Episode.3

第22話 幼馴染に隠れて、サプライズ計画は始まる。

「えー、ということで。本日みなさんにお集まりいただいたのはですね……」


 コホンと、咳ばらいをしつつ僕は話を切り出す。


 場所は甘党家のリビングだ。


 しかし場は全くというほど整っていなかった。集まってもらった4人は僕のことなど気にも留めずそれぞれに会話している。


「なんだ~なにキョロキョロしてるのかにゃ~? ゆいにゃ~?」


「キョ、キョロキョロなんてしてないわよ!?」


「ほほ~? まぁまぁ、男子の家だからってあまり肩ひじ張りなさんな。取って食ったりしないから。堂々としてりゃいいのさね」


 ぐでーっとソファーにうずまるアイナ。その隣に背筋を伸ばして座る桜庭さんはアイナを白い目で見つめる。


「なんであなたがそんな偉そうなのよ……」


「そりゃまあ? アイナはもう慣れてますし? もう第二の我が家ですよ」


「な、なぁ……っ!? お、男の子の家に入り浸るなんて慎みがなってないんじゃないの!? しかも出会って間もないのに! か、会長! 会長だって当然そう思いますよね!?」


「ご、ごめんさない桜庭さん……実を言うと私も何度かその……朝食をご一緒させてもらっているわ……」


「ゆいにゃおっくっれてる~」


「ワ、ワタシじゃなくてあなたたちがおかしいんでしょう!?」


「安心しろ桜庭~。オレも初めてだ。おかしくね? なんで引きこもりがクラスメイトの男よりも先に美少女ばっかり連れ込んでんの? なあおい、おかしくね? オレ泣いていいよな?」


「……誰よあなた」


「なあオレやっぱ泣いていいよな!? もう泣くよ!?」


 村上君が僕に泣きついてくる。クラスメイトであるにも関わらず桜庭さんに覚えられていなかったことが相当心を抉ったらしい。少し可哀想だ。


「それよりみなさん、甘党君の話を聞きましょう? ね?」


 会長がパンパンと手を叩いて場を鎮める。さすが、人をまとめるのはお手の物らしい。みんなの目がこちらに向く。やっと落ち着いて話ことが出来そうだ。


 集まってもらったのはアイナ、桜庭さん、会長、村上君の四人。


 この数週間で交流を持つことができた人たち。そんな彼らに今日は相談があって、僕はこんな慣れないことをしているのだ。


「え、えーとですね。その……」


 言葉が上手く出ない。視線が集まっていると思うとやっぱり少し緊張していた。


 しかし4人それぞれが、僕の言葉を待ってくれている。もう一度深呼吸をして、僕はついに本題を口にした。


「来週末、優月の誕生日なんだ。それで、みんなでサプライズパーティーとか……できたらなって。どうかな」


 そう、それがこの場に優月がいない理由。


 日頃お世話になっている幼馴染に、ついこの前も迷惑をかけてしまった幼馴染に。僕は何かがしたいのだ。


 一瞬の静寂。それを破ったのはやはりというべきか、アイナだった。


「いいじゃん! めっちゃいい!」


「そうね。野中さんもきっと喜ぶんじゃないかしら」


「まあいいんじゃないの」


 続いて会長が微笑み、桜庭さんはふんと顔を背けながらも頷いた。


「あり? でもさあそれなら村上いらなくね? 超絶いらなくね? 帰ってよくね?」


「なんでそんなこと言うのぉ!? 聖ヶ丘は聖女じゃなかったのぉ!?」


「いや、村上は叩いて伸ばす方針なので。アイナ、ちゃんと分かってる。村上心の中ではめっちゃにやけてる。そういうところがやっぱりキモい」


「あばばばばばばば……」


「でもまぁ、そういうところが可愛くないこともないぞ?」


「あば、あばば……やっぱり聖女だったぁ……」


 アイナは村上君の頭を軽く撫でる。二人のやり取りは遠慮がなくて、仲が良いんだろうなぁというのが窺える。


「んでんで、実際なんで村上君いるん?」


「あ、そこはガチ疑問なのね……。そりゃああれだわな。甘党と野中の共通の友人、いや親友枠としてもう呼ばれて当然……」


「ああうん、なんか男が僕一人じゃ浮くかなぁってなんとなく。あ、でも優月が嫌がるかも……?」


「甘党までそんなこと言い始めないで!? ちゃんと盛り上げるからぁ!? 仲間に入れてくれよぉ!? ハーレムとかぜってえ認めねえんだよぉ!?」


「うわ、最後本音出てるやん。キモ」


「ハーレム……」


 アイナと桜庭さんが冷えた瞳で村上君を見つめる。会長だけがよく分かっていなそうに首を傾げていた。


「で、パーティーなんだけどみんな参加してくれるってことでいいのかな?」


 ひと段落して僕が聞くと、それぞれが快く頷いてくれた。


「場所はどうするのかしら」


「あーそれは……」


「ここでいいんじゃん?」


 アイナがあっけらかんと言う。


「ゆづっちも良く来るんなら慣れてるっしょ? ゆづっちの家は一人暮らしだからこの人数のパーティーに向かなさそう。何よりそれだと準備がネックだしのー。その点ここなら広さもバッチし」


「優月が一人暮らし……?」


「どしたん?」


「ああいや、なんでもない。それならやっぱりここが最適かな」


 疑問を振り払いつつ、アイナの提案に首肯した。このメンバーの中では、おそらくアイナが一番こういった催しに慣れているだろう。


 それからテキパキと話は進んでいった。基本的にはアイナと村上君が中心となり、会長が合間合間で話をまとめる。桜庭さんも時折鋭い意見をしていた。僕はといえば、成り行きを見守るばかり。


 当日までに用意すること。当日の会場設営。料理の手配。次々とパーティーの概要が出来上がっていく。


 そして、一番大事ともいえる優月を連れてくる方法。


「まあそれはやっぱりあまっちの役目じゃない?」


「だなぁ」


「僕?」


「パーティーは夕方からなのだから、いっそのことそれまでは二人でお出かけでもするというのはどうかしら」


「いいね会長さんさすが! 流れで家まで連れ込んじゃいなよ、ユー! あ、でもそれだとあたしらお邪魔かぁ~?」


「破廉恥……」


「な、なにがお邪魔なのさ!? ふつうに! ふつうに連れくればいいんでしょ!? 桜庭さんもなんでそんな目で見るのさ!?」


「まあでも名案じゃね? パーティー前にデートして来いよ」


「う、うーん……」


 デートなどと言われても当然したことがない。いくら慣れ親しんだ優月とであったとしても、何をすればいいか全く分からなかった。


「そうさなぁ、それなら……これでどうじゃね」


 悩む僕にアイナが告げたその提案で、僕との明日の予定が決まった。

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