第6章 魔人の侵攻

第30話 見えた原因

「向こうの世界にいた私はそんな感じでこの学校にやってきて、今に至っているという訳だ」

 茜先輩は喫茶室で遙香が話しかけたところまで説明を終えた。


「お兄もそうやって他の高校から転校してきた記憶があるの?」

「ああ」

 俺は頷く。


「あのお金も電車もカラオケの曲も、その転校してきた方の世界なの?」

「その辺は微妙なんだ。ベースは確かにその世界なんだけれど、少し変化してしまっている。厳密にあの世界のままじゃない」


「そもそも何でこんな事が起こったのかはわかっていないよね、やっぱり」

「ああ。事態の中心地がここと自衛隊の建物の間というのはわかっているんだが。実際自衛隊が何か関わっているのは確かだと思う。魔獣が出てきたのが自衛隊分屯地からだしな。でもそれ以上はわからない」


「もし自衛隊が絡んでいるならば、国が絡んでいる可能性も高いよな。少なくとも21世紀日本の方は。この学校と研究施設を一気に作ったところを含めて」


「でも結局推測でしか言えないんだよね」

「一介の高校生じゃ入る情報もたかが知れているからな」

 茜先輩が肩をすくめてみせる。

 確かにその通りだ。


「それで結局どうなるのかな」

「まだ見えない」

 緑先輩が首を振る。

「ただ、もう少し世界が変わるのは確か」


「どんな風に変わるんだ、緑」 

 茜先輩だけで無く俺達全員、綠先輩の方を見る。


「また魔獣が学校を襲撃する。今度は小型だが数が多い。そしてこれで敵が明らかになる」

 妙な単語が出てきた。

「敵とは何だ?」

「21世紀日本には無かった存在。だから今の私では見えない。でも向こうでは既知の存在の筈」


 水瓶座時代にあって21世紀に無い存在か。

 魔法、魔物、魔獣といったところだろうか。

 魔物や魔獣は確かに敵だけれど、綠先輩の台詞のニュアンスだともう少し強大な存在という気がする。

 いわゆる敵国とかと同じような存在となると……


「21世紀と呼んでいる世界でここと同じような事が起きたのは他にあるの? たとえば他の国とか」

 遙香に聞かれてちょっと考える。


「確かアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、ドイツ、フランスだったかな」

「いわゆる『ファイブアイズ+3』国家だな」

 確かに茜先輩の言う通りだな。

 そう俺が思った時だ。


「そう言えば某国で魔王が復活しそうだからその枠組みで何かしているってニュースで出ていた気がする。でもこれって関係あるのかな」

 遙香がそんな事を言う。


「そんなのニュースに出ていたか?」

「今朝のニュースで出ていたよ。ネットでも」

 遙香がスマホを取り出して操作をする。

「ほら、これ」


『「ファイブアイズ+3」と呼ばれる米国や英国など5カ国と日本、ドイツ、フランスの3カ国は、昨今の侵略的政策から孤立を深めている●国の……』

 そんな記事が表示されている。


「どれどれ」

 俺達3人の中央にスマホを置いて皆で読んでみる。

 ふむふむ。

 記事を大雑把にまとめると、

  ① 昨今から侵略的政策により孤立しつつある某国が、

  ② 折からの新型ウィルス感染症と異常気象で深刻な被害に遭い、

  ③ ②による不況と孤立により諸産業のバブルがはじけ、

  ④ 国民が貧困化し、死者も多数出ていることから、

  ⑤ 政権中枢が魔王化する事を危惧したファイブアイズ+3諸国が

  ⑥ 昨年末から合同作戦をとっていることが判明した。

という内容だ。


「ちょっと待った。これってもろこの件の原因じゃないのか。21世紀側で起きた件とリンクしているだろう、これは」


 茜先輩が言うとおりだ。

 確かにこれは21世紀側で魔法が使えるようになる現象が発見された国と同じ。

 その頃から計画を進めていたなら魔法が使えるようになった時期も納得出来る。


「いずれにせよこれで筋書きはほぼわかった。魔王を倒す為、他の世界を近づけて情報を入手できるようにした訳だ。この学校が出来たのもその計画の一環で、研究を共有できる世界を作る為。他に影響が及ばないよう、わざわざ人里離れた場所に全く同じような施設を作って、更に魔獣等を使って意図的に世界が重なり合う場所にしたのだろう」


「同意」

 緑先輩が茜先輩の言った事を肯定した。

 つまりここが出来てこの状態になっている理由は今言ったとおりという訳か。


「しかし何でこんなニュース、見逃していたんだ私は。ちょっと待ってくれ。私のでも出してみる」

 茜先輩は学校支給のタブレットを取り出して操作を始める。


「でもこんな風にニュースになるような事が原因なら、綠先輩の魔法でもっと早くわかるんじゃ……」

 綠先輩は俺の疑問に対して首を横に振った。

「私は21世紀側の人間。そっちの記憶を持っていない。だから教えられない限り水瓶座時代世界からの情報は入らない」


「くそっ、何で出ないんだ。タブレットだけじゃない。私のスマホでも出ない。同じアドレスを指定しているのに」


 インターネットの性質からして本来そんな事はあり得ない。

 偽装DNSサーバ等に引っかかっていなければ単なるアドレスの打ち間違いの筈。

 でも茜先輩がその事を知らない訳はない。


「おそらく水瓶座時代の世界でなければ取れない情報。混じっている此処では21世紀世界に対応する対象がいない者しかその情報を取れない。私達が知る事が出来たのは遙香のおかげ」


「同じ場所にいるのにそんな事があるの?」

 遙香の疑問に綠先輩は頷く。

「同じ場所にいても受け取る情報は各自違う。同じものを見ても各自違う受け取り方をするように。今は世界が混じっているから余計複雑」


 この辺は前に先輩達が説明してくれたな。

 2人で話す形で。

 確かその結論もおぼえている。


「でも信じている限り共有できる、でしたっけ。綠先輩の結論は」

「だから遙香が出した情報を私達も読むことが出来るし感じる事が出来る」

「そしてそれが出来る限り、私達はわかり合えるという訳だ、同じ土俵で」

 綠先輩と茜先輩はそれぞれそう言って、そして大きく頷いた。

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