第21話 昼飯

細かい話を終わらせ、ニアと支部長と別れる前に、話し合いの場にいた全員と連絡先を交換した。

ニアに端末での通話やメールの使い方を教えてもらい、操作してみる。

特に難しい事はなく、今まで使っていたスマホと使い方はほとんど一緒だったのですぐに慣れた。

試しにニアに通話してみる。

使徒の端末はまんまスマホみたいなので通話するのに違和感はなかった。

神の大きい端末は、通話中に耳にあてて話しやすいサイズに変えられるみたいだ。

テレビ電話みたいに使う事や、複数人で通話することもできるらしい。

そしてついに、レイちゃんのメルアドもGET。

試しに絵文字を大量に使ったお礼メールを作成。

送る前にニアに見せてみたらダメ出しくらった。


「キモい、ウザい、あんたこのメール送ってレイ様からシンプルなメールで返事きたらどうすんの?温度差ヤバくね?」


と、ごもっともなご意見をいただいたので、最初はシンプルに絵文字をあまり使わず、シンプルなメールを送ってみた。

返事が楽しみでしょうがないね。


そんなこんなで協会の中で仕事がある二人と別れ、シンさんと二人きり。


「とりあえず昼飯でも食うか。さっきの詫びとして俺の奢りだ。何か食べたいものはあるか?外に食いに行こう」


いまいちこの人との接し方がわからないのでどうしようか悩んでいると、シンさんから昼飯のお誘い。

お腹が減ってきたし、なんとなくこちらから話しかけづらかったので、このお誘いはありがたい。


「おー、奢りですか!ありがとうございます!食べたいものは色々あるんですけど、神界の食事って何があるのかわかんないんですよね。ショップのものしか食べた事ないんで」


「黒石君は日本人だろ?ここが日本に関わるシステムの神界という話は、まだ聞いてないか?外にはラーメンでも寿司でも何でもあるぞ。ショップに無い料理も当然ある」


そういやそんな話を支部長から聞いたな。

基本ファンタジーな感じだから、ちょいちょい日本っぽさが入ってきても日本を忘れそうになる。

外人顔が多いし、毛の色も様々だしね。


「そういえばそうでしたね!でしたら、美味しいものが食べたいので、シンさんのオススメの店とかどうです?良い店を知っておけば、1人で外食する時に失敗せずにすみますしね」


「そうか、なら良い店があるぞ。普通の定食屋だがいいか?」


「いいですね!普通の定食屋なら気楽に行けそうですし!」


「じゃあそこにしよう。協会から出て割りとすぐだ。行くぞ」


応接室を出て階段を降りると突き刺さる視線。

黒制服の二人組、危ない人で破壊シンとかあだ名付けられてる筋肉と、ぽっと出の日本人黒制服。

明らかに気にしているのに話しかけてくる人がいないのは、シンさんのおかげなのかね?


シンさんの背より大きい、白くて立派な扉を開いて外に出る。

良い天気だ、ポカポカして気持ちいい。

シンさんの後ろについて行きながらあたりを見回す。

エレベーターの窓から見た通り、日本と同じような道や建物。

かなり田舎の地方都市って感じ。

アスファルトで舗装された道に信号機や標識はあるが、車はあまり走っていないようだ。

昼飯時だというのに、歩いている人もそれほど多くはない。

見かける人はほぼ見た目が若い人ばかりで、服装も日本でよく見た若者ファッション。

2階建てほどの建物が建ち並び、1階には店を営んでいる建物がそこそこある。

飲食店や服屋が多いようだが、たまに武器屋なのか剣や防具が並べられている店があったりして、微妙にファンタジー…。

いや、ファンタジー感薄すぎだわ。

ほぼ日本だろここ。

だってタピオカドリンク専門店とかあるし。

全然繁盛してなさそうだけど。

日本でもブームは過ぎたし、仕方ないね。


「着いたぞ、この店だ」


あちこちキョロキョロしながら歩いていたら、目的地の食堂に到着。

どうみても普通の食堂だ、名前はサカイ食堂か。

シンさんの後に続き、店に入る。


「あっ!シンお兄ちゃん!いらっしゃいませっ!珍しいね!今日はお友達と一緒なんだ!」


小学高学年か、中学生くらいのツルペタロリ美少女のお出迎え。

ピンクツインテールが元気にピョコピョコしてる。

お兄ちゃんとか言われてるし、おそらくシンさんはこの店の常連なのだろう。


「同僚だ…いつもの席に案内しろ」


腕組みをしながら、威圧的にツルペタロリを見下ろすシンさん。


「はーい!奥の小上がりね!同僚さんも、こっちだよー!」


腕組みをしながら、一歩一歩大きな音を立てて奥へ向かうシンさん…これはあれだ、シンさんの格好つけなのだろう。

ツルペタロリと他のお客さんは平気なようだ。

常連のようだし、おそらく慣れているのだと思われる。

小上がりに座り、メニューを広げる。


「おぉ、普通に定食屋だ。シンさんはここの常連なんですよね?何がオススメですか?」


「なんでも旨いが、オススメはレバニラ定食か唐揚げ定食だな。ラーメンとセットにすればボリュームもある。今日俺はレバニラ定食のラーメンのセットにする」


「じゃあ俺は唐揚げ定食のラーメンのセットにします!」


「ご注文お決まりですかー?」


ちょうど良いタイミングで、ツルペタロリがお冷やと共に注文を取りに来る。


「レバニラ定食のラーメンセット、大盛でだ」


「俺は唐揚げ定食のラーメンセットでお願いします!」


「はい!ありがとうございます!少々お待ちくださいっ!シンお兄ちゃん!同僚さんがいるんだから、今日は割り箸バキバキにして遊んじゃ駄目だよっ!」


「…あぁ、わかった…」


oh…ツルペタロリに窘められる、100歳を超えたおそらく童貞の筋肉さん。

多分、割り箸をバキバキにしてたのはツルペタロリへの筋肉アピールだと思うんだ。

空回りな筋肉、悲しいね。


「…ふぅ、黒石君の事情やスキルは昨日、レイ様に会った時に聞いている。今日の朝に、親父から更に詳しく説明されたしな。今のところ黒石君の目標は、契約した神のアヤネさんを上級神にして、上の領域に行く事でいいんだよな?」


「はい、とりあえずそんな感じです。でも、上級神になるのって大変そうですし、その前に生活基盤を安定させなきゃですけどね」


「そうだな、まずは成長しなければ話にならない。今、何か聞きたい事はあるか?確か買い物をするんだよな?」


「そうですね…最低限の生活用品しか持っていないのでそれを買えたらなーと。ティッシュとか洗剤とかですね。後は替えの下着や服も買いたいです。どこかにまとめて買える店があれば助かるんですけど」


服に関しては別に選り好みはしない、なんなら普段着はジャージでもいいわ。


「ん?ティッシュや洗剤?そういった物はほとんどショップでしか売ってないぞ。服に関しては俺もあまり詳しくない、一時しのぎのただ安くて着れる程度の店なら教えられるがな。下着はいいとしても、服は駄目だろう。アヤネさんも、自分の使徒がジャージで外を歩いていたら嫌だろうしな。服は二人で選んで買えばいい…チッ!」


今舌打ちしたろ童貞筋肉。

羨ましい?ねぇ、羨ましい?、って煽ってみたいが、おそらくそれが最期の言葉になると思われるので、自重する。


「え、生活用品ってショップにしかないんですか?ショップって少し高いイメージがあるんで、安く売ってればと思ったんですけど。あっ、下着や服は一時しのぎの店で大丈夫です。ちゃんとした服は、デートしながらニア好みの服を選んでもらいますんで!いやぁ、楽しみだなぁ!!いでっ!?」


テーブルに転がる割り箸の破片。


「すまんな!あれが狂った!」


「ぐっ…あれなら仕方ないですねぇ!」


どれだよ、手元なのか嫉妬心なのかはどっちでもいいわ。

片手に握った割り箸、おそらく上の部分を親指で弾き飛ばしたのだろう。

童貞筋肉め、後でツルペタロリに怒られても知らないからな。


「生活用品がショップでしか売ってないのはだな。最高品質の物がショップで手軽に買えるのに、わざわざ苦労してまでそれを超える物を作る必要があるか?それに知り合いの使徒に聞いた事があるが、ほとんどの生活用品は日本とたいして値段が変わらないそうだぞ?さてはまだショップで探していないな?」


なるほど、そりゃショップにしか売ってないわな。


「あー、確かにショップでまだ確認してませんでした。なら買い物は服屋くらいですね。あっ、料理が来たみたいですよ」


見るからに重そうなお盆を片手に1つずつ持って、ツルペタロリがこちらにすたすたと歩いてくる。

凄いなあの子。


「お待たせしましたー!こちらレバニラ…あーっ!また割り箸バキバキにしてるー!!もうお肉サービスしてあげないよっ!?」


「す、すまない…」


ほら見ろ、怒られた。

ツルペタロリがプンプンしてるよ。

シンさんがちょっと嬉しそうなのは気のせいじゃないな。

おそらくシンさんの性癖に、ドンピシャなのだろう。

この童貞ロリコン筋肉とは仲良くやっていけそうだ。

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