第11話 最初の異変

 朝の教室。

 昨日の食堂での尋問は、何故か今朝も周りを巻き込んで続いている。

 どうやら昨日1時間かけて解決したと思ったのは幻想だったようだ。


「何だよ。そんな綺麗な先輩がいるなら紹介してくれてもいいだろう」

「同意だ」

 有明と北村までそんな事を言いだす始末。


「単に久しぶりに会ったから話をしたという程度だ」

 だいたい女子ならこのクラスだって27人が女子だ。

 男子は6人しかいないのに。

 なんて思った時にスマホが振動する。

 何だろう。


「おっ、麗しの先輩からか?」

 見てみると確かに茜先輩からだ。

 ただ文面が妙だ。

『何かあったら窓際から離れろ。机も有効に使え』

 何だこれは。

 緑先輩が何か予知したのだろうか。


「どうした、放課後の密会か?」

 のぞき込もうとする有明に画面を見せる。

「何かあったら窓際から離れろだとさ」

「どれどれほんとうかな」

 塩津さんまで画面をのぞき込む。


 確かにこの席は窓際だ。

 数少ない男子が一列に並んでいる。

 ちなみに列から1人あぶれた有明は窓際から2番目の列。

 俺の横に座っている。


「どういう事だろうね?」

「俺もわからん」

「まさか外から怪獣が襲ってくるとかはないだろう」

 窓の外は林と梅雨の空。

 特に変わったところは無いように見え……えっ。


「何だあれは」

 俺より有明の方が気付くのが早かった。

 谷側から駐車場方向へ、ワンボックスカー位の褐色の何かが動いてきている。


「ファンタジーな生き物だね。地竜という奴なのかな」

 塩津さんも気付いたようだ。

 もっとよく見てみようと思った瞬間、茜先輩のメッセージを思い出した。


「逃げるぞ」

「えっ、折角珍しいものなのに」

「何かいるの?」

 教室内の他の連中が気付いたらしい。

 窓際に寄ってこようとした時だ。


『緊急放送です。生徒は道路側の窓から教室内廊下側へ移動し、机の下等に隠れて下さい。繰り返します。生徒は道路側の窓から教室内廊下側へ移動し、机の下等に隠れて下さい』


 放送の直後。

 ズドドドドドン!

 明らかに銃声、それもかなり大物の音が窓を震わす。

 とっさに窓の方を見ると、塩津さんが地竜と呼んだ奴がこっちを向いた。


 やばい。

 逃げるのは間に合わない。

 とっさに机を持ち上げ斜めにして、俺とすぐ横にいた塩津さんをカバーする。

 次の瞬間、強烈な衝撃が襲ってきた。

 窓ガラスが割れ、更に熱い風が吹き抜ける。


 ズドドドドドン! ズドドドドドン! ドドーン!

 窓の外では銃声と爆発音。

 衝撃の第二波に備え、持っていた机の下に隠れる。

 だが次の攻撃は来なかった。


『一斉放送です。生徒は教室で待機してください。教員が急行します。繰り返します。生徒は教室で待機してください。教員が急行します。なお怪我等については教員が急行した後、教員の指示に従ってください。怪我等については教員が急行した後、教員の指示に従ってください』

 

 銃声は聞こえない。

「大丈夫?」

 そう言おうとして思った以上に塩津さんの顔が思ったより近くにあった。

 慌てて逃げるがぱっと見には怪我は無さそうだ。

 教室内はと見ると、顔を切ったのだろうか。

 最前列の田中がハンカチで顔を押さえていて、少し出血している。

 あとは前の方の女子が2人怪我をしているようだ。


 そう言えば俺の腕とかもガラスが当たった感触があったよな。

 見てみるがどうにもなっていない様子。

 そう言えばこの服、軍服と同じ規格らしいよな。

 それが今回は役に立ったようだ。

 普通の服ならガラスで切れていてもおかしくない。


「大丈夫か」

 担任が入って来た。

 さっと教室内を見回して口を開く。


「重症者はいないな。ガラスで切った程度の怪我については心配いらない。治療魔法を使える魔法使いが順次回ってくる。跡を残さず治るそうなので安心してくれ。

 あと本日はこれ以降休校だ。学校の再開についてはネット上で掲示する。自室のパソコンやタブレットで随時確認してくれ。また今ので備品のタブレットパソコンが壊れた奴は後に交換する。現物交換だから今は壊れたのを持って帰ってくれ。手順は後にネットで流す。


 それじゃ怪我が無い奴はこれで解散だ。ただ寮の自室には一度必ず帰ってくれ。寮の部屋についての被害状況の調査がある。これも学内ネットで回答になる」


「さっきのメッセージ、当たっていたね」

 塩津さんがぽつりと言った。

 

「みたいだな」

「そうだ。川崎の先輩はこの事を知っていたのか?」

「茜先輩じゃないと思う。茜先輩のクラスメイトか誰かの魔法だろう」

 あえて緑先輩の名前は出さない。

 迷惑がかかると申し訳ないから。


「とりあえず寮へ戻るか」

「だね」

 俺の周りは怪我した奴は幸いにいなかったので、鞄を持って教室を出る。

「そう言えば川崎、ありがとう」

 塩津さんに突然そんな事を言われた。


「何が」

「机で私の事ガードしてくれたよね。おかげで助かった」

「怪我しなかったのは運だろ」

「私に関しては川崎のおかげだと思うの。結構ガラス降って来たし」


「あとはこの作業服がやたら丈夫なおかげかな」

 何か恥ずかしいのでそう言って誤魔化す。


「確かにそれもあるよね。結構ガラスが当たったけれど傷は全然無いし」

「これって自衛隊の戦闘服3型の色違いだろ」

 有明も知っていたようだ。

 でも俺はあえて知らなかったふりをする。


「そうなのか?」

「ああ。裏はとってないけれどデザイン的にはもろ戦闘服、柄が黒一色か迷彩柄かの違いくらいだ。もしそうなら普通の服より遥かに丈夫だし防炎性能までついている」

「何でそんな服が制服代わりになっているんだろ」

「魔法を使った時の安全性確保の為ではないだろうか」

「だったらいいけれど、何か意図を感じるよね」

「というか銃とかミサイルなんて何処にあったんだろ?」

「でも自衛隊は結構出入りしているよねここ。ヘリも毎日飛んでいるし」


 そんな話をしながら寮へと向かう。


「ところで寮の部屋は大丈夫かな」 

「かなり離れているから大丈夫だろ」

 歩きながらふと思いつく。

 そうだ、帰ったら先輩にメッセージを入れておこう。

 おかげで無事でしたと言っておかないとな。

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