再会の時

少し傾斜のかかった杉の並木を越えると

川の水のせせらぐ音が聞こえてきた。

そのゆるく優しい川の流れと並行して

進むと、本殿、喫茶 土産物、神水の雫

とそれぞれ矢印が書かれた案内板があった。

「神水の雫」というのはどうやら山の湧き水で銘水と呼ばれるものらしい。

私が思い描いてたよりずっと観光地化されていた。


結構大きな神社ですねー。


と優美に言われが、


うーんこんなにお店とかあったかな?

小さい時の記憶だし曖昧ね……。




社務所は本殿に向かって進んだところの

鳥居の奥にあるようだ。


昔の記憶は曖昧だが本殿には確かに見覚えがあった。


優美と緑郎と話して、社務所に向かう前に

本殿に手を合わせに行く事にした。

本殿に祀られているのは水の女神様

弥都波能売神みつはのめかみ……。

伊弉諾いざなぎから生まれた神。

賽銭箱の奥には何畳もの畳がしきつめられていて。中央には大きな神棚が置かれている。

その横には掛け軸がかけてあり、

描けれているのは

弥都波能売神みつはのめかみ 様だ。


掛け軸の絵を遠目でじっくりとみる。

髪の長い綺麗な女性の神様が描かれている。


ん……?

心做しか

昔どこかで会った事があるような気が……。

気のせいかな……。



深月さん!!


優美があわてた様子で声を掛けてきた。


深月さん!!

あれ?!


優美が指差す方には大きな入口の扉がある。

その中央くらいに丸く型どられた紋が掘られている。

どうやら家紋のようだ。


花?


えっー…。

えー!!


優美が緑郎に耳打ちして

何かに気がついたようだ。


私も近づいて良く見てみる。


!!


気がついたかい?

その紋は甘野老あまどころだよ。


と、うしろから近づいて来た男が言った。


え??


振り返ると烏帽子えぼし狩衣かりいを羽織っている宮司か神主か……、



生駒先生?!



……いつか来るだろう。

いやむしろ来てくれると信じていたよ。

私は君に話したい事がやまほどある。

聞いてくれるかい?



ただ涙がでた。

この涙は何の涙?

真実へ近づけたから?

探してる者に出会えたから…

信心深く神への感謝…

いや単純に再会のへ喜び…

答えなどない。

きっと全てだから。

ただ先生の声を聞いた時

あたたかい。

そう感じた……。


先生……。

わたし……。



泣きじゃくった子供の様に

空気をうまく取り込めない。

伝えたい事があるのに、

言葉がでてこない。


わ…た…わたっ…

ヒック……ヒック……。


涙が止まらない。

あの日以来抱えていた事が……

あの日伝えられなかった事が……

溢れだして言葉にできない……。


浅倉……。



と悲しそうな顔しながら

先生が私の方へ来て抱きしめてくれた。


そのまま背中をトントンして……。


いいんだよ…慌てなくて……。

すまないね。

長い間こんな思いをさせて…。

少し落ちついて……。

それからでいい。

話したい事があるのは

私だけじゃないみたいだからね。


私はこの時の為に幾度か季節を乗り越えた。

人の心も季節と共に強くなっていく。

暑い夏を乗り越えて、

秋には実をつける。

その身は役目を終えると

朽ち果てて、

身実しんじつの核を撒き散らす。

冷たい冷たい雪の結晶も

土の中なら耐えきれる。

暗い闇の中でも、

土塊の養素が己を護る。

春を待ち焦がれて

暗い土の中でうずくま

埋もれている身実の種。

大地を潤す空の雫と

優しく微笑む

陽の光を

ただひたすら……。

ただひたすら待っているのだ。












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