第16話 どっちが強いかのバカップルケンカ

貴俊の自宅


殺風景なワンルームで家具も必要最低限しかなかった。


「…つまらない部屋ね」

「何を求めてたの?」

「んん?…ここかな?」

綾は勝手にテレビ台の引き出しを開ける。


「…綾?」

「ちっ、無いか。なら…」

次は押し入れを開け、中にあったボックスを開ける。

しかし目当ての物は見つからなかった。


「…あんた、マジ?」

「何を探してるかは大体わかった…」

「まさか、想像だけで!?」


「綾?何を知りたいの?」

「どっちかなぁって」

「綾を好きな時点で僕は」

「…私がサディストだって言いたいのか!!」

「間違ってる?自覚してるからそう言ったんでしょ?」

「……正論、腹立つ」


「どれだけパワハラに耐えてきたか」

「もしかしてそれもあんたにしてみたら……。わぁー!ド変態!!何!?私はあんたに日頃から性的搾取を!?」

綾は両肩を抱え、壁際に移動した。


「怒るよ?本気で」

「…ごめんなさい。じゃあ着替えていいよ、見てるから」

「前半と後半で感情が違うね!?」

「あっ、お背中流しますか?」

と言いながらボディーブローのジェスチャーをした。


「…座ってて。コーヒーでいい?」

「………砂糖多めね」

「何それ、可愛い」

「…バカにしてる?」

「ん?愛してる」

「ちっ」


「何で舌打ちされたの?」

「私を喜ばせやがって…」


コーヒーを入れ、綾に渡した貴俊。

「綾って僕の事がめちゃくちゃ好きだよね」

隣に座るととんでもないことを言い出した。


「当たり前でしょ!!」

「…あっ、うん、ごめん」

「あんたは!?」

「好きだよ」

「…言っとくけど表向きはあんたが私を追いかける方だからね!?」


「表向きは?」

「…うっさい!さっさと着替えろ!」

「綾、ベッドで寝てていいよ」

「…え?ちゃんとするんじゃなかったの?」

綾は胸の辺りがキュンとするのを感じ、頬と耳が少し赤くなった。


「ちゃんとするよ?でも寝てないでしょ?」

「……あんたのせいでね!!」

怒りの意味で顔全体が更に赤くなった。


「冤罪じゃない?」

「…私の独りよがりにすることは許さない」

「じゃあベッドに寝てて?」

「うん!!」

綾は貴俊のベッドにダイビングし、ドキドキしながら仰向けで目を瞑り、貴俊を待つ。



着替え終わった貴俊。


「じゃあ行こうか」

出掛けようと綾に声をかける。


「……」

「綾、行くよ」

「……」

「綾?」


綾はムクッと起き上がり

「おぉい!!おい!うぉぉい!!」

と叫んだ。


「な、何?どうしたの?」

「わざとだな?私を陥れようと、嘲笑おうとしたな?」

「な、何が?寝てなかったんでしょ?ちょっとでも寝ないと体に悪いよ」


「その優しさが私を傷つける!!」


「…綾?まだ僕の本気をわかってないの?」

「ぐっ、…ごめん。だって私が上に乗ってキスしてる時、あんたの硬くなってるんだもん。今ここでかな?って思うじゃない……」

「そ、それは僕がごめん。でも結婚してからって何回も言ってるよね?」

「うん、ごめんなさい」

「わかってくれればいいよ」

「でもあんたもわかってる?」

「何が?」

「……結婚したら、ふふっ」

綾はにやけた。


「怖い!怖いよ!」

「お預けした分の利子は高いわよ?」

「じゃあお互いにとっても良いんじゃ?」

「…その合理的な考えはムカつく」


貴俊は世間話として話したいことがあった。

「あっ、そういえば知ってる?」

「あんたの通常時のサイズ?」

「…そこから離れて?今度は個人戦イベントだよ」

「お?じゃあ今度は私が勝つね!」

綾は笑顔で答える。


「え?何を言ってんの?僕の連覇でしょ」


綾はベッドから降り

「あんたこそ何言ってんの?体力回復スキルを得た私の勝ちに決まってるじゃない!」

貴俊の前に行くと上から目線で勝ちを宣言した。


貴俊はイラッとする。

「いやいや、攻撃が当たらなきゃ回復出来ないじゃん」

「攻撃は当たりますぅー!あんただって決定的な攻撃方法無いじゃない!」

「前回のスキルがありますぅー」


綾は前回の敗けを思い出してイラついた。

「へん!今度は当たりませーん」

「近づいてこなかったら魔法唱えるし」

「唱えてるな?って思ったら攻撃仕掛けるし!」

「譲らない?」

「譲るわけないでしょ!!」

二人は睨みあっている。


「じゃあわかった!次のイベント僕が勝ったら」

「勝ったら?」

「結婚しよう」

「…賭けにならねぇよ。数時間後に言うんだろ?」

「言わない」

「はぁ!?」

「僕が勝ったら結婚する」


貴俊の言葉に綾はイライラの頂点だった。


「そういうことなら私からも言うわ!私が勝ったら絶対に結婚しなさい!!」

「同じじゃ?」

「違うわよ、何を言ってんの?あんたが勝っても私は拒否出来るけど私が勝ったら強制よ!絶対って言葉付けたから」

「…いや、ズルくない?」

「当然、私が勝ったときの主従関係はわかるわよね?フッフフフフフ」


「そういう言葉のマジックやめない?」

「へぇー、自信無いんだ。へぇーー」

盛大に貴俊を煽る。


「あ、あるし!」

「私が勝ったらその後は…。あっ、これ以上は言わないでおこう」

「嫌な予感しかしないから全力で行くよ!」

「どっちにしても結婚はするんだから、力関係をはっきりさせてやる!」

二人はニラみ合う。


こうして貴俊のプロポーズは延期となった。

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