第13話 お買い物

二人は駅近くにある二十四時間営業のスーパーにいた。


「あ、綾…、何買うの?」

まだ呼び慣れていない。


「ん?惣菜と酒、あと明日のパン」

「あっ、明日のパンってやっぱり言うんだ」

「あんたも言うの?」

「言うよ。でも恋人もそう言うのは安心するね」

「……」

綾は恋人という言葉に恥ずかしくなり何も返せなかった。しかも綾と言いづらそうに尚且つ頑張って呼んだ感じの貴俊にキュンとしていた。


「ん?どうしたの?」

「…な、何でもないわよ!」


「惣菜と酒については何故か聞いてもいいの?」

「聞いていいよ」

「何で?」

「うちでも飲むから。二次会ね」


「大丈夫なの?」

「何が?」

「いや、酒に弱くなかったっけ?」

「弱くないよ」

「いや、弱いでしょ」

「うるせぇなぁ!!」

「…はい」

そう答えた貴俊の頭を綾はごく自然に叩いた。



野菜売場を目にした綾は

「あ!玉ねぎ買わなきゃ」

と急に言い出す。


「なぜ?」

「オニオンを握りつぶしたり切り刻んだり」

「……えーっと?僕は逃げた方がいいのかな?」

「逃がすと思ってるの?」

「思ってない……」


貴俊が遠い目をしたのを見た綾。


「…早速私と付き合ったこと後悔してる?」

「それはしてない」

「じゃあ帰ったらキスしてあげる」

「それはまた今度」

「今度っていつよ!?」

「…時が来たら」


「いつかを言いなさい」

「塔の上で……」


「じゃあ明日ね」

「明日…」

「嫌なの?」

「緊張してるだけ」

「大丈夫よ、ちゃんと場所をわきまえるから」


少し歩いたあと貴俊は気になった。

「……え?この後どうするつもり?」

「だから、二次会!」

「の後は?」

「寝る」

「……僕は?」


「一緒に寝たい?」

「将来的にはね」

「…あんたってもしかして女たらしなのかしら」

「何でそうなるの?」

「直情的に来ないで将来の話をするところが」

「そういう直情的な男は嫌いでしょ?」

「嫌いだけどここまでピッタリはまってると逆に不安」

「その不安はどうすれば無くなるの?」


綾は少し考えてから手を差し出した。

「…ん」

「ん?うん」

貴俊はその手を繋いだ。


「はい、捕まえた」

綾は今まで貴俊に見せたことのない笑顔を見せた。


「捕まった」

「逃げられないからね?」

「逃げないよ、愛してる」

「……」

また綾は黙った。


「惚れ直した?」

「うっさい!自分から言うな!」

結局、貴俊の気になった泊まりかどうかは解決しなかった。



綾は買うものをかごに入れながら貴俊に聞いた。

「ねぇ?明日は何時に塔に行くの?」

「昼間が良いかなって」

「…じゃあ本当に今日は泊まって一緒に行けばいいじゃない」

「…こっちにも準備ってものがね?」

「何の?」

「心の」

「指輪は?」


「…あっ、フライドチキン美味しそう」

貴俊は惣菜コーナーで目についた商品について話した。

「指輪は?」

綾は繋いでる手の力を強めた。


「…そこも?」

「当たり前でしょ!」

「何も知らないんだけど…。それにそんな簡単に買えて渡せるものでもないでしょ?」

「…まぁ、そりゃそうか」

「うん、サイズ知らないし」

「いや、聞けよ」

「え?」


「わからないことがあったら聞けって普段から言ってなかったっけ?」

「仕事の事はね、その事は聞いていいの?」

「いいでしょ?どうせわからないでしょうから、あんたみたいなもんは」

「トゲのある言い方…」

「美しいバラにはトゲがあるのよ」

フフンと斜め上を向いた。


「あっ、焼き芋買っていい?」

貴俊は焼き芋機に並んでる袋に包まれた焼き芋を指さした。


「おい!!無視か!?」

「ん?何か言ってた?」


「…ちょっと手を離してもらっていい?」

「嫌だ」

「離せ」

「叩く事はわかってるから離さない」

「いいから離せ」

「…一生、綾の事は離さない」

二人とも手に力が入っている。


「そのセリフの事も含めて叩きたいから離せ、もしくはかごを持て」

「かごを置けばいいんじゃない?」

「……」

綾は無言でかごを置いた。


「…綾?ちょっと待とう?公衆の面前ではダメだよ」

「…二人きりの時はいいの?」

「いいよ」

「じゃあ後でね!」

そう言いながらも綾は貴俊の足を踏み、再度かごを持った。


「…あ、綾?」

「なに?」

「かごは僕が持つよ」

「え?いいの?ありがとう!」

綾は持っているかごを貴俊の体に思いっきりぶつけるようにかごを持たせた。


「……かっこ内で一生って言葉を含んでる?」

「そうなってるよ。これから先、ずっとあんたがかごを持つ係ね」

「別にそれはいいけど…」

「米もね」

「…もしかして水も?」

「それはウォーターサーバーがある」

「ハイテク…」


「どこがよ!ちなみにそのサーバーの水を運んだり取り付けたりはあんたね」

「写真で見たことはあるけど、結構な量じゃない?重そう」

「あるよ、私いつも辛いもん」

「…え?それを僕に?」

「嫌だ?」


貴俊は少し考え

「……よし、言ってみよう!嫌だ!」

と思いきって言ってみた。


「…じゃあ、いいよ」

綾は下を向きながら寂しそうに呟いた。


「ごめん、ウソ!やる!やるから!」

「ほんと!?」

嬉しそうにそして悪そうに綾は笑った。

その綾の表情を見た貴俊はすぐに後悔した。


「そうか、そのやり方か…」

「言い方が悪いわね!それを言うならウソをついたあんたは打ち首獄門よ?」

「打ち首獄門!?」


「これから先、私にウソをついたら…」

綾が言い切る前に貴俊が

「つかない!絶対につかない!」

と必死にその場をしのいだ。

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