第6話 ここは土足厳禁

 全く、何でこんな訳の分からないことになるのよ。

 突然知らない奴らが押しかけて来たと思ったら、人の物を強制的に使うなんて冗談じゃない。

 しかも、その間は持ち主である私はそれを使えないみたいなことも言ってたよね?

 意味が分からなすぎるというか分かりたくなくて嫌になるんだけど。


「…ってえな、おいっ! テッド、テメェ何しやがんだ!! 頭割れて脳味噌飛び散るかと思ったじゃねえか!」

「そんな訳ないだろう。お前のスッカラカンな頭に飛び散るほどの脳味噌が詰まってる訳ないんだから」

「何だと!?」


 チビの奴漸く復活したのか。

 しかし、空気読まない奴だな。

 今はそれどころじゃないんだが。


「それもそれも、全部この女の所為だ…。おいっ、そこのクソ女っ、……グエッ!!」


 今、一体何が起こった?

 チビが私の顔見るなり、立ち上がりこっちに向かって来ようとした途端、何かにぶつかったようになってるんだけど、何がどうなったんだ?

 チビの奴、まるで目の前のガラスに気付かずそのまま激突でもしたかのように顔が潰れてるんだが…。


「アイル…、俺達がこちらの世界で行動出来るのは限られた狭い範囲だと言われたことを忘れたのか?」

「脳味噌スッカラカンなんだから忘れてるんじゃないか?それ以前に理解してなかったのかもな」


 ん? 何だそりゃ? 行動出来る範囲が限られてるってことは、今チビが何かにぶつかったようになってるのはそれが原因なのか?


 しかし剣士と神官みたいな格好の少年二人、チビに対して言いたい放題だな。

 まあ、別にいいけど。


「ねえ…、もしかしてあんた達って、私がいるところには来れないの?」

「お姉さんまたしても察しがいいですね。お姉さんには見えないかもしれないけど、俺達との間には結界みたいなやつが張られてるんですよ。そして、俺達はその結界の向こう側には行けないんです」


 成程、チビはその結界にぶつかって顔が潰れたってことか。

 ん? ちょっと待てよ?


「私にはその結界とやらは見えないんだけど、あんた達には見えてるの? もし見えてるのなら、そのチビにも見えてるのよね?」

「勿論見えてますよ。このバカにもちゃんと見えてる筈なんですけどね」

「つまりそのバカチビは、見えてるにも拘らずそれに突進していったってこと?」

「その通りですね」


 うん、バカだ。

 確かにこいつらの言う通り、そこのチビは脳味噌スッカラカンなのかもしれない。

 しかも顔押し付けて潰れたままの状態で、そのままズルズルと下がっていってるんだが、それ、余計に痛いんじゃないのか?


「アイルがおバカで脳味噌スッカラカンなのは分かりきったことじゃない。それより、いつになったら修行を始めるのよ」


 おっ? 今までつまんなそうに黙ってた魔導士っぽい少女が、凄くどうでもいいみたいな投げやりな感じだけど漸く口を開いたぞ。

 それにしても、何か不機嫌そうだな?


「ナリア、お前は何を不貞腐れているんだ?」

「だって、修行場所と道具の提供者が女なんて冗談じゃないわよ。あたしは男の方がよかったのに」


 悪かったな、私だって好きでこんな状況になってる訳じゃないんだ。

 寧ろ他の奴のところ行ってくれるのなら大歓迎なんだが。


「おいおいナリア、流石にそれはお姉さんに失礼だろう。お姉さんだってこの状況に納得してる訳じゃないんだから」


 うん、その通りだ。

 まだ私は納得した訳じゃないぞ。

 悲しいことに現実はそうもいかないような気がしてはいるけどな。


「そんなこと言ったって、あたしが――――ってことは、あんた達だって知ってるでしょ?」


 おい、年齢制限に引っ掛かりそうなことをしれっとぶっ込んでくるな。

 魔導士少女、大人しそうな顔して変態なのか?


「お前が変態なのは知ってるが、この状況で自分の欲望を曝け出すのはやめろ」


 あ、やっぱり変態なのか。

 剣士の言う通り、この状況で欲望に忠実になるのはやめてほしいな。


「それの何が悪いのよ。効率は大事でしょ?」

「お前の場合は効率どうこう以前の問題だ。しかも男なら年齢も容姿も関係ないなんて何を考えてるんだ」


 男なら誰でもいいのか…?

 それはそれで危険な気がするんだが。


 ただ、変態魔導士少女、胸の辺りが見事に真っ平らなんだよな。

 いや、人の好みはそれぞれだから、それが好きな男もいるだろうが、魔導士少女の欲望通りの展開になるのは中々厳しそうな気がするんだけどな。


「そこまでにしとけよ。ナリアの変態っぷりに付き合ってたら埒が明かないだろ」


 そうだな、神官の言葉には同意しかない。

 このまま延々とそんな話聞かされても困るしな。


「何か、私の了承なんてなくても、私のタブレット使って修行するのは既に決定してるような気がするんだけど?」

「…まあ、そうですね。今更他のところには行けませんし、了承してもらうっていうのは気持ちの問題とでも言いますか…」


 うん、そんな気はしてた。

 してたけど、やっぱり納得いかない。

 ついでに、異世界から来たっていうのが冗談じゃなさそうってのも認めたくない。


「それに了承してもらうまでは、俺達もここから動けないというか、一旦元の世界に帰ることすらも出来ませんし…」

「…分かったわよ。納得はしたくないけど、了承するしかないみたいだし。ただその修行に関することで、もっと詳しく話を聞かせてほしいんだけど」

「本当ですか!? ありがとうございます! 勿論、今分かる範囲でしたら何でも出来る限り詳しく説明します」


 剣士がホッとした顔で頭を下げる。

 本音は了承なんてしたくないけど、いつまでもこのまま居座られるのも嫌だしな。


 さて、確認しておくべきことは何かなと思いながら視線を下げたところで顔が引き攣った。

 お陰で、話の流れをぶった切るようなことを口走ってしまったじゃないか。


「その前に、ここは土足厳禁なんだけど!」


 こいつら、全員揃いも揃ってブーツみたいなの履いてやがる。

 しかも、何か埃っぽいというか薄汚れている。

 流石にそれを履いたままでいるのはやめてほしい。

 文化の違いもあるだろうが、そこはちゃんと言っておかないとな。


 ああもう、つい土足なのが気になって私自ら話を遮るような真似をしてしまったじゃないか。

 さっきから全然話が進んでないっていうのに、一体いつになったら収拾がつくのか不安になってきた。

 本当に、何でこうなったかなあ?

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