攻撃が当たった。牧田が1ラウンド返した。画面を見ているはずなのに、ゲームを見ているはずなのに、目の前で本当に戦っているような錯覚に陥った。大きな会場でたくさんの歓声を浴び輝いている。


 ラウンド4。日下が豪波動拳を三発連続で放った。牧田が一発目はソニックブームで相殺し、二発目三発目はガードする。その間に日下が距離を詰め、上下に蹴りを放つ。ガードした牧田に竜巻斬空脚。ガイルはガードし、ハイキックでダメージを与える。削り合いが続く。息を飲む戦い。歓声と沈黙が繰り返し波のように起きる。実力は拮抗しどっちが勝ってもおかしくない。

 ラウンド4を取ったのは、牧田だ。これでラウンド二本ずつになった。次で勝者が決まる。対戦している二人が顔を見合わせた。ものすごく楽しそうな笑顔。入り込めない二人の世界があるようで、なんだかうらやましかった。同時にゲーム部に入ってよかったとしみじみ思った。

「FIGHT」

いよいよラストのラウンド5。これで終わる。この瞬間に立ち会えてよかった。胸が熱くなる。

 牧田の意表を突いたリバーススピンキックからはじまった。日下は読んでいたかのように後ろに飛んで空振りさせた。そこから竜巻斬空脚で牧田が倒れる。立ち上がりを下キックからの中パンチを二発。強パンチから波動拳。波動拳をガードした牧田はハイキックを放つ。ヒットした日下は回転しながら派手に倒れた。

 立ち上がりを狙い近づいた牧田を日下が投げた。立ち上がりをラッシュ。下、中段の連続キックのあと豪波動拳。牧田の体力がみるみる減っていく。さらに掌底からの胸ぐらを掴んで動きを止めて豪波動拳。そこに日下のクリティカルアーツ、赤鴉空裂破が決まってしまった。

 牧田の体力はみるみる減っていく。なんとかぎりぎりで残った。日下の体力はまだまだ余裕がある。挽回は難しいだろう。

 日下がラッシュをかけた。上、中段、下キック、ステップインしての中段パンチからの掌底。なんと牧田はすべてガードした。しかし画面の隅に追いやられた。万事休す。画面から目を反らす。牧田にピントが合った。牧田が西日に照らされて輝いてみえた。いや本当に輝いていたんだ。子供の頃に憧れたヒーローのように。

 牧田がリバーススピンキックを返し、弱ソニックブーム、ガイルハイキックを繰り出し、サマーソルトキックを放つ。さらにステップインして立ち上がった日下を連続ソニックブームで動きを止め、上中下のパンチ、キックの応酬。

 そして、クリティカルアーツのソニックハリケーン。映像がスローモーションのように見えた。すべて決まった。

 まさに劇的な、大逆転だ!会場が大歓声で揺れる。牧田も日下も全力を出し切り放心状態だ。

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