第5話

「今更ですけど……お姉さんって何者なんですか?」

「何者がいい? 勝手に決めていいよ」

「勝手に決めれるわけないじゃないですか」

「まぁーCくんの先輩ってことになるかな」

「ということは、この高校の卒業生ってことですか?」

「イエスアイドゥー。そうです。わたしは先輩です!」


 パチパチを手を叩きながら、俺のお腹をポンポンと叩いてきた。


「うわぁー面倒くさいノリだな、これは」


 それで、と俺は切り出して、核心を突く話をした。


「どうして文化祭に来たんですか?」

「卒業生は来たらダメだよ。というかさー、OBって書いたらちょっとかっこよく感じるよねー。これもアルファベットの力かな」

「真面目に話を聞いてください」

「あれー? いつも真面目なNちゃんって言われるんだけどなぁー。まぁーいっか。それで……わたしが文化祭に来たらダメ?」

「来たらダメってわけじゃないですけど。というか、一人で来たんですか? この文化祭に」

「うん。そうだよぉー。当たり前じゃん。友達を誘ってみたけど、全員が全員お仕事だってさ。というわけで、わたしだけー」


 この人……本当に凄いなぁー。

 学生たちがわんさかいる中で普通に来れるなんてさ。

 肝っ玉が座っているのかもしれない。


「あのー大変聞きにくい話ですけど、Nさんって何やっているんですか? 普段は」

「普段ー? うーん、家でゲームとか読書とか、時々お菓子作りにも挑戦する普通の乙女かなー?」


 仕事のつもりで訊いたが、趣味の話と捉えられてしまった。


「あ、今……変な顔したね。幾ら歳を取ろうと、女の子は女の子なんだぜ」

「それでも乙女というのは無理がありますよ。歳が若い女性を指し示す言葉ですし」

「人生百年時代と呼ばれている世の中だぜ。まだ二十代ということは、若造呼ばわりでいいだろうがぁ!」


 逆ギレされてしまい、言い返す言葉もない。


「それにしても意外と家でできる趣味ばかりですね」

「一応インドア派だからね、わたしも」


 雰囲気はアウトドア系の女性に見えるのになー。

 性格とかも社交的だし。人は見かけによらないなー。


「そんなインドアさんがどうしてわざわざ……」

「それゃあ当たり前でしょ。文化祭だからぁ!」

「理由になってない!」

「炎上に便乗する人とかっているでしょ。それと一緒。ブームに乗っかってやろうという魂胆。祭りに参加できるなら参加しとけと思ってね」

「さっきまで十分、人のことを変人扱いしてましたけど……アンタの方がよっぽどですよ」

「変人という属性も、美人という肩書きが付けば……一つの個性になることを知らないのかね?」

「美人だというのは自覚していたんですねー」


 肩を撫で下ろしながら、Nさんは神妙な面持ちで言う。


「まぁー学生時代の頃から可愛いと言われてたし。何よりも数年前には、女優のタマゴだったんだぜ。ま、諦めたけどね」


「女優のタマゴ……やっぱり美人ですもんね。今はもうやってないんですか?」


「やってない」


 彼女はゆっくりと言い放ち、戒めるように再度口を開いた。


「別に元々やりたいわけじゃなかったんだ。みんなから美人美人ともてはやされてなんだかんだでモデルの仕事を受けて、そのまま女優になろうかなーと甘い気分でなったわけ」

「へぇー実際にドラマとかに出たことは?」

「ドラマはなかったかなー。CMにはあるけど。でも人気が出なかったけどね。一部では美人だと有名みたいなんだけど」

「そのCM教えてくださいよ」

「嫌だね。何よりもそのCMはもう動画サイトにもあがってないし。はーい残念。このシリアスな話はおーしまい」

「もっと訊きたかったのに……」

「人にはね、誰にも触れられたくない部分があるんだよ」

「人生の先輩って感じがしますね」

「だって、本当にキミの先輩だし。元在学生だからね」


 そういって彼女は逃げるように、話を切り上げてしまった。

 触れられたくない話か。たしかに誰にでもあるよな、そんなことはさ。

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