第49話 想い遙かに~ルシファーとウィルヘルム卿 

 その日、ルシファーは知らない人間たちから、「ハンソル」と何度も声をかけられ、挨拶された。

 それまで一度も、人間たちと親しく交わることが無かったルシファーには、それが不思議でならなかった。


「誰かルシファーさまに良く似た人間がいると言うことでしょうか?」

 ヨハネもそのことに気づき、いぶかしんだ。


 その時であった。

「やあ、ルシファー」

と、後ろから声をかけてきた一人の紳士がいたのだ。


 その声に後ろを振り向いたルシファーは、その紳士と連れの顔を見て驚いた。


「ウィルヘルム卿・・・」

と、ルシファーはつぶやいたのだが、ヨハネはその紳士に出会うのは、初めてだった。

 そして何よりも驚いたのは、彼の連れだった。

 ルシファーと瓜二つと言って良いほど、連れの青年はルシファーに似ていたのだ。


 紳士は驚くルシファーにすっと近づき、その耳もとで囁いた。


「君にそっくりだろう。あまりに君が恋しくて、君から引きちぎったあの翼の一部を使って君のクローンを作ったんだ。

 だから彼は、君と私の子供とも言える・・・」

と言って、不気味な笑みを浮かべた。


 ウィルヘルム卿はルシファーにとって、悪縁と言える存在だった。

 ルシファーの悪夢の始まりは、ウィルヘルム卿だったからである。

 あの時、なぜ自分は彼を、救ってしまったのだろう・・・、といつもルシファーは悔やんでいた。







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