シーズン1「春はあけぼの。やうやうゲームにそまりゆく」-4

 なんとか、苦悩の末、試験が終わり、結果発表の時が来た。オレは全部平均点よりちょっと上。勉強はそこそこできるのさ。全国偏差値五十ちょいの学校だから自慢にはならないけど。心配なのは牧田。牧田は登校拒否してたぐらいだ。学校も勉強も好きじゃないんだろう……。ゲーム部に入ってから来るようになってたのに、試験が終わってから学校に姿を見せていない。格ゲー大会も大丈夫かな。

 廊下に試験の結果が張り出された。上位二十名は張り出されるのだ。いくら上位とはいえ晒されるなんて、さらし首と同じだよね。一応チェックしてみるか。と、目の玉が飛び出すかと思うぐらい目が開いた。

「一位・牧田史郎」

牧田って苗字は学年に一人しかしないし、名前は史郎だったね。間違いないね。あの牧田だね。牧田、勉強できたのかぁ。なんだよ。心配して損したよ。

「ピカイチくん、成績もピカイチだったんだ」

いつの間にか中くらいが隣にいた。

「うちの部に全学年のトップがいるなんてすごいよね」

えっ?今なんと?

「飛鳥くんは大丈夫だった?赤点ない?」

「は、はい。大丈夫でした……」

勉強はできるほうなんて一瞬でも考えたことが恥ずかしい。

「で、ピカイチくんはどう?学校来た?」

「まだ来てないですね。試験が終わってずっと。もう三日も……」

「じゃあ、やっぱり家に行くしかないね」

「家?」

「じゃーん。住所手に入れたよ」

「ど、どこから……」

「秘密。ほら個人情報に厳しい時代だから流出元がばれたらやばいでしょ。早速、今日の放課後行くからね。じゃ、また後で」

あれ?行くこと決定?まったく中くらいは強引だなぁ。でも人の家に行くのって久しぶり。眠くてだるいだけの午後の授業も牧田の家を妄想すれば何時間でも耐えられそう。


 日が暮れ、窓から無数の光の輝きが見える。東京の夜景は今の時代にしか見ることができない宝石箱だ。この光のすべてに生活があり、物語がある。貴重な光景を目に焼き付けた。牧田の家は、東京都内にあるタワーマンションの三十ニ階だった。千葉の古い一軒家に住むオレとは住む世界が違う。リビングの壁一面がでかい窓になっていて、窓の前で圧倒され、立ち尽くしていた。

「飛鳥くん、座ったら?」

「う、うん」

どどど、どこに座ろう。緊張してキョドってしまう。とりあえず真ん中に鎮座しているソファーの端っこにそっと座った。ふわぁ。フッカフカ。いいソファーだ絶対。このリビングも何畳あるんだろう。二十畳?三十畳?見回してると牧田がお茶を入れて持ってきてくれた。グラスが照明に反射し、多方向に輝きを放っている。

「ピカイチくん、ご両親は?」

「うち母子家庭で、母親は仕事に出てる。夜はずっといないよ」

「そうなんだ」

いきなりバツの悪い空気になった。

「牧田くん、最近学校来ないけど、どうしたの?」

やばい。フォローしようと話題を変えたつもりだったけど、さらに空気が重くなった。

「仕事が忙しくて」

「仕事!?」

「はやく自立したくて、出版社がやってるゲームの攻略サイトの運営の仕事をしてるんだ。打ち合わせ以外は家で仕事してる」

「すごいよ。高校生で仕事してるなんて。かっこいいな。オレなんて、何も考えずなんとなく毎日を過ごしてるだけだから」

自然にあふれだした言葉だった。牧田は照れているようで目をそらす。

「じゃあ、学校にはもう来ないの?」

「勉強はやってるし、卒業できるぐらいには行くと思う」

「大会はどうするの?」

中くらいの質問が止まらない。牧田は、何か言おうとしたが、無言で、顔を伏せた。それで察した。けど、何か言おうとした。何かを。

「来てほしい」

中くらいの想いが言葉になって真っすぐに向けられた。牧田は顔を上げ、小さな声で、振り絞って声を出した。

「僕、怖いんだ。また同じことになるのが……怖いんだ」

「同じこと?」

「僕は内気で、小学校の頃は友達がいなかった。小学校の頃から母親しかいなくて、夜の仕事してるから、親から遊んじゃいけないって言われている同級生もいたみたいだ」

残酷だよな。子供には罪はないのに。いや子供だけじゃない。真面目に働いている親にも罪はない。

「母親はなんでも与えてくれた。お金もおもちゃもゲームも。特に一人で遊べるゲームはどんどん増えて、おかげで退屈することはなかった。中学生に入ってからは、ゲームがきっかけで、やっと数人の友達ができた。家でゲームの練習して、一緒にゲームセンターに力試しに行っていたんだ」

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