第19話 強引だよ

「ふー、お腹いっぱいね」

「うん、結構食べた」

二人は満腹だった。


「今は、…まだ九時前か。あんた、この後どうするの?」

「帰ろうよ…」

「うちには来ないの?」

「この後はネットで会おうよ」

「…帰るってことね」

綾の言い方の違いに貴俊は気付く。


「…どこか寄ってく?」

「いや?私は帰りたい」

「………僕も帰りたい」

「じゃあ帰りましょう」

「う、うん」

「ん?何?一緒にいたいの?」

「…あっ、なるほど。そういう持っていき方か」

「誰が誘導尋問よ!」

「言ってないよ」

「……ちっ、早まった」

綾は酔っていた。


「本当にそろそろ帰ろうか」

「…そうね、ちょっと頭がグラグラしてるわ」

「明日大丈夫?」

「大丈夫。だと思う」

「お水貰っとこう」

貴俊は水を頼み、それを綾に飲ませた。


「ん、ありがと」

「ちょっとトイレ行ってくるね」

「ん」

綾は目を瞑って下を向いている。


伝票を持ちレジに向かった貴俊、会計を済ましテーブルに戻ると綾はそのままの格好でいた。


「綾、帰るよ」

「ん?んん」

貴俊は綾の荷物を手に取り、更に綾の腕を肩に乗せて店を出た。



「そんなに飲んだっけ?」

「んー?」

綾は歩く気が無いかのように力が入っていない。


「あれ?会計はー?」

「それは払っといた」

「そうなんだー、ありがとう」

「どういたしまして、って少しは力入れられない?」

「私、重い?」

「重くはないけどちょっとは歩いて」

「……おんぶして?」

「それはいいけど」

「んー、ありがと」


「……?」

貴俊は少し疑問だった。比較的受け答えがしっかりしてるような気がした。


なので試してみることにする。


貴俊はしゃがみ、綾を背中に覆い被せた。

「んんー、よっ!ほっ!はぁ!っとぉ!!おおあぁ!!」

貴俊は綾をおんぶしたがとても辛そうに立ち上がった。


「おい!!そんな重くはないだろうが!!」

「…やっぱり酔ったふりだったね」

「…っ!ぁあー、もう何も考えられなーい」

綾はすぐに元に戻ろうと全身の力を抜いた。


「無理だよ、もう」

「………」

「綾、無理だよ」

「………」

「綾?」


「つまんねぇ男だな!!送り狼になれよ!!!」

貴俊の頭を叩きながら綾は怒り出す。


「とりあえずこのまま送るよ」

「え?…ま、まさか!おっぱいが背中に当たってるから?」

「よし、降ろそう!」

「ま!待った待った!!このまま家まで送ることを許そう!」

「どの立場で言ってる?」

「彼女」

「…まぁ、間違ってないけど」

「彼氏に抱かれない上にプロポーズ延期された悲劇の彼女」

「………ごめんなさい」

「なら、わかってるわよね?」

綾は貴俊の両耳を引っ張った。


「家、どっちだっけ?」

「こっち」

家の方向に両耳を引っ張る。

「うん」

その通りに歩く貴俊に綾は楽しさを感じた。


「次はこっちね」

「うん」

「あっ、次こっち」

上に思いっきり引っ張った。


「よし、降ろそう」

「降ろそうとするな!はい!家まで送りなさい!」

「はいはい」

「はいは一回!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る