第21話 へぇー、隠すんだ

脱衣所


「はい、腕を上に上げてー」

「…綾?」

「はい、腕を上に上げてー」

「………」

貴俊は無言で腕を上げた。


「…ん?何してんの?」

綾は何もせずに鋭い目で見ていた。

ただ辱しめられただけだった。


「酷くない?」

「何で?」

「脱がされるのかと…」

「え!?脱がされたいの?」

綾はすぐに貴俊のワイシャツのボタンに触れる。


「ちょっとそのやり方は強引かな」

「じゃあ、自分で脱ぎなさいよ!見てるから!」

「…僕たちって特殊な関係じゃない?」

「あんたのせいでね!!」

「…ごめんなさい」

「はぁ…、もういいわ!!」

綾は服を脱ぎ出した。


「ちょ!綾!?」

「いいから、あんたも脱ぎなさい!」

今度は貴俊のワイシャツをボタンから引きちぎろうとした。


「それはダメでしょ!?明日どうすんの?」

貴俊の言葉に綾は動きが止まり、すぐにその言葉の意味に気が付いた。

「……明日?へぇー、あんた今日泊まるつもりだったんだ。明日も同じワイシャツで出勤するわけないものねぇ」

「……ぼ、僕は5日間同じワイシャツだよ?」

「だとしたら本気でぶちギレるけど?」


「泊まってから、明日駅まではラブラブな感じで行こうかなとか考えてた」

「へぇー、手を繋いで?」

「ううん、腕を組んで。満員電車も僕が綾を抱きしめて守る形で」

「………ちっ」

「何で舌打ちされたの?」

「別に!!いいからさっさと脱ぎなさいよ、バカ!!」


綾は一足先に風呂場に入っていった。


「…隠しておこう」

貴俊はタオルで隠しながら風呂場に入った。



「おい、童貞。隠してんなよ……」

綾は貴俊を煽る。

「…恥ずかしいから」

「そのタオルをバスタブに入れたらぶん殴るからね」

「……わかった」

「はい、シャワー!」

綾は貴俊の頭からお湯をかけた。


「わっぷ…。ちょ…、まっ…、やめてくれない!」

貴俊は少し大きな声を出した後に顔にかかったお湯を手で拭いた。


「…ごめん。それより私が覚えてる通常サイズより大きいわね」

隠してた部分は丸見えになった。

「ちょっと!!」

貴俊は両手で隠した。


「私が隠してないのにあんたが必死に隠すって何なの?腹立つ」

「綾もちょっとは隠してよ」

「隠す理由が無い」

「何で?」

「未来の旦那さんに隠すことは無いって意味なのに、あんたは未来の奥さんに隠すことがあるって事なのね?」

「…無いけど。ってそれは強引じゃないかな?」

「ふん!」

綾はバスタブの中に入った。


「ほら!あんたも入りなさい」

「うん……」

「わかった!目を瞑っててあげるから!」

「…入るよ?」

「うん」

綾は目を瞑ってはいなかった。


バスタブに入った貴俊。

「瞑ってなかったね……」

「まぁまぁまぁ」

綾は貴俊に対して後ろ向きになった。


「……うん」

貴俊はそんな綾の首元を後ろから抱きしめた。


「はい、じゃあお風呂掃除のご褒美ね」

貴俊の腕を掴み、下へと動かそうとするも力を入れられ抵抗された。


「何でよ!?」

「このままがいい」

耳元で囁くように低い声で言われ、ギュッと抱きしめられた綾はゾクッとした。


「…わかったわよ。何か腰に当たってるけどね!」

「気にしないで」

「何か腰に当たってるけど」

「………何が?」

「…言わせるとか、最低」


「…なんか幸せ」

「ん?…うん、私も」

首元にある貴俊の手を握りながら綾は目を瞑る。


「一つビックリしてること言っていい?」

「ん?なに?」

「人肌ってこんなに温かかったんだ」

「そうだね、私もさっきから腰に硬いものが当たってるわ」

「気にしないでって言ったよね?」

「まぁ、いいわ。今後どうにでもなる」

「………その事については聞かなかった事にするよ」



数分後、二人は風呂から上がった。


再び脱衣所


「ちゃんと洗わないとダメだって言ってるじゃない!」

「いや、洗ったから!」

「私が洗ってあげるって言ったのに!」

「洗ったから大丈夫」

「信用してない」

「一部の事を言ってるだけでしょ?」

「当たり前じゃない、他にどこの事を言うのよ」

「ストレート過ぎて晴れ晴れするよ」

そう言いながら貴俊は体をタオルで拭こうとする。


「ちょっと!私が拭くんだから拭かないでよ!」

「いや、だから」

「はい!後ろ向いてー」

綾は貴俊からタオルを取り上げた。


「………」

無言で後ろを向きながらも両手でしっかりと隠した。


「……ちっ、はい、両手を上げてー」

「………なんか肩を脱臼したみたいで上がらないよ」

「えっ!?ちょっと!大丈夫?」

そう言いながら綾は貴俊の右腕を上げようと試みる。


「痛い!痛い!」

「…え?ちょっとマジで?」

「………あっ、うん、マジで」

「違うみたいね?何もしないって言ってるでしょ!!」

綾はおもいっきり背中を叩いた。


「痛っ!!」

「言うこと聞かないのが悪い」

綾は貴俊の背中から足までタオルで拭いた。


「ほら、何もしないでしょ?」

「う、うん」

「あれ?してほしかった?」

「途中途中、殴られるのかと思ってた」

「……はい、前向いてー」


「待って!本当に殴らないでよ?」

「はい、両手上げてーって、…あんた、あばら骨出てるわね」

「そこ?」

「普段何食べてんの?」

「んー、…あれ?何食べてたっけ?」

「もしかしてゲーム優先で食べてないとか?」

「いや食べてるよ?惣菜だけど」

「どんなの?」

「魚とかサラダとか」

「肉は?」

「惣菜で肉って揚げ物しか無いんだよね、唐揚げとかトンカツとか」

「うん、それは食べないの?」

「食べないよ、ってちょっと!」

貴俊は身を屈めながら後ろに下がる。


綾は会話をしがてら少し触った。


「ふふっ、その反応…。うふふ」

「綾…」

「ほら、あんたも私の体を拭きなさい」

用意していた別のタオルを貴俊に手渡す。


「…断ったら?」

「後々に響くだけだけど?」

「………」

貴俊は無になろうと必死になりながら、綾の体を拭いた。


「はい、今度は服を着させて」

「うん…」


パジャマに着替えた綾。


「……あんた、いつまで裸でいるつもりなの?」

「今気付いたんだけど」

「何?」

「着替えが無いよ……」

「じゃあ、そのままで一晩過ごすしかないね」


貴俊は少し恐怖を感じた。

「まさか、ここまでを計算して…?」

「ふっ、ふふふふふ……」

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