家出

 先生の稽古を受け始めた春から季節が巡って夏が始まりました。

森の中はますます賑やかさを増したそんな日の頃、お昼ごはんを食べ終わり少しした頃。

先生が来る前に先に来て準備運動をしているとその子は来ました。


「…………」

「あ、ステラ、おひさしぶりなのです、またきてくれたのですね」

「ティグレ君…………っ」

「す、ステラ? いきなりどうしたのです、な、ないてるのです!?」


 ステラは僕の顔を見ると急に抱き着いてきて、泣き出してしまいます。

どうしたのでしょう? 泣き止んでもらうにも、どうすればよいのでしょう?


「な、ないてばかりじゃわからないのです、どうしたのです」

「う、ふぐっ、えっぐ」

「今日も朝早いのうトラ、そういやさっき嬢ちゃんが……なんじゃこれ?」

「あ、せんせい、ぼくにもなにがなんだか、た、たすけてください!」


 ステラに話を聞こうにもステラはずっと泣いてばかりで話を聞けません、先生が来てくれさえすれば、なんとかならないかと思った矢先に先生は来てくれました。

 どうやらステラがここに来てたのを見ていたそうです。そして僕に抱き着いて泣いているステラを見て、何がどうなったのかと言う顔です。

 とにかく話を聞かせてもらわないと始まりません。


「まぁ、落ち着くまでそのままでいるとよい、今日の稽古は無理そうじゃな」

「えぇ、助けてくれないのです? あのー、ステラ暑いので離れてくれたり」

「…………や」


 先生は今日の稽古は無しと判断します、最近は稽古続きだったのでまぁそれはよいのですが、日に日に増していく暑さゆえ、抱き着かれているのは少々暑いです。

 離れて欲しいといっているのに、ステラは短くそう答えて離れてくれません。


 泣き止んではくれたみたいなので。それを見た先生は秘密基地で事情を聞こうとするといって、僕の秘密基地のソファにステラを座らせます、僕はその隣で腕を掴まれている訳ですが。


「で、何故さっきまで泣いておったんじゃ?」

「おうち、でてきた」

「家出と言う訳か? なぜじゃ」

「わたしはいらないこだから」

「……そんな事は無いと思うんじゃが、今頃嬢ちゃんを大切だと想って探しとるよ、帰った方が良いと思うぞ」

「や! かえったらまたおかーさんにとじこめられるもん!」

「ふぅむ……トラ、しばらく嬢ちゃんと一緒にいてやるんじゃ、儂は出かける」

「えぇ!? わ、わかりました」


 先生はステラの話した事を聞き終えると立ち上がって秘密基地を出て行きます。

せめて行き先だけでもと追いかけようとしましたが、先生の早い事、出て行ってすぐに見えなくなってしまいました。ステラは今も僕の腕を掴んだまま離れません、このまま僕はどうすればよいのでしょうか。


「そのー、ほんとうにおうちにかえらないのです」

「や」

「でも、せんせいもいってましたよ、かぞくがしんぱいしてるって」

「してないもん」


 凄い意地っ張りです、まともに話をする事すら出来ません、そもそもどうやってここまでこれたのでしょう? 閉じ込められたと言ってましたが。

 その事を尋ねれば、この前一緒に才能鑑定をしに行った日に付き添いで来ていた人が外にこっそり出してくれたそうです、そして街の外に出ないのであれば遊んできていいですよと言ってくれたそうです。思いっきり街の外に出ているのです。

 その後も何度か街に戻るよう呼びかけようとしましたが不貞腐れるばかりで。

話すらする事が出来ません、疲れました。


「ステラ、もうひがくれます、かえりましょう」

「ここにとまる」

「もりはまっくらですよ、あぶないのです」

「もうほっといてよ!」

「むぅ……わかりましたよ、こわくてないてもしりませんよ!」


 もう知りません、どんなに泣いたって僕には関係ありません、そう思いながら僕は秘密基地を離れて家へと帰る事にします、まぁ、日が暮れる前には先生が迎えに来る

事でしょう、女の子ですし大人の先生がまた説得すれば素直に帰るに決まってます。



――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ティグレ? スプーンが止まってるわよ、もしかして美味しくない?」

「…………え? いえ、おいしいですよ……おかわりなのです!」


 その日の夜、僕は夕飯を家族で囲み食べている時にふと、ステラはどうしているかが気になり、スプーンの手を止めていたようです、気に賭けたかあさんが声をかけるので、お皿に残ったスープを飲み干して突き出します。あの後、先生が来るかを街の方の道を見て待ってみましたが、戻って来たのは兄さんと姉さんそして父さんだけでした。もしかしていまも森の中に…………


「ティグレ、ぼーっとしてどうした? もうスープは来てるぞ」

「っは、ちょっとがんがえごとをしてました、たべますよ」

「ティグレが考え事だなんて、何かしら? お姉ちゃんが教えてあげてもいいわよ」

「だいじょうぶです、ちょっとしたことなので、かあさん、このパンおへやにもっていってもいいです? あとでたべるので」

「あらそう、別にいいけれど、床に零したクズなんかはすぐに拾うのよ」

「わかったのです、ごちそうさま」


 そんな事を考えていたらいつのまにかスープは運ばれていて父さんに運ばれてるのを指摘されたので、再び食事に戻ります、姉さんのお手を煩わすようなことでもないので姉さんの優しさはやんわりとうけとめます、しかし、考えていた事が本当なら。


「…………にいさんはねた、いまですね」


 兄さんは稽古があるのでご飯を食べた後はお風呂に入ってすぐ寝ます。

こうなれば外に抜け出すのは簡単、窓からそっと抜け出し、持ちだしておいたパンを布に包んでいざ森へ……の前に、物置のランタンを借りて行きましょう。




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