第7章 急に決まった休みに

第36話 思ってもなかった話

 寮の部屋はとりあえず無事だった。

 ガラスもひびすら入っていない。

 とりあえずパソコンを立ち上げ、学内ネットに繋ぐ。

 今回の戦闘についてのアンケートが来ていた。

 部屋の損傷から怪我、学用品等の損害等についてだ。


 機械的に打ち込みながら思う。

 茜先輩、大丈夫だろうかと。

 先輩からはまだ返事が返ってきていない。

 俺達と違って学外に出ているからすぐには返信できないかもしれない。

 そうはわかっていても気になる。


 学内掲示板には今回の戦闘についての速報が出ていた。

 真っ先に被害者のところを確認する。

 自衛隊に重傷者2名、軽傷者15名、その他軽傷者7名と出ている。

 生徒や教官等は被害者無しだ。

 つまり茜先輩は大丈夫。

 少し安心して、そして他の情報を確認する。


 今回の敵は魔人1体、魔物が各種あわせて324頭。

 魔人はS2A級とある。

 Sが魔人、魔王を意味し、S2となるれば最上位の魔人。

 ちなみにS1が魔王でS0が大魔王だ。

 Aは戦闘力と魔力の合計で、これの上にはSがあるだけ。


 つまり今回の魔人は最上位魔人で戦闘力Aという訳だ。

 下位の魔王だと戦闘力Bなんて事もあるので相当に強い。

 よくこの規模の自衛隊と学校で対処出来たなと思う。

 本来なら地域紛争になってもおかしくないレベルだ。


 それだけの規模にならなかった理由も書いてある。

 戦闘があった学校がある区域は2つの世界が混じって世界線が他地域とかなり異なっている。

 だから戦闘のような事案を学校付近以外にまたがって展開出来ないらしい。


 都合のいい話だなと思ってふと気づく。

 都合が良くなった訳で無く、都合を良くした可能性に。

 元々この学校を含む件は魔王出現に対する軍事協力からはじまった事案。

 なら戦場を拡大させないという研究もやっている可能性は充分にある。


 この先、ここはどうなるのだろうかと思う。

 魔王を倒すまではこの体制が続くのだろうか。

 魔王を倒した後はどうなるのだろうか。

 今の状態のまま続くとは俺には思えない。

 人によってはここと外出時の通貨すら違うという状態のまま。

 世界は混じっていくのだろうか、離れていくのだろうか。

 離れていくとしたら遙香に会えなくなるのだろうか。


 スマホが振動した。

 茜先輩かな。

 見てみるとメッセージが2通来ている。

 1通は茜先輩。

 無事だという連絡だ。


 そしてもう1通は何故か知佳すざき

『話をしたいけれど公園区画に来れる?』

 そんなメッセージだ。

 公園区画とは研究棟前の緑地風になっている場所。

 確かにラウンジは大破したし厚生棟はそれ以外も被害が多そうだから、顔を合わせられる場所はその辺しか無いだろう。

 でも知佳すざきが何の用だろう。


 とりあえず用事等は無いのでOKと返答しておく。

 すぐに、

『なら今からお願い』

という返信が来た。

 何だろう。

 知佳すざきが俺の用件というのはいまひとつピンとこない。

 でも一応服を着替えて部屋を出る。


 被害がほぼ無く暇つぶしの買い出し連中であふれている厚生棟1階を通り、事務屋が忙しそうにしている本部棟を抜け、研究棟手前から外に出ればすぐ公園区画。

 夏の暑い最中屋外に好き好んでいる奴はそういない。

 だから知佳すざきはすぐ見つかった。


「あれ、知佳すざき1人?」

 今日はしおつ無しの1人だ。

 てっきりいつもと同じように一緒だと思っていたのだけれど。

 

「今日は彩がいない方がいい話なの。でもここ暑すぎるわね。川に移動しましょ」

 確かに暑い。

 盆地というか谷間だから風が動かないのだ。

 朝の天気予報でも秩父の最高気温は関東では最高レベルだったりする。


 自衛隊車両が行き交っている道路を渡って川へ。

 ここは先に発電所の取水口があるので池のような状態になっている。

 何回かに渡った魔獣の侵攻でもこの辺は被害に遭っていない。

 川沿いの日陰になるちょうどいい石に腰を下ろす。 

 すこしだけ涼しい風が吹いてきた。

 ついでに魔法で座っている石の温度を少し下げる。 

 これでかなり過ごしやすくなったかな。


「ありがとう。どうもこういった細かい温度の調整は得意じゃないから」

「それで何の用だ?」

 知佳すざきとは同じクラスで同じ魔法研究会だがあまり絡む事は無い気がする。

 知佳すざきとペアのしおつとは何かにつけ一緒になるけれど。


「孝昭さ、彩の事をどう思う?」

 どういう意味だろう。

「クラスメイトで同じ魔法研究会だけれど」

 確かに魔力も近いし絡む事は多いけれど、特に何かあっただろうか。


「彩、ああ見えても結構男子に人気あるのよ。顔だって割と綺麗目だし可愛いし、真面目で努力家だし。ちょっとどんくさいところもあるけれど」

「それはわかる気がするな」

 確かにしおつはモテるタイプかもしれないなと思う。

 この学校は女子ばかりだけれど、その中でもかなり可愛い方ではあるだろう。


「それで孝昭はどう思う?」

「どう思うって、確かにしおつはモテるタイプかもしれないなと思うけれど」

「孝昭自身はどう思うか聞いているの」

「そう言われても……」

 うーん。

 どう答えればいいのだろうか。


「もう話が進まないから言っちゃうけれどね。彩、孝昭の事が好きなのよ。それで孝昭が彩の事をどう思っているかが知りたいの。彩の事をどう考えているか。今は駄目でもチャンスがあるか。彩は私が言うのも何だけれどいい子だしね。だから出来れば両思いになってくれるといいなと思って」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る