第15話

「あのー今更ですけど、どうして制服に?」


 金色の刺繍が施された藍色のブレザー。

 その中に着るのは、薄茶色のセーター。

 たわわな乳房を持っているので、必然的に彼女の胸部は見事な山を描いている。形の良さと大きさに視線が釘付けになる。

 まるで山間部の安息地である。一度足を踏み入れたら最後、如何なる強者でもそこから離れるのは果敢な意志が必要だ。


 安住地に涙ながら別れを告げ、視線を下へと逸らす。

 服の上からでも分かる引き締まった腰付き。男性はおろか、女性さえも憧れるくびれ具合には拍手で讃えるしかあるまい。


 茶色を基調にしたチェック柄のスカート。

 真面目な生徒とは打って変わり、彼女は着崩している。

 ヤンチャしてます感が溢れるその着こなしは、オシャレな人なのだと誰もが分かるほどだ。膝上までスカートの裾を上げ、肉付きの良い太ももが露わになっている。無駄な贅肉を落とし、ほどよく鍛えられた白い足には、美脚という他ない。

 体勢によっては、スカートの中まで見えてしまうのではないかと、少年心を擽ぐってくるのだ。


「何かーさっきからいやらしい目で見られている気がするんだけどー」

「こんな良い身体を持っているんです。いやらしい目で見なくて、どう見ろと言うんですかぁ!!」

「……ぎゃ、逆ギレされた!」


「質問に答えてくださいよ。ユーはどうして制服に?」


「今日は一般生徒だけなんでしょ? だからだよ!」

「わざわざ生徒に扮するかって話なんですけど」

「まぁまぁーいいじゃない。似合ってるんでしょ?」

「全体を見たいので、一度回ってください」


 言う通りに、Nさんは一回転してくれた。

 遠心力に促されスカートがふわっと舞った。

 残念なことに、パンツは見えなかった。


「それで……どうだった?」


 年甲斐もなく、はしゃいだことが恥ずかしいのだろう。

 強気な彼女の声も小さい。


「思っているよりは馴染んでますけど……」

「やっぱりおばさんってバレる? 年齢バレちゃう?」

「慌てる余裕を持てるならまだまだ大丈夫ですよ」

「ふっ……流石はわたしだね。まだまだいける」

「あのー生徒じゃなくて、先生に扮すれば良かったのでは?」

「い、言われてみれば、そ、そうだけど……」


 不安げな声色で呟いた彼女はこちらに指を向けて、


「先生だったらCくんと一緒に回れないかもしれないじゃん」

「また今日も俺を連れ出すつもりですか?」

「そうだよー。キミの予定は、全部お姉さんが頂いたのさ」

「逆を言えば、俺がお姉さんの一日を奪ったってことですか」

「何か気持ち悪い。その言い方……」

「同じようなことを俺言われてるんですけど」

「男女平等とかないから」

「うわぁー。言い切りましたね」

「ちなみにさっきのキミの発言はセクハラだから」

「なら、お姉さんの発言はパワハラですね」


「へぇー」Nさんは薄く口を伸ばし「言ってくれるじゃん」と愉快げに言った。


「そういえば……俺の学ランは?」

「返して欲しければ、今日はわたしとデートしてもらおうか?」

「可愛い提案ですね。喜んでお受けしますよ」

「何だかつまんない。Cくんならもっと嫌々だと思ったのに」

「学ランがないと肌寒いんですよ。もう冬が近いし」


 そうだった。

 季節はもう十月が終わり、十一月に入ろうとしているのだ。

 特に高校三年生となれば、進学か就職かの二択を迫られることになる。


「あのさ、Cくんって何年生なの?」

「一応高校三年生ですよ」

「なら、最後の文化祭になっちゃうね」


 しみじみとした言い方だが、俺の心には響かない。


「無事に卒業できたらですけどね。遅刻欠席が多いんで、留年の危機が迫ってるんです」

「それってもうほぼアウトじゃん!」

「ツーアウト、ツーストライク状態って感じですかね」

「崖っぷちなのに、やけに冷静だね」

「どんな困難な状態でも落ち着きを持って行動する。これが大切なんですよ」

「格言だと思うけど、その事態になったのは全部Cくんのせいなんだけどね」

「最後にホームランを打てば勝ちなんですよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る