四、蜜を食む

雫がたに膨らんだの底面にいた口

に、両の親指を差し入れて

グスリと柔い肉を裂く


熟しきった赤紫のずるりと滑る薄皮が

未だ黄緑の付け根の細く窄まったところまで

果肉と共に引き裂かれる


割る

二つに

割る


その紅色の艶やかさ


あれほどくろ紅紫べにむらさきに外の皮膜は染まっているのに

すぐ内側は幼いあどけない清けき浅い萌葱もえぎをしている

瑞々しい蕗にも似たる


けれどもああ、なんという

なんという真中まなかの鮮やかさ


こんなに綺麗な淡紅あわべに

わたしは他に見たことがない

夕映えに溶ける朱鷺ときさえも

きっと敵わぬ薄紅うすくれない


純潔の如く白くほのあおいツブツブを

無数に抱え込んでいる


この総てが花なのだ


花が身の内で咲いたのだ


咲いて枯れずに実ったのだ


充々じゅうじゅうと詰め満ちたのだ


ほふれば甘い、柔い肉

道理だ

食しているのは花なのだ

花ごとを喰らったのだ


溢れ滴るのは果汁ではない

花蜜はなみつ


ほんのりと青臭く

後味を残さぬ儚い甘味かんみ



清純

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