第13話 消えた美月!


 満の中のは心底よりあせっていた。美月は姉が居なくなった今、満の精神のほとんど中心を占めている、もしも万が一があればヤバイ!自分程度のセーフティなど軽くぶっ飛んじまって良くてもバーサーカー化するだろうし、落ちれば正直どこまで行くのか分からん!と言うぐらいは先ほどからの精神の動揺の深さで分かった。さっきからも全力で精神安定と強化をし続けてはいるが情動の波に飲まれそうだ。

((三条の話が間違い無いのなら・・美月ちゃんが姿を消してすでに48時間以上は経っている。満にゃぁ悪いが、嬢ちゃんが今頃は何をされていてもおかしくねぇ状況だ・・やべぇな、次に逢った時・・どんなことになるか・・。うかつな相手なら単に犯すか、殺すか・・だが?なめてかからん方がいいか?俺ならギリギリ無事なフリをさせておいてここぞって時に罠を作動させる。))

(奴らの事だまぁ、どの道一筋縄ではいくまいよ・・満。)

「そんな事、分かってるよ!」 

 

 帰ってすぐ三条さんから部下になる予定だという人たちがふたり、さっそく面会に来ていた。

美月の事で時間は惜しいが、今はひとりでも手が欲しい。


 「よろしく、満くん。僕は素直すなお素直 主税すなお ちからという。」

ずいっと握手の為に出したであろう右手はまるで野球のグローブみたいだった。一瞬、右手を潰されそうなイメージが脳裏に浮かんでしまい、ぼくは手を出すのをためらってしまった。そりゃそうだろう2m近い背丈の大男で、スーツをむりやり着込んだようなこればかりは当然のこと体色は肌色をしてはいるがアメコミのハルクというガチムチヒーローに外見がそっくりな巨大筋肉男だったんだから。


そんなときにセクシィないかにも大人の女性を思わせるハスキー

ボイスでもうひとりの方から声がかかった。

 「あら、ハルクったら・・もうお宝クンに嫌われたの?早すぎ〜ッ!」

(「ニックネーム・・そのまんまなんだ・・。」)

と思いながらボクが声につられて女の方を見た。ダークグレーのタイトスカートのスーツと胸もとを広く開け過ぎたシャツ姿が体のラインをピッチリと包んではち切れそうに浮かび上がらせているのと相まってエロい。やや、細身に見えるがピンッと張ったスーツの生地が肉の厚みやふくらみを、シャツの隙間の空き具合などが普段見え無いハズの肌を直視させてエロい事この上ない・・すかさず165-57、89-62-91とが見て取ったサイズの金髪碧眼、黒く輝く様な美しい肌で古風な表現で言うと典型的なBビューティーでこちらもアメコミのスーパーヒロインが実写で出て来たような引き締まった体の出るとこの出た『ゴツい』という印象までは無いが筋肉質な戦う女性に見えた。

だが、目つきや表情など全てを併せ見るとのイヤなエロさ剝き出しで毒気にあてられて何だかむせ返りそうでそのおかげで逆にエロい目で見つめなくてすんだ。

「なんです、その・・お宝クンっての?・・ボクの事ならやめてもらえませんか?物じゃないんで。」

筋肉同士はお互いに顔を見合わせ肩を竦めるゼスチャーをした。

「おい、エボニークィン!お前さんも同様に嫌われた様だぜ。」

「いいえ!彼はオンナにはシャイなのよ、初対面でタッチしてきた貴方と違ってね。」

「ただのオンナじゃなくてヤリ○ン悪女だからじゃねーの?」

すかさず言い返したそれこその言葉に鬼女のような迫力で睨み返すルーチィ。

「ムッ!ア・タ・シが?」

DQN達と戦う前ならチビってしまうほどのふたりの気迫だが、

今のボク達は何度も死線を潜り抜けて来たのだ。

命のやり取りをするのとはそれこそが違う。

そう、剣道の道場での稽古と野辺での真剣試合ほどにふたりのやり取りには余裕に差が有った。


(「ホントは仲良さそうだね。」)

(見てるとな・・。)

男は素直 主税すなお ちからさん31歳の職業ボディーガードと女性の方はルーチィ・サンダース女史26歳のこれまた秘書兼ボディーガードというふれこみらしい。

(とても一般人にゃぁ見えないよな!)

(「どう見てもどこかの組織から派遣されて来たって思う・・」)

このふたりはどうやら職にあぶれたのでオジサンがボクと美月の護衛としてスカウトしたようだ。


 元の素性はともかくとして例の【ステテコ親父】さんと【キニー】ちゃん親子がカラス忍者隊じゃないや・・八咫やたマンの人選候補者に飛び入りで乱入したらしい、おかげで大番狂わせになったようだった。そのときのあぶれた人たちの中で特に使えそうな数人だけをわざわざ説得して署へ同行した。

「ぶらぶらさせとくのももったいねぇからな。」

と三条さんが選んで署長と話を付けて連れて来たらしい。

オヤジ署長は『とりあえずすぐ使えそうなのを見繕って引っ張って来たんだ、費用はうちで出すんでこき使え。』との仰せだ。」

高校生のガキにこき使われるのは二人にとっては嫌だろうが、逆に無事助け出した美月や【ステテコ親父】さんに【キニー】ちゃん親子にとってはボクは単純に良い事だと思っている。


これから美月の捜索をするのに当然手が足りないので、連絡係や助手として好きに使えって事なんだそうだ。


(おいっ気軽に使うどころの人物じゃねーぞ、ふたりともな。デカいのは自衛隊の空挺団レンジャー出身の猛者。その後1年程【資料無】って事になってるが、どこかへ研修でも出されたか?あとの色っぽいねぇちゃんだがハーバード出の才媛でFB I からの出向だとよ、見た目で言うとCIAのほうが合うんだが、満の姉ちゃんを知って無けりゃすげぇんだろうけどよ、しかし・・アメリカさんも分かりやすい手の出し方を・・。)


脳内兄貴から聞いた情報にボクが思わずつぶやいた声はかすれきって疲れた小声でうめき声になっていた。

「空挺~、FBI・・マジ?国家も絡むのかよ・・。」

その声にふたりは心底驚いたように目を見開き、軽く身構える。

「ん!」「oh!」ザッ!ジャリッ


「言っただろう、ただのガキじゃないって。まぁこんな奴なんでヨロシク頼むわふたりとも。」

三条さんが間に割り入るのを見て時間に追われているのを思い出した、こんな事してる場合じゃない。

「この際だ国の人間でも誰でも、イヤもう直接の敵で無けりゃ助けなら何でもいい。あと美月さえ無事なら・・。」


それを聞いて三条さん以下の2名も大人しくする事を選んだようだった。


(・・だな、行くか。)


 三条さん達が絞り込んだヤサは2ヶ所。数年前から導入された、新NシステムことNxⅡシステムで特定の車両を土砂の路面以外の全ての特殊舗装された感応式記録路面で走行記録が取れるうえに、車種・色などの情報とナンバーの一部さえ特定できれば他は何も問われずに密かに追って調べ出すことが出来るスグレモノだ。文化首都であるこの京都、経済首都で副首都の大阪、本来の政治首都の東京と防衛部首都と言われる九州は福岡の4大都と後は主要府県数ヶ所にしか無い超最新鋭設備だ。

それと現在では当たり前となった各交叉点内に標準装備された防犯カメラとの組み合わせで現在では防犯・犯罪の検挙等に非常に有効な手段となっているのだった。

もっとも、ここ1年弱ほどのDQN事変のため、酷いところはライフラインの寸断や各種システム障害などの為に全てが100%とは行かなかったのだが。


 それでも、学校から飛び出した美月の足取りをNxⅡ システムとカメラ録画でローラー作戦を行い網をかけてなんとか追ったのだという。

それで判明したのは美月の事を追いかけて車内に連れ込み誘拐したと思われる黒い大型バンタイプの偽造ナンバーの乗用車は候補が2台うかんでいた。

絞りきれなかったのはバンが逃走中に火災事故のおきた有料トンネル内に1度入られてからシステムエラーで3秒間姿を失ったからだと三条さんから聞いていた。

2台の黑いバンの1台は伏見稲荷の裏山の七面山の宅地造成工事現場へ、そしてもう1台は市営深見霊園方面へ向かって、その後霊園のガレージに車を止めて管理事務所内に入ったようだった。


以上の2か所を順番に急襲するわけだ、美月を救い出すまで。


焦りのせいで今にも飛び出しそうな満はエルーサさんに裏庭に呼ばれるとエルーサさんはおらずに三条 さんだけが待っていた。


満は三条 実方さねかたさんとサシで向かい合って一発!  ドッ! 強烈なのを腹にもらったのだった。


「ぐっ ゴホッ!ゴホッ。」


「これは貸しだ!美月が無事帰ってくれば返しゃあいい、録画の最期より手前の所で、泣きながら走るあいつと満くんの間でどんな話があったのか、俺は知らんが・・。あれの父親としてはどうしても最近のあの子への態度はガマン出来ん。・・だが君にもなんだ・・コスプレ?の件とか色々と有るようだし今回はこれで勘弁しといてやる。」


「すみませんっ!おじさん・・必ず・・。」


実方さねかたさんは満の言葉を片手を広げてさえぎった。

おじさん夫婦が一番心を痛めているだろうになんでこの人はこんな何気ない仕草も絵になるんだろうと見て思う。


「満、おとこがベラベラと余計な事をしゃべって安請け合いすんなっ!」


いつぞや以来の真剣な三条の怒声に反射的に身がすくむ。


「ぼ・・うっ・・。」


「あいつが既にオロクになってたら何を言っても意味ねぇしよ。どんなに願っても叶わねぇ事があるのが世の中だ。 ・・けど、出来ればふたり共無事に帰ってきてくれ・・たのむ。」


「はい・・・・。」


そうだ、ボクは妙な【力】を得たことでそれに振り回されていたのかも知れない。


TVのように都合よく主役級の人々がヒーローに必ず助けられたり、主要な人物は死なないなんて『お約束』は現実には存在しない。


【力】によって現実を少々変えられたからと言ってもHE-MANとて万能・全知全能などでは無い。浮かれて調子に乗っていたんだ。【力】に酔いしれていたのだろう。


その証ででもあるかのように犠牲になったのが美月だ、この世で一番守りたい人の傍らに肝心の時に居て守ってあげる事ができなかった。

あの日にだって恐い目に合わせてしまったというのに・・。

【力】の中心が狙われていて危険だから遠ざけようなんてカッコつけて方策も何も考えずに浮かれていた隙をつかれたんだ。


強烈な自責の念と共に前の丈司と杏奈の暴行事件や【引キニー】の時のイジメの名を借りた殺人、【金ジャラ】の時のセリフ等を思い返した。


―「ボコボコにしたお前の目の前でその大事なおんなを全員でボロクズになるまで犯し抜いてヒィヒィ言わせてから殺してやるよっ!」―


世界は矛盾の上にさらに無慈悲と不平等そして暴力にあふれ過ぎている。それが姉ちゃんやボクの身にも半年過ぎほど前にも起こったばかりじゃないか、美月にだって・・あの日に怖い思いさせてしまった。

「【金ジャラ】の言った事が、もし本当の事になっていたら・・。」


拳に力が入り奥歯が軋んで鳴った。

 ギシィ!

「糞っ!もしも、DQN の奴らなら・・美月が奴らに酷い目にあわされていたら・・ボク自身がどうなろうと帝国の奴ら全部、殺し尽くしてやる。」


(まずは近い順に霊園事務所で、工事現場だな。)

「おじさん、ボクで霊園事務所と、次に工事現場の順で向かいます。もしも素直さんとルーチィさんがふたりでボクとは別に動いてもらえるなら逆から回ってもらって下さい。何かあればすぐそちらに向かいます。」


「わかったが、無理すんな。」

おじさんの表情はくもってはいるが、少しいつもの飄々とした感を少しは取り戻したようだった。

離れた所からエルーサおばさんも強い視線で見ていた。

「ふたりで無事に帰って来たら、許してあげる!今度だけは。」


満はうなずくとふたりのすぐ目の前で心を決めたように告げる。

「脱着!【細胞賦活増進セル!フルブースト】・【能力】超高速移動レベル(高)・・。」ダッ!声と銀色の残像だけを残して皆の前から姿を消した。


「えっ!」「OH!」新人ふたりは飛び上がらんばかりに驚いている。それは、満の世話をしてきたエルーサとて例外ではなく驚いた表情を隠せなかった。

「・・あの満が例の?」

と彼女が夫をすこし恨みがましく目つきだけで睨むと彼は視線をツイ

とそらしてうそぶいた。

「宮仕え、宮仕え・・妻よ、世間は厳しいのだよ。」

「Shit!」ガッ!

「ぐう~」

ケンカまでは至らなかった様だが、今度は彼が妻から?もらったようだった。


 あからさまにみんなの前からカッコつけて飛び出したはいいが

しかし、いつものHE-MANとは少々勝手が違った。今までに無い速さの領域へ踏み込んでいるが、疲労度が尋常じゃ無かった。

「お、おいっ体のナビゲートを・・。」

(やってるが・・反応がおかしい?以前にはあったはずの打てば響く様な返りが無い。)

大量の汗が出はじめている。

加速が続かずにヒザがガクガクと震えはじめる。

(満、慎重に行こう。ここは失敗できない、美月の命もかかってるかも知れないんだ。)

『了解・・再脱着!』

メットを普段のようにフルフェイス状にしてしまうと汗で溺れそうになるので、ラクロスやロードレーサーで使うようなだ円型のサイクルメットタイプに変えて、

バイザー・ゴーグルを厚く、大きくして匿名性を担保しつつも通気性をよくする。

首回り・顎回りのガードを強めにした後、ボディもいつもの基本のパターンである、

ついに宇宙そらからマンの全身エアシールドタイプではなく。もうひとつのTVでの人気の雄「何でも運ぶ正義の男」仮面の方にあえて外見をシフトさせて『脱着』してみた。

ギュルルルッ ズバババッ!


いつもよりも集中力と時間がかかる為、木立や朱色の鳥居の陰に

潜んで何回かに分けての休みながらの『再・脱着』だった。


どうしても全体的にややぽっちゃりしているのは否めないが、脚部偏重ぎみで太腿や脚部に大出力を集中できる。


(そのはずなんだっ!なのになぜ力が出ない?形態変化は出来てるはずだ。MAN形態より加速に適したHop形態のはずだ。)

「なあっ、『脱着』してから急に体が重いんだが、なんだ?」

いつになく疲労感に蝕まれながら高速で走るHE-MAN。

(悪い、満。賦活促進剤を摂取してくれ。)

満はに言われるままベルトのポーチにある例の謎薬「ポルナレフJP状態-Ⅳ」という栄養ドリンク剤様の瓶を取り出して一息にあおる。

「ん?」何か、どこかに違和感を感じたがそれもつかの間・・。


周囲の流れて歪む景色がとたんに色や音を取り戻しながら、

鳥居の参道の人びとが満の異様な姿を目にして動揺しているのが見えた。

「あ、あと少しなのに・・。」


「なんだ!あれっ!」とこちらを指さす男、

「撮影だって!心配すんなって!」と隣の女を慰めているのか、自分が納得したいのか?叫んでいる若者。

他、大勢のどよめきや叫びが落ち着いた境内に響き渡る。

「きゃーっ!」「おぉっ!」「なんだーっ!あいつ!」

古都の街に住む人々にとってもその他の観光客たちにしても、最近とみに話題になっている「DQN帝国の超強快人」と日本政府の治安維持組織とのヒーロー対決?もとうとうオタクカルチャーが高じたあげくに聖地日本で現実化したものかとの評判だ。

それもただ程度の認識しかされていないようだ。

それでも、異形が突然目の前に現れれば 皆ビックリ!はする。

その後の対応がまったく違うのだが・・。


「「「いえーーぃ!リアルヒーローだっ!」」」

「Fantastic!」「He's cool!」「Oh my …!」

こんな事はHE-MANになって初めてだ。

変な対応に半ば焦りながらも身体をヨロヨロ進めるが・・。


「おいっ!超スピードが止まっちまった!普通に見られてるぞっ!」


(〇✖▼☆※、●□※=★✖!)


「おいっ!どうしたんだよ、何言ってるか分かんないよっ!」

満はメットを軽く叩いてAIのAIアイに聞いてみた。

に言われて賦活促進剤を飲んだ、全身がだるく力が入らないし、いつものスピードも出せない。今はとの意思疎通も出来ない。なぜだ?」


力の入らない両膝を無理矢理動かす。

「くやしいけど情報不足・・ね!」

「(こんな時だけ姉ちゃんに似やがって!)」

息切れに遂に周囲の視線を避けて家屋の物影に潜む。

「最初の目標の管理事務所まで・・104mよ、みぃちゃんなら出来るわ。」

落ち着いて聞き直すとヘルメットAIの合成音声が最初に比べて次第に往時の姉の声そっくりになっているのに気付いた。

「機械のクセして姉ちゃんのマネすんなっ、とりあえず了解!」

一度止まって休憩した事で体調や気分が持ち直したのか?


(▽●!満、脳波※グチ+グチャだったぜ!わかるか?)


「良かったっ!戻ったんだ。」

(状態が分からん、またいつコネクトが切れるかも分からん!

このまま一気に突っ込むぞ。)

「わかった!」

基本の銀にわずかに薄緑がかった配色のグラデーションを帯びた

からだを漆黒のラインで飾られた新たな姿を墓地管理事務所の中に扉も開けずに飛び込んでいった。

バシャアーーン!



次回予告

「HE−MAN」満は美月を無事に

助け出す事が出来るのか?

体の異変はなぜ?

坂巻の命は?


そして次は何?快人だー!

バリバリ腰痛の 第14話 改変身!

レッツ!リハイドレイト!!

ってこれ以上何が変わる?

エエーッ!ほんまかいな?

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その名は 『HE−MAN!』 ズバP  @kou1dayo8

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