第二話 精霊と契約したよ

「今はゆっくりおやすみ」


そういってあの女は部屋を出ていった。


『まったくあの女、どの面下げて…まあ、ある意味あいつのおかげでこうしてあたしがここにいることができるわけだけど』


そんな声が頭の中から続けて聞こえてくる。まわりを見渡しても、この部屋には私以外の姿はない。まあ頭の中から聞こえるわけだから当然だけども。


(そもそもなんなんだろう、この声)

『よくぞ聞いてくれました!!私はアルト!あなたが浄化してくれた湖に住んでいた精霊よ』


なんと声の正体は精霊さんだった。たぶん私の頭が作り出したイマジナリーフレンドって奴なんじゃないかな。脳の構造がまだ子供の物だろうし、あり得ない話じゃないと思う。


『ちっがーう!!!あたしはちゃんと実在してるわよ!!でもあなたの頭の中にいるのは本当。今は声しか聞こえないだろうけど成長すれば姿も見えるようになるわ』


どうやらイマジナリーフレンドではないみたいだ。赤ん坊の脳だからそんなことあるかなと思ったんだけど。


『まあ。わかってもらえたならいいわ。そんなことよりハイデマリー。あなたにお礼が言いたかったのよ。あなたがあの湖を浄化してくれたおかげであたしはまた意識を取り戻すことができたわ。本当にありがとう』


どうやらあの毒の沼はこの精霊アルトさんの御神体のようなものだったらしく、状態がリンクしていたらしいのだ。その湖を本来の状態に戻し、アルトさん自身も本来の状態に戻ったということらしい。


(まあ、私が何かしたって実感はないけどね)

『それでもよ。あなたには本当に感謝しているわ』


さっきから考えを見透かされているようで少し不快だが、頭の中にいるなら仕方ない気もする。


『そこには目を瞑ってちょうだい。「契約」までの辛抱だから』


契約?なんか急に変な雰囲気になったな。変なサプリとか買わされない?


『そんな悪徳商法みたいなマネしないわよ!!「契約」っていうのはそうね…あたしとあなたが対等になる儀式みたいなものかしら。いくら300年ぶりに現れた聖女でもさすがに精霊の方が上位の存在なの。まあ聖女も肉体を持つ生命体の中ではトップクラスなんだけどね』


ここに来て初めて聖女について話が出た。契約、精霊、うんぬんかんぬんの前に聖女についても何も知らない私です。


『そうね。それについても後で説明するわ。でもまずは契約よ。あなたも頭の中をのぞかれ続けるのは嫌でしょ』


それは確かにそうだ。まあ説明だけは聞いてみよう。


『まず契約っていうのはさっきも言った通り対等になり儀式みたいなものよ。これをすることで、あたしはあなたの頭の中をのぞくことができなくなる。それにあたしはあなたの力を使えるようになるし、あなたはあたしの力を使えるようになる。まあ、対等な関係ってそういうもんよね。要するにあなたは契約することで精霊術師になるわ。私の力を引き出して使える。っていうのはそういうことね まあ水に関することなら基本的に何でもできると思ってくれていいわ。ちなみに精霊術師は同時に四人までしか存在しない。この世界の精霊は風、火、雷、そしてあたし水の精霊しか存在しないの。だから最大でも四人ってわけ。ここまでいいかしら?』


精霊・・・明らかにチート生物じゃん。水に関することなんでもできるとかやばい。でもなんで私なんかと契約する気になっただろう?


『もちろん、お礼も兼ねているけど・・・あたしは誰かと契約すれば自由に世界を動き回れる。本来はあの湖から遠く離れることはできない。けど契約すればそれが可能になる。あたしは世界を見てまわりたい。まだ誰も見たことのない秘境やたくさんの景色を見たい!!もちろんあなたのやりたいことにも協力するわ。だからお願い!!あたしと一緒に行きましょう!!』


もともとこんな子供を自分の道具としか思ってない母親のもとを早く離れたい気はある。まあ要するに結論は一つ。


(わかった。アルト。あなたと契約するよ。だけどすぐに出発することはできない。ある程度成長して、力をつけてからになる。それでも良ければってことになるけど…)

『もちろんよ。魔法に関しては私が教えられるし体のことも「成長促進」の魔法をかければ少しだけど早く成長することができる。準備を整えたら出発よ!!!』


そのうれしそうな声に見えないはずの彼女の満面の笑みが見えた気がした。


『そうと決まれば善は急げよ!!早速契約しちゃいましょう』


声を出さなくても契約ってできるんだろうか。そんな疑問はすぐに吹っ飛ばされた。


『大丈夫!契約するということを念じてくれればいいから』


それだけ告げるとアルトは何かを唱え始めた。


『我、汝と因果を望む者也。水と聖。この契り破られること決して無かれ。』


それと同時にまたもや、青白い光が私を包んだ。湖で見たこの光はきっとアルトのものだったのだろう。


『契約の締結を受理しました。』


さらにあの時の声まで聞こえてきた。


『ふう。これで契約完了よ。安心して。あんな文言だけど解除したところで何もデメリットはないから。それに頭の中をあたしが見ることはできなくなったけど、契約で生まれた繋がりのおかげで意思疎通はできるからそこも安心していいわ。』


それはまあ予想通りだ。意思疎通できなくなるならいま契約する必要はないからね。話せるようになってからでいいわけだし。


(契約以外にも気になることがありすぎるんだけどいろいろ聞いてもいいかな?)

『もちろんよ。なんでも聞いてちょうだい。ハイデマリー!!』


心底うれしそうな声が聞こえた。

魔法について、聖女について。知りたいことはたくさんだ!!!

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