第29話 異世界攻略 4

戦華の世界に到着。


後ろには赤軍と思われるNPC達がズラリと並んでいる。

変な兜を被ったNPCは、かなり後ろの方にいるようだ。


前を向き、城門の方を見る。

遠くてよく見えない、だが青軍と思われる大量のNPC達が、こちらに向かって移動してきている。

画像で見るのとは、迫力が違う。


あれ?マジで大丈夫かこれ?

あの中に1人で突っ込んで城門突破するとか、正気じゃないだろ。

調子こいた事言うんじゃなかったわ。


「シンさんシンさん、ここから城門にスキルブッパするのは冷静じゃないですかね?即クリア的な感じで。あの中を俺1人で突っ切るのは無理がないですか?」


いや、面倒になったとかじゃないのよ?

その方が危なくなくない?

1人なうえに、徒歩で突っ込むんだよ?

クレバーに考えた結果が、これだっただけ。


「冷静とは言えないな。壊せたとしても、遠すぎて無駄に神力を消費するだけだ。壊しても城門の中に入らなければ、攻略条件が達成されないはずだからな。情報に書いてあったはずだが、見逃したか?どうせ壊すなら近くで壊すのが得策だ。それに、城門を突破するまで青軍は無限に涌き出てくるからな。あの軍隊を抜けなければならないのは変わらん」


「…じゃあ、ここから青軍にスキルブッパして殲滅してから行くとかはどうでしょう?」


「軍隊にスキルを使って道を作るのはいいと思うが、遠くから減らしてもすぐ増えるぞ。なに、数は多いが所詮は雑魚だ。近づいてあの大剣を振り回したり、スキルをブッパなすなりして好きに戦えばいい。いいストレス解消になるぞ?ハッハッハ!」


「…わーい、楽しそうッスー」


帰りてぇ~、面倒くせぇ~。

いくらNPCだって割り切って考えても、生肉ぐちゃぐちゃにしてストレス解消になるほど、神界に染まってません。


「そうだろう!俺も若い時はよくストレス解消にここで遊んだからな!そうだ!遊び始める前に、俺の実力を見せておかないとな!」


異世界攻略は遊びじゃないと思います。

少なくともこの異世界を初回クリアもしていない、使徒歴1日しか経ってない新人にとっては。


それにしてもシンさんの実力ねぇ、あのデカかったような小さかったような謎の槍でもブン回すのかね?

某傾奇者みたいにさ。

よくストレス解消にここ来てたらしいし。


「じゃあ、近づきます?ここからだと、まだ青軍まで距離ありますし」


「いや、ここで大丈夫だ。レイ様から報酬で戴いた神力超強化のおかげで、この距離でも充分な威力になりそうだしな。見てろよ、黒石君。…ぬぅん!!」


両手を空に向けて伸ばし、気合いを入れるシンさんの足下に、赤黒い魔方陣が現れた。

青軍の上空が赤黒いモヤに覆われていく。


「ハッハッハァッ!さすがは最上神様から戴いたスキルだぜ!いつもの半分も神力を使ってねぇのに発動しやがった!オラァ!落ちろよぉぉぉ!!」


神ってちょいちょいキャラ変えていかないと駄目なの?

素が出てるシンさんが空に向けた両手を勢いよく下ろした瞬間、炎に包まれた無数の隕石が爆音と共に青軍に降り注ぐ。

それは5秒間ほど続いた後、地面に大量のクレーターを残して消えていった。


やり過ぎじゃねーの?

つーか、まんまメテオやんけ。

その筋肉はどうみても接近戦特化だろ。

筋肉質なメテオ使いとか、ファファファシリーズの黒い全身鎧兄さんしか頭に浮かばないんだが。

これからは頭の中では超兄貴じゃなくて、兄さんと呼ぶか。

今後、ニアを含めて行動する事を考えたら、絶対その方がいいな。

ニア、兄貴という呼び方は、悲しいフラグが立ちそうだし。


「威力もいつもより強いじゃねーかよ…。ワケわからねぇガキの面倒見てこれとか、旨すぎんだろ…こんだけの力がありゃ…ようやく俺にも春が来るか?」


ワケわからねぇガキからの、シン兄さんに対する評価を1段階ダウン。

これはツッコミをいれなければなるまい。

後ろから自分の世界に入っている無駄にデカい筋肉の肩を叩き、問いかける。


「冷静ですか?」


「あ?…いや、違うんだ。少しいつもより勝手が違ったというか…」


我に帰って言い訳をするシンさんに、穴ボコな地面を指差し、再度問いかける。


「冷静ですか?」


「すまん…思っていた以上にスキルの効果が高くてな…。楽しくなって、つい…。だがほら!城門は無事だぞ!?」


城門が壊れてたら、評価2段階ダウンだったわ。

人に感情のコントロール云々言っといて、これだからね。

城門が無事だからか、青軍がもう完全復活してるのは見えてますよ。


「いやー、凄かったですよ。さすがは黒制服の先輩です!ワケわからねぇガキのお守りさせておくには勿体ないですね!これから1人であのボッコボコな地面を青軍倒しながら徒歩で進んで、更に城門を破壊するのはつらいですけど」


悪い人じゃないのは分かっているけど、やっぱりシンさんの感情云々の話にストレスが溜まっていたのもまた事実。

ワケわからねぇガキとか言われても、俺も神界に来たばっかりで、現状がワケわからねぇし的な。

だから、ちょっとだけ嫌みを言う。

俺、性格悪いので。


「本当にすまなかった…俺の言葉で嫌な思いをさせてしまったな…。少し先輩として良いところを見せたかったんだが…。いつも空回るんだ…。…俺が城門の前まで運ぼう。城門を黒石君1人で突破すれば、初回報酬も大丈夫だろうしな…」


ショボくれるシン兄さん。

俺の嫌みに対するダメージが思っていたよりデカそう。

止めて、良心が痛む。


場の空気を変えるためにも、ここは最初の予定通り本陣はシン兄さんに任せて、サクッと1人で攻略してやろうじゃないの。

シン兄さんのスキル見て、滅茶苦茶単純に青軍抜けられる手段が思い付いたし。

むしろ今まで思いつかなかったあたり、冷静ではなかったのだろう。


「大丈夫ですよ!シン兄さんのおかげで簡単にクリアする方法が分かりましたし!本陣はお任せしますんで、よろしくお願いしまーす!」


城門へ向かって、全力で走り出す。


「なっ、待て!黒石君!」


上空からのメテオになすすべもなく肉塊になった、青軍達。

弓や鉄砲のような遠距離攻撃もなく、槍だけの敵にビビる必要無い。

上空から城門まで飛んで行けば、なんの邪魔も入らない。

俺には無重力のように自分を軽くする事ができるし、仮に敵の攻撃を受けたり高所から落ちたとしても、安心と信頼のバリアがある。

冷静とか以前にこんな単純な事に気付かないのがね。

俺って、ほんとバカ。


「飛べば飛べる!!大!ジャーーーンプ!!」


青軍の頭上を飛び越え、徐々に高度を上げながら城門に向かって飛んで行くおっさん。


ヤバい、角度が悪かったのかドンドン高度が上がっていく。

いくらバリアがあるからといっても、高所恐怖症なのに変わりはない。

お尻の穴がキュンキュンするのーー!!

だが、ビビっていても仕方がない。

もう少しで城門の真上に着く。

この作戦を思い付いた当初の予定通り、このまま一気に攻略してみせる。

一発で決まれば、とってもスタイリッシュでかぶいている気がするんだ。


予定以上の高度になった城門の真上で軽くなるのを止め、バリアを張り、大鉄剣を出す。

後はそのまま上空から落ちながら、城門に向かって大鉄剣を振り下ろすだけの簡単なお仕事。

焦る必要は無い、だってこれからほぼ落ちるだけだし。

あとは、勇気だけだ!


「うおおおおおおっっ!!チェェスッ、トォォォッ!!!」


落ちながらも、タイミング良く城門に大鉄剣を叩きつける。

轟音と共に飛び散る城門の破片、降り立った地面が陥没し、辺りには砂埃が舞っている。

何かを斬ったような叩き壊したような感触と、地面に着地した感触はあったが、痛みを伴う程の衝撃は無かった。


目の前のひしゃげた城門をくぐり抜け、中に入る。

周りに青軍がいる気配は無い。


「黒石幸参上!!…いや、我に断てぬもの無し?…まぁ、どっちでもいいや。脳汁ジャバジャバ出たわ。気持ち良かったーー!!」


端末でクリア済みを確認した後、青軍の消えた戦場を大鉄剣を持ちながら歩き、シン兄さんの元へ向かう。


俺、今凄くエモいんじゃない?

エモいって、意味よくわからないけど。




「…見事だった。今回反省すべきなのは、俺だけだな。今日はこれで終わりだな、お疲れさん。約束通り奢ってやる、どんなところがいい?」


「お疲れ様でしたー!ゴチになります!場所はそうですね…シンさんが良ければ、俺の部屋でショップで買って軽く飲み食いするのはどうです?ちょっと今日は疲れたんで、すぐ酔っ払ってしまいそうなんですよ。外で泥酔して寝落ちしたり、他の人に聞かれたらマズイ話とか言っちゃいそうなんで!」


タダ酒は嬉しいんだけど、今日は肉体的にも精神的にも疲れた。

元々酒は家で飲むタイプだし、今日は外で酒飲んで帰るのダルい。

軽く飲み食いしながら、明日からの予定を話し合う感じでいいだろ。

さっき嫌みを言ってしまった負い目もあるし、お世話になり過ぎるのも気がひける。


「ふむ、黒石君がそれでいいなら今日はそうするか。さて、それじゃ帰るか」


「了解!」


扉を出し、四度目の神力を吸収。

暖かい感覚に満足感を得ながら、本日の異世界攻略は終了した。

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