第12話 魔法大学

 大学で学びたい?


 そりゃいいが、何でまた?


 いや、悪かぁねえけどさ。

 で、大学で魔法を学びたいの?


 ああ、この街にあるよ。

 五年位前からかなぁ?

 元々王都にあったらしいんだが、ほら、王様が当代になってから取り締まりが厳しくなってね。

 大学の自治が脅かされるとかでこっちに逃げてきたらしいんだわ。


 いや、ホント迷惑な連中だよ。

 大学行くのはいいけど気を付けなよ。


 てか、アンタは他の学生みたいになってくれるなよ?


 どこにあるかって・・・ホラあそこ、丘が見えるだろ?

 そうそう、なだらかでてっぺんに大きい木が一本生えてる・・・

 だいたいあの木の下でやってるみてぇだな。


 ああ、屋外だぞ?

 あそこなら誰にも文句言われねぇからな。

 天気の悪い日とか冬は教会でやってるらしいな。

 俺は日曜しか教会行かねぇから知んねぇけど・・・。


 え?

 そりゃ大学に建物なんか無いだろ?

 何、自前の建物なんか持ってる大学なんてあるの?


 いや?

 聞いたことないよ。


 大学ってあれだろ、学者の先生と学生がテキトーに集まって勉学するヤツだろ?


 本!?


 そりゃ、エライ学者の先生とかは持ってるだろうけどなあ。

 そんな貴重な物は誰にも見せねぇんじゃねぇの?

 下手に誰かに見せでもしたら盗まれるだろうしねぇ・・・


 んん~、学生って奴らは何だって盗んじまうからなあ。


 え?

 そりゃそうだよ。

 学生だって生きてくのにも学者の先生に教えを乞うにも金が要るからなぁ。


 ハッハッハ、そんな仕送りしてくれるような親なんか、あいつらにゃいねぇだろ。

 そんなに金があるなら、学生なんかさせずに家業でも手伝わせるだろうさ。


 いや、貴族様の子弟とかは大学なんか行かねぇよ。

 そういう金持ちは家庭教師雇うんだよ。


 当たり前だよ。

 大事な子供があんなゴロツキ連中と一緒になって勉学になるわけがあるめぇ?

 むしろ、ゴロツキの仲間入りしちまうじゃねぇか。

 だもん、金があって自分の子供に勉学させたい奴なら間違っても大学なんか通わせねぇよ。

 学者の先生だって家庭教師のクチがあるならそっちを取るだろうぜ?


 家庭教師のクチの無い学者の先生が、家庭教師雇うだけの金の無い学生集めて金を出させて勉学を教える・・・それが大学よ。

 けど、学生も金が無ぇ、金が無ぇからまぁ色々するわけだ。


 まあ、普通に盗みだわなぁ。

 あとは人をだまくらかして金巻き上げたり、どこぞの金持ちの子弟を誘拐して身代金とったり・・・


 あ?

 ああ、ああ、ヤクザもんよ!

 むしろ、そういう稼業で食ってくために学生やってる奴が半分以上だ。


 なんせ、大学は教皇様から自治が認められてるからな。

 領主様だって学生は下手に取り締まれねぇ。


 だから、領主様に捕まることなく悪事で食ってくためには学生って身分は持って来いなわけだ。

 学者先生に金納めてりゃ、学生の身分は保証されるわけだからな・・・

 俺ぁ王都に行ったことがあるわけじゃねぇから聞いた話だが、そりゃあ酷ぇもんだったらしいぜ。


 ああ、だから先代の王様も何度も学生に向けて勅令を出してたさ。

「窃盗、暗殺、追剥ぎ、押し込み強盗、姦通、生娘の誘拐や暴行はしてはならぬ」ってな。

 ところが、その勅令も学生どもは守りゃしねぇ。


 ああ、だから当代の王様は戴冠して真っ先に王都の大学をあの手この手で取り締まったのさ。


 いや、だから俺らも領主様も大学なんか来て欲しかぁなかったさ。

 だが来ちまったもんはしょうがねぇじゃねぇの。


 今はホラ、王都から逃げて来てまだほとぼりが冷めてねぇっての?

 だから大人しくしてるみてぇだけどな。


 まあ、なんてぇの?

 やっぱこんな田舎じゃヤクザな稼業でも稼げねぇからなぁ。

 無理に大学にくっついてこっちに来ずに、あえて学生の身分捨てて王都に残った連中も結構いたって話だぜ?

 おかげで今の大学の学生は割と真面目に勉学やってる奴が半分くらいはいるらしい・・・。


 ただなぁ、あんな生まれも育ちも怪しい若ぇ連中に学生なんて身分与えて治外法権ってぇの?そういう特権って奴を持たせたんじゃ、いつまた悪さするようになるか分かったもんじゃねぇからなぁ。


 アンタはどうか知らんけど、学生の身分をカサに着て好き勝手やるつもりなら、もうウチの店には来ないでほしいねぇ。


 へっ、どうだか・・・最初は真面目でも、朱に交われば赤くなるって言うしな。 来年になって見りゃ盗賊の頭目になってましたなんてぇのぁゴメンだぜ。


 いや、実際にそういうのも昔はいたんだよ。

 貧乏な若者集めて特権与えたんだ、そりゃまともな集団になんかなるわけがねぇのさ。


 まあ、そんなトコだから、止めはしねぇけどアンタも覚悟はしときなよ。


 え?

 いや、だから大学の建物なんて無ぇって。

 自前で建物造れるほど金があったら大学なんてやらねぇだろ?


 入りたきゃ大学やってる時に行って、学者の先生に直接頼んでみりゃいいんじゃねぇの、知らんけど?


 んー、だからアンタが期待してるような勉学ができるかどうかは分からんよ。

 だいたい、アンタ字ぃ読めるのかい?

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