初登校

「うん、中々様になってるんじゃなかろうか」


 父さんと別れたその翌日、今日からはとうとう入学の日である。

その朝、早速と制服に袖を通す、メリエル学園では男子は陸軍の軍服を女子は海軍の軍服を模した制服を着るのが伝統となっている。ただ軍人と学生の区別がつくように学生は襟元に若葉を模した徽章を付ける事が義務付けられている。女子はそれとは別に下はズボンでは無くスカートを着用する事とされている。


「おはようございます……って、誰もいないよね」

「いますよー、おはようティグレ君」

「起きてたんですね、ハンナさん」


 下宿している部屋は二階にある(冒険者の宿は三階建てとかなり大きい)そこから外へ出る為の唯一の出入り口があるロビーに降りる、誰もいないだろうと思っていたら既に奥の厨房で何か食事の準備をしていたのか、ハンナさんから声をかけられた。

 一応、閑古鳥が鳴くような冒険者の宿でも規定がある為、朝には開いておく必要があるのだとか。


「詰襟似合ってるよ、はいこれ、朝ご飯、何も食べないでいくつもりだった?」

「行き途中で適当な屋台で買おうかと、ありがとうございます」

「買い食いはお金かかるわよ、これからも朝ご飯作ってあげるから、食べなさい」

「部屋だけじゃなくて、ご飯まで、何から何までお世話になります」


 ハンナさんは僕にウィッチパンを用意してくれる、野菜とハムなんかを焼いてないパンで挟んだ、朝に手軽に食べれる食事だ、ウィッチという貴族お抱えのシェフが

早朝にも関わらず忙しい主人に片手間で朝食が出来る様にと考案したものだそうだ。

 ハンナさんの手厚いお世話に御礼をいいつつ、初日から遅刻はいけないと最後は水で流し込むように食べ終え、いざ出発。



――――――――――――――――――――――――――――――――――



「何度見ても、大きな鉄門だな、中も相当な規模だし……あれは」


 いくつもの坂を超えて学園へ、鉄扉を超えた先には巨大な学園が待ち受ける。

相当な規模と言った学園内、1~3年生が通う低学年棟、4~6年生が通う高学年棟。

 職員室や特別な授業の際に使われる部屋のある特別棟、職員会議や生徒達の活動で大きな部屋が必要な際に使われる会議室棟、学園に寄贈された蔵書や資料等を保管、管理する資料棟と呼ばれる5つの棟の他にも。


 室内での運動を行える大ホールや毎日食事を提供する食堂にグラウンドがあったりだとか、この学園の広い事。これにおまけで学生寮も備えてるというのだから、凄い学園に来た者だと何度目かも分からぬ戦慄を覚えながら、僕は一つ低学年棟へ入る為の玄関口の前に集まる僕と同じくらいの背丈の集団が目についた、彼らがそこに集まっている理由、それは。


「あれはクラス分けの掲示板だな、どれどれ…………!?」


 白い板の上に貼り紙とそこに名前が書かれているの見える、自分のクラスを確認してそこに行くようにと言う事だろう、集団の何人かは確認し終えたのか玄関の方へと向かっている、僕もそれに倣おうと少し近づけば、周りの子は目を丸くしたり中には青ざめる奴もいた、そんなに僕が怖いのかね。


 まぁ、そんな神経質な人を僕が気にしても逆に刺激するだけだろうと無視を決めてから、貼り紙を見る、最初に自分の名前が1年1組と書かれた後から続く名前の列に入っているのを確認出来た。それと同時に僕のクラスに並ぶ二つの名前に一つに安堵を、一つに驚愕を覚えた。この名前が正しいなら、僕はとんでもない人と同じクラスという事になる。ただ、それと同時に奇跡的に僕が気がねなく会話が出来る友人と共にいられると言うのは。


「不幸と幸運が同時にやって来たと言うべきか」


 いや彼女の存在を不幸とすれば僕は不敬罪で死ぬな、どっちも幸運と思うんだ。


 大公の娘キャサリン・メリエルと唯一無二の親友、ステラ・シャンプーと机を並べる事を。






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