カーテンを開けると、木が数メートルの間隔を開けてまばらに植わっている。

 夏が近いことを感じさせる。そんな青々とした緑が少し曲がった小道に影を落としていて、道行く人の避暑地を作り出していた。

 辺りの芝生とも言えないまばらに生えた草は、太陽光をたっぷりと浴びてのびのびと育っている。もうすぐ一斉に短く刈り取られるのだろう。なんだか可哀想に思えた。

 ベランダには小学校の頃の朝顔のプランターが隅の方に寄せられ、その手前には灰皿代わりの空き缶がずらりと並んでいる。エナジードリンクの缶ばかりで、兄が少し心配になった。

 遠くへ目をやれば、白と薄い水色のマンションが青空に溶け込むようにして並んでいる。そんな中、屋上付近のベランダに干されている赤い布が風に吹かれているのに、やけに目を引かれた。

 木々からの光や淡い色合いのマンションや空なんかでパステルカラーに仕上がっている世界に、突如真っ赤な布が飛び込んできてこの上なく目立つ。しかしそれが景色の邪魔をするでもなく、探していたパズルのラストピースのようにぴったりと納まるのだから不思議なものだった。

 自分の机に一番近いこの正方形の窓から見える景色は、殆どといっても良いほど緑が占めている。普段目を酷使することが多いからか、随分と目に優しい色合いだなと思った。

 だが春には桜が目いっぱい広がり、薄桃色が景色を埋め尽くす。これは花粉症にとっても嬉しい。自宅での花見ができる。

 夏も、青々とした緑が爽やかな夏らしさを伝えてきて悪くない。ただ、窓を開けていなくても蝉のモーニングコールで叩き起こされるので、早起きになる。

 秋は全体的に黄色っぽくなって、焼き芋が食べたくなるし、冬は運が良ければベランダに積もった雪が見られる。しかしこれはめったに無いことなので、ただ寒さが伝わってくるだけだ。

 春夏秋冬、365日。

 毎日色んな景色を見せてくれるこの窓だが、私が夜行性のためカーテンが開けられることは、殆どない。

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